世界のサプライチェーンが再編され、大国が関税と技術規制の壁の内側に引きこもろうとする時代に、太平洋をまたぐ二つの地域が、静かに別のシナリオを描こうとしている。
8月24〜26日、米州開発銀行(IDB)グループと日本の財務省は、東京に官民約300名の要人を集め、「Japan-LAC Business Forum (日本・中南米 ビジネスフォーラム)」を開催する。日本のIDB加盟50周年を機に、大国間の地政学的対立ではなく、太平洋間の「イノベーション」を新たな協力章の軸に据える試みだ。

ワシントンに本部を置くIDBは、今月、東京で在日中南米諸国の大使らを集めた説明会を開き、フォーラムの狙いを共有した。そのメッセージは、日本企業を意識してのものだ。「日本と中南米・カリブ地域が距離を縮める、極めて重要な瞬間だ」とIDB総裁室の首席補佐官を務めるアンドレ・ソアレス氏はJStoriesに語った。

マッチングが最も活発になると見込まれる分野として、同氏は重要鉱物(レアメタル)、食料・農業、インフラ、テクノロジー、そしてシルバーエコノミーを挙げる。中南米の高齢化は「想定よりも速く」進んでおり、しかも「日本ほど豊かな状態ではない」段階で訪れている。だからこそ、日本の経験を移転できる余地は大きい、と説明した。
主催者側は、最大の課題は「可視性(visibility)」であると述べる。日本の製造業の海外事業展開に関する直近のJBIC調査では、ブラジルとメキシコを除き、中南米の国々は日本企業の3年先の事業候補地としてほとんど視野に入っていない。説明会に出席した在日中南米外交筋からは、この結果は日本企業にラテンアメリカ市場を再認識してもらう必要があることを示すと同時に、これだけの規模のフォーラムを開く必要性を裏付けるものだ、と意見が寄せられた。今回の8月のイベントは、IDBにとってこの「可視性ギャップ」を埋めるための、これまでで最も集中的な試みである。
日本企業にとっての投資対効果を語る材料は、ここ数年で大きく変わっている。日本は今や、IDB最大の国際協力ドナーだ。日本のJICA (国際協力機構)とIDBが協力して進める公的セクター向けの融資メカニズム「CORE」では、これまでに約40億ドルがコミットされており、50周年に合わせてその額は50億ドルまで引き上げられる見通し。民間セクター向けの新しい枠組み「TADAC」は、IDB Invest(IDBの民間部門)とJICAが協調融資する仕組みで、わずか1年強で約10億ドルが投入され、15億ドルに迫る勢いだ。1976年に設立された日本信託基金(JTFs)は、累計で約5億ドルのグラント(無償資金)を中南米に供給してきたが、その重心は近年、重要鉱物、農業、水・衛生といった戦略分野へとシフトしている。JICAと連携して日本のスタートアップを中南米市場へ橋渡しするIDB Labのプログラム「TSUBASA(つばさ)」も、今回のフォーラムでフェーズ2として再始動する。
これらの数字が重要なのは、主催者が狙うターゲットが、すでに中南米と取引のある総合商社やメガバンクだけではないからだ。本命は、太平洋両岸の中堅企業 、すなわち十分な技術力と事業規模を備えながら、大企業のような海外コマーシャル・インテリジェンスを持たない層である。とりわけ中南米側では、この層がきわめて薄く、その厚みを増すことがIDBにとって戦略的な優先課題だ。

「中南米には中堅企業が著しく不足している」と、IDBで生産性・貿易・イノベーション部門を率いるファブリシオ・オペルティ氏は語る。「経済学者の中にはこれを『ミッシング・ミドル(missing middle)』と呼ぶ者もいる。少数の非常に生産性の高い大企業と、多数のインフォーマルで生産性の低い零細企業はいるが、その間の中堅層が抜け落ちている。我々はこの中間層を取りこぼさないようにしたい」。
フォーラム2日目(8月25日)はこのコンセプトを軸に組まれている。事前にマッチングされた25分間の1対1商談を、日・英・西・葡の4言語通訳付きで実施。2つのトラックが用意されており、第1トラックでは食品・飲料、化学品、医薬品、産業機械、電気機器などの分野で、日本の輸出入企業と中南米企業を引き合わせる。第2トラックでは、日本の投資家、事業会社、財団、スタートアップ、大学を、中南米各国の投資促進機関およびIDBグループの調達部門、IDB Invest、IDB Labのチームへとつなぐ。IDBは融資業務を通じて年間およそ50億ドル相当の物品・サービスを購入しているが、これは多くの日本企業が未だアプローチしていない巨大マーケットでもある。
1日目は、エネルギー安全保障と重要鉱物、アグリビジネス、デジタル変革、防災、シルバーエコノミー、貿易・投資統合、ベンチャーキャピタルといったテーマで戦略対話を展開。3日目は、中南米からの参加者の一部が、日本企業や機関を実地訪問するフィールドビジットに充てられる予定だ。
48の加盟国を抱え、新たな成長エンジンを模索する地域にとって、日本は「忍耐強い資本」、「品質に裏打ちされたエンジニアリング」、そして「JICAとIDBが半世紀かけて静かに築いてきた信頼」 など、他の大国にはない独自の価値を提供できる存在だ。「日本企業はプロジェクトに大きな品質をもたらすことができる」とIDB 首席補佐官のソアレス氏は大きな期待を寄せる。
日本の中堅企業層と、IDBが厚みを増そうとしている中南米の中堅企業層が、このフォーラムが架けようとしている橋の上で出会うかどうかが注目される。
参加登録・フォーラム詳細は公式サイト(www.japan-lac.org)から









