東京 — EV(電気自動車)、半導体、そしてAI。日本の産業の将来を左右するリチウム、銅、レアアースといった重要鉱物の安定調達先として、中南米・カリブ地域への注目が急速に高まっている。8月24〜25日、東京都内で開かれた「Japan-LACビジネスフォーラム2026」では、日本政府と米州開発銀行(IDB)グループが、その流れを具体的な資金と枠組みで後押しした。
フォーラムは、日本がIDBに域外国として初めて加盟してから50周年を記念し、IDBグループと財務省が共催。24カ国から1,000人以上、400社を超える企業が参加し、IDBが日本で開催した過去最大のイベントとなった。
イラン・ゴールドファイン総裁は冒頭挨拶で、日本と中南米の貿易額がこの50年で70億ドルから650億ドルへと9倍に拡大したと紹介。「基盤はすでに強固で、機会は広がっている。行動する時は今だ」と呼びかけた。

「経済安全保障にとって大きな意義」
パッケージの柱は資源安全保障だ。片山さつき財務大臣は、日本特別基金内に新設される無償資金枠組み「ジャパン・レジリエンス・イニシアチブ(JRI)」への1,000万ドルの追加拠出を表明。既に表明済みの2,000万ドルと合わせ総額3,000万ドルとなり、重要鉱物、質の高いインフラ、農業、防災、シルバーエコノミー、保健分野の案件形成を支援する。片山大臣は「このフォーラムが、日本企業と中南米・カリブ地域のより大きな関与への触媒となることを期待する」と述べた。
国際協力機構(JICA)との資金協力も拡大した。協調融資枠組み「CORE」は40億ドルから50億ドルへ増額され、2031年まで延長。対象分野に重要鉱物と農業が新たに加わった。IDBインベストと連携する信託基金「TADAC」も10億ドルから15億ドルへ拡大され、JICA最大の民間セクター向け協調融資基金となる。JICA関連の資金枠は計65億ドルに達し、協調融資を含めれば地域向けに約140億ドルの資金動員が見込まれるという。
さらに、日本貿易保険(NEXI)はブラジル・エスピリトサント州向けのIDB保証付き融資に保険を付与する。NEXIが国際開発金融機関と直接締結する初の保険取引で、IDBの資本を解放し新規融資余力を生む仕組みだ。国際協力銀行(JBIC)とも重要鉱物やエネルギー移行、強靭なサプライチェーンを対象とする協調融資の覚書を更新した。
JICAの田中明彦理事長は、ゴールドファイン総裁との共同記者会見で「COREで重要鉱物関連分野が融資対象になったことは、日本の経済安全保障にとって大変重要な意義がある」と強調した。

「投資とは資金だけではない」
なぜ中南米なのか。ゴールドファイン総裁はフォーラム後、日本のテレビ局とのインタビューで、同地域が世界の重要鉱物埋蔵量の30〜40%を占め、すでに年間1,800億ドルの鉱物を輸出していると指摘。「日本は重要鉱物の調達先を多角化する必要がある。中南米・カリブ地域は、安定的に供給できる場所だ」と語った。
先行事例もある。アルゼンチン・サルタ州のリチウム開発案件「リンコン」では、IDBが1億ドル、JICAが約2億ドルを融資。フル生産時には同国最大のリチウム事業となり、世界のEVサプライチェーンにつながる。ブラジルではレアアースの賦存調査で政府を支援している。

総裁は同インタビューで、日本に求められるのは分離・製錬などの高度な技術に加え、長期契約と魅力的な価格だと指摘。そのうえで「投資とは資金供給だけではない。現地に行き、人を雇い、設備を築き、会社をつくる。それが本当の投資だ」と述べた。民間セクターへの投融資を専門とするIDBインベストのジェームズ・スクリーブンCEOも会見で、鉱山企業がIDBに求めるのは「資金だけではない」とし、リチウム採掘の水利用など環境・地域社会対応の知見が重視されていると説明した。IDBの重要鉱物関連ポートフォリオはすでに60億ドルを超えるという。

出会いをビジネスに変える
フォーラムでは日本と中南米の企業による1対1の商談600件以上が実施され、総裁は「スピード・デーティングのようなもの」と会場を沸かせた。IDBの調達案件を紹介する「BID for the Americas」も併催され、日本企業に入札機会が直接提示された。
経済界からは、経団連中南米地域委員長を務める双日の藤本昌義会長が基調講演に登壇。人口約6億6,000万人、GDP約7兆ドルとASEANに匹敵する市場規模を持つ同地域の可能性を語り、先月のパナマ・グアテマラ・エクアドル経済ミッションや、交渉開始が合意された日・メルコスールEPAに触れ、「日本とラック地域の経済関係は新たなステージに入りつつある」と述べた。
ゴールドファイン総裁は、フォーラムをこう締めくくった。「過去50年がIDBと日本の強固なパートナーシップを築く時代だったとすれば、次の50年はそれを拡大していく時代になる」

記事・編集: 前田 利継 | Toshi Maeda
トップ写真:Rio Tinto PLC








