PROBLEM:
台風9号(バービー)は72時間でフィリピンから中国まで進み、フィリピンでは18人が死亡、日本の南西部や台湾では広範囲で停電が発生し、中国では約200万人が避難を余儀なくされた。
POTENTIAL SOLUTION:
日本国内の1,000を超える組織やフィリピンの政府機関で導入されている「Spectee Pro」は、SNS投稿、カメラ、気象データ、車両データなどをAIで統合し、災害状況を数分以内に地図上で可視化する東京発のサービス。複数の国や地域をまたぐ災害の情報をまとめ、包括的に被害や予測の全体像を提供することが可能に。
7月上旬に発生した台風9号は、フィリピン北方から台湾・沖縄近海を経て中国へ進み、7月11日夜に最大風速約144キロで中国・浙江省に上陸した。当局は進路上にあった約200万人を避難させ、そのうち約170万人は浙江省、さらに福建省と北京市でもそれぞれ10万人以上が避難した。その後、台風は勢力を弱め、中国では大きな人的被害は報告されなかった。
一方、中国上陸までの72時間に、台風は各地により深刻な被害をもたらしていた。フィリピンでは18人が死亡し、沖縄県の先島諸島では数千世帯が停電、台湾でも17万世帯以上への電力供給が途絶えた。
台風9号のように、複数の国・地域をまたいで進む台風では、その移動の速さに情報の集約と共有が追いつかない。わずか1度の週末の間にも、4つの異なる警報システムと4つの言語が並存し、被害の全体像は共有されていなかった。
こうした各地に散在する情報をリアルタイムで収集・解析し、1つの全体像として可視化するサービスを提供しているのが、2011年設立の東京の企業、Spectee(スペクティ)である。同社の主力サービス「Spectee Pro」は、AIを活用してSNS投稿、気象データ、河川・道路カメラ、車両の位置情報などを解析し、災害や事故などの危機情報を短時間で確認して地図上に表示する。
AIがつなぐ災害情報

台風9号の進路上にあった地域のうち、2つの国・地域では、すでにSpecteeの情報基盤が整備されている。
日本では、2024年7月時点で契約数が1,000を超え、自治体、放送局、インフラ事業者、製造業、物流企業など幅広い分野で導入されており、災害発生時の初動対応に必要な情報基盤として活用されている。
フィリピンでは、中央政府および地方政府機関で120以上のライセンスが導入されている。また同社は、経済産業省の補助事業に採択され、インドネシアでの事業展開も進めている。こうした地域でSpectee Proが日常的に活用されていることから、同社は、台風9号の際にも自治体や企業の災害対応を支援し、被害の軽減に貢献したとみている。
「このプラットフォームの強みの一つは、海外の情報も収集しているため、利用者がより広範かつ包括的に状況を把握できることです」と、Specteeの広報担当者はJStoriesに語った。「日本企業の中には、海外のオフィスや工場などの拠点周辺にアラートを設定し、その地域で発生する事故や災害リスクを把握するために利用している企業もあります」。
同社は6月、総額18億円の資金調達を完了した。また7月8日には、クラウドサービス「Spectee SCR」に道路・河川カメラなどの新機能を追加した。こうした動きは、同社の事業とサービスの拡大が続いていることを示している。
鳥取県との偽情報対策連携
5月、Specteeは鳥取県と連携し、災害時にSNS上で拡散するデマやフェイク情報への対策機能を開発すると発表した。大規模災害時には、広く拡散している投稿のうち信頼性に疑義があると判断されたものに、その理由や注意喚起をSpectee Pro上で表示し、自治体が住民への注意喚起に活用できるようにする。
この取り組みは、鳥取県が2024年11月に設置した「フェイク情報対応実証チーム」の活動を踏まえたものであり、今年1月の島根県東部を震源とする地震の後、鳥取砂丘に大きな亀裂が入ったかのように見せる偽動画がSNS上で拡散したことも、共同開発のきっかけの1つとなった。

実績から分かること、分からないこと
Specteeの有効性を示す最も有力な根拠は、導入した組織が利用を継続していることだ。北海道のある市では昨年、SNS情報を活用し、避難状況や被害状況をリアルタイムで可視化する本格的な訓練を実施した。一方で、依然として不足しているのは、その効果を裏付ける第三者による客観的な検証である。アラートによって死傷者や被害がどの程度減少したかを定量的に示した第三者の研究は、現時点では確認できていない。導入が進んでいることが、そのまま人命救助につながったことを意味するわけではない。
現在、Specteeにとって最大の競合は、米国のDataminr(データマイナー)である。しかしSpecteeは、SNS投稿をカメラ映像や車両データなどと照合し、さらに日本で10年以上にわたり蓄積してきた災害データを組み合わせて分析している。こうした豊富な災害事例の蓄積は、同社が他の類似サービスとの差別化を図る強みの一つとなっている可能性がある。
なぜ重要なのか:
災害が多いという日本の地理的条件を背景に、日本では危機管理技術がいち早く導入されてきた。そうした環境の中で磨かれてきた技術は、いまや台風の進路に沿って海外へと広がりつつある。台風9号が各地を襲った週末は、その重要性を端的に物語っている。気象情報は共有されていた一方で、どこで浸水や停電が発生し、誰が孤立しているのかというリアルタイムの全体像は共有されていなかった。
トップ写真:株式会社Spectee
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