台湾のスタートアップを日本に紹介する催しは、5年かけて役割を変えた。今年のJapan-Taiwan Innovation Summitで最も大きかった変化は、二国間だった枠組みにアメリカが正面から加わり、議論の軸が経済安全保障へ移ったことである。
Japan-Taiwan Innovation Summit は、台湾の National Development Council(国家発展委員会、NDC)と、台湾のスタートアップを海外へ送り出すブランド事業 Startup Island TAIWAN が主催する年次イベントである。2022年に始まり、今年で5回目を迎えた。出展した台湾スタートアップは46社。NDCで主任委員を務める葉俊顯(Yeh Chun-Hsien)氏によれば、そのうち30社を超える企業が、すでに日本に拠点を設けているか、投資や補助金を得ているか、日本企業との協業を始めている。
今年の会期は3日間。8月17日に大阪で開き、Startup Island TAIWAN は阪急阪神不動産と覚書を交わした。2024年に発足させた「Go Kansai Alliance(関西進出アライアンス)」を足がかりに進めてきた関西展開を、長期的な枠組みへ引き上げる内容だ。18日は東京商工会議所の渋沢ホールで政策と投資の議論に充て、19日は有楽町の東京イノベーションベース(TiB)へ会場を移して、35社がピッチに立った。
掲げられたテーマは「From Startups to Strategy(スタートアップから戦略へ)」。スタートアップを個々に紹介する段階を越えて、産業戦略の一部として位置づけ直す、という宣言である。AI、半導体、バイオ、信頼できるデジタルインフラといった戦略産業をめぐって、日米台の政府関係者、企業、投資家、研究機関が一堂に会した。
「誰と作るか」が問われる時代

最も分かりやすい変化は、壇上の顔ぶれだった。アメリカ国務省で東アジア地域の技術担当官(Regional Technology Officer)を務めるジョン・スピークス氏(John Speaks)が基調講演に立ったのである。日台の二国間イベントに、アメリカ政府の技術政策担当者が登壇するのは今回が初めてだ。
スピークス氏が軸に据えたのは、アメリカ国務省が2025年12月に立ち上げた Pax Silica(パックス・シリカ)である。AI、半導体、重要鉱物、エネルギー、先端製造、物流までを一つの連なりとして扱い、信頼できる国どうしでそのサプライチェーンを組み直そうという枠組みで、日本は発足時の署名国、台湾は今年1月の米台共同声明で原則を支持している。2026年6月の第2回サミットでは署名国が24に増えた。スピークス氏は「技術の未来は、何を作るかではなく、誰と作るかで決まります。だからこそ、信頼できる技術のエコシステムが要る。これはスローガンではなく、技術と地政学が絡み合う世界で安定を保つための枠組みです」と述べた。
スピークス氏はさらに、この枠組みの中でスタートアップが果たす役割に触れ、「スタートアップは、国家の競争力を何倍にもする存在です。そして、サプライチェーンが苦しくなったとき、依存が危険な水準に達したときに、それを最初に知らせる警報でもあります」と語った。サプライチェーンの脆弱性は、大企業の統計より先に、現場の小さな企業が気づく。だから経済安全保障の議論にスタートアップが要る——「From Startups to Strategy」というテーマの内実は、この一点にあった。

さらに続いて登壇したのは、米国の独立系非営利研究機関 スタンフォード・インターナショナル (SRI)でベンチャー部門の副社長を務めるTodd Stavish氏は、SRIが台湾の大手半導体メーカーTSMCの創業期に技術支援を提供した経緯に触れ、現在は台湾だけではなく2025年11月に提携したGlobal Innovation Labsを通じて米国・韓国・日本・シンガポールにさらに事業化拠点を広げていると述べた。
台湾側の政策担当者も同じ方向を向いていた。NDC産業発展処(日本の『局』に相当)で処長を務める蕭振榮(Hsiao Chen-Jung)氏は、台湾の輸出が33カ月連続で前年を上回り今年7月は31%増えたこと、日本から台湾への輸出も7月に47%伸びたことを挙げ、AIによる需要の膨張が数字に表れていると述べた。
そのうえで、コスト最優先だったサプライチェーンが「安全なサプライチェーン」へ組み替わりつつあると指摘し、日本と台湾は競合しないと断言した。「半導体では台湾が製造、日本が材料と装置を担っています。量子技術では日本が先行し、台湾が量産で応えます」と蕭氏。
加えて、台風や地震という共通の災害に共通の技術で立ち向かえることも挙げた。日台合弁のスタートアップが開発したAIの地震予警システムは、災害時の判断に要する時間を6時間から4分に縮めたという。
日米台の連携が具体的にどう機能するのかを、壇上で示した企業もあった。吸入療法のプラットフォームを手がける HCmed Innovations(心誠醫電)である。18日のスタートアップショーケースで、会長のジェイソン・チャン (Jason Chang) 氏はまず一つ発表をした。「東京にオフィスを構えることを、この場でお知らせできて嬉しく思います。私たちはここに、関係を築き、信頼を築き、ともに世界へイノベーションを届けるために来ました」とチャン氏は語った。
同社の成り立ちそのものが、日米台にまたがっている。出資者にはパロアルトのNew Ventures、日本のDCIパートナーズ、台湾の兆豐銀行とSafe Insuranceが名を連ね、提携先にはアメリカのGenentechとRocheが含まれる。蕭氏も基調講演で同社を成功事例として挙げ、出資した日本のベンチャーファンドを台湾の国家発展基金が支えているという入れ子構造まで説明した。
では、その日米台のなかで台湾は何を担うのか。司会に問われたチャン 氏は、部品の調達にかかる距離の話をした。医療機器を作るには、通信や制御の小さなモジュールを供給してくれる相手を見つけなければならない。アメリカでは、その相手に会うだけで国内線に乗ることになるという。「サンディエゴの教授と初めて話したとき、彼はこう言ったんです。Bluetoothモジュールが必要になったら、西海岸から東海岸へ、あるいは東海岸から西海岸へ飛ばないといけない、と。では台湾でBluetoothの供給業者に会うには何分かかると思う? 30分です」(チャン氏)
台湾のサプライチェーンはそれだけ密に統合されている、というのが チャン氏の言い分である。実際、同社の中核であるメッシュモジュールは半導体プロセスで作られている。製薬企業が新しい製剤を試すとき、専用にあつらえたモジュールが要る。他国なら6か月待つところ、台湾なら2週間で届くという。「私たちがパートナーに提供しているのは、柔軟さと速さです。それでいて信頼できる開発と生産である、という点が重要なのです。一方で、日本の品質と精度も同じように重要だと考えています。この10年、日本と信頼できる技術をともに築きながら、量産と事業化には台湾の速さを使ってきました」とチャン氏は語った。そのうえで、順番についてはこう言い切った。「アメリカが先か日本が先かは、問題ではありません。最後には一緒にやることになる。そして信頼関係を築く。それが日本の企業にとって、何より重要なのです」

日本側からは、日本貿易振興機構(JETRO)で理事を務める高島大浩氏が登壇した。高島氏はまず、7月28日に最大震度7を観測した熊本地震に触れ、台湾から寄せられた支援に礼を述べた。外交部が開設した口座には民間から10億円を超える義援金が集まり、熊本に工場を持つTSMCも2億5000万円を寄せている。
その熊本こそが日台の産業連携の象徴だと高島氏は続けた。TSMCの母体は台湾の工業技術研究院(ITRI)であり、経験豊富な経営者が率いたディープテック・スタートアップだった、と。そのうえで、この10年で台湾側の視線が動いたことも指摘した。かつて台湾のスタートアップに海外展開先を尋ねれば、まず米国、次いで中国大陸、その次にASEANか日本という順だったが、いま同じ質問への答えは、決まって米国か日本だという。
JETROは直近3年で台湾から約150件の対日投資案件を支援した。中小企業基盤整備機構の坂本英輔氏も、日台をつなぐ例として、DCIパートナーズが運営し同機構と台湾の国家発展基金がともに出資する日台バイオファンドを挙げた。
信頼できるサプライチェーンは、誰が支えるのか

午後の議論は、抽象論を離れて電力とお金の話になった。理念は、結局のところ、誰がどこにいくら払うのかという問題に行き着く。
GMI Cloud でCFOを務めるティム・チェン(Tim Chen)氏は、台湾が世界のAIサーバーのおよそ9割を製造している事実に触れ、そこに日本の投資が組み合わさる例として、同社が鹿児島で進める案件を挙げた。1ギガワット級の電力を備えた用地で、投資規模は最大120億米ドル(約1兆7600億円)に達しうるという。
創業3年の企業が、なぜ日本でその規模の案件に入れたのか。チェン氏は、台湾企業による対日投資が積み上がってきたことを挙げ、そこに資本がついてくると説明した。「まず物語を語り、次に行動を語ります。ですが行動は、実際にお金を使うまで本当には始まりません。つまり、すべては投資に尽きるということです」(チェン氏)
同社は日本のチームに投資し、GPU側の主要なパートナーである緯創資通(Wistron)と組んで案件を進めているという。
では、その「信頼」に誰が割増料金を払うのか。チェン氏は可用性、統制、予測可能性の三つを挙げた。国外に出せない機微なデータを扱う産業は多く、だから守られたデータセンターに企業は割増料金を払う。そのうえで同氏は、電力インフラの整備に数年を要する点で日本に分があると述べた。「外から見れば、なぜ3年も4年も先の話をしているのかと思うでしょう。しかし電力インフラへの投資には、それだけの時間がかかる。その予測可能性こそが、ソブリンAIの正体です」(チェン氏)

続くパネルは、半導体やAIの華やかな話の「裏側」に光を当てた。モデレーターのMarket Intelligence & Consulting Institute(MIC、資策会・産業情報研究所)で所長を務める洪春暉(Chris Hung)氏は、台湾のAIサプライチェーンの背後には物流、セキュリティ、データ統合を担う事業者がいると切り出した。登壇したのは、日立ソリューションズ、Turn Cloud(騰雲科技)、Toplogis(運籌網通)、TXOne Networks(睿控網安)の4社である。
ToplogisでCEOを務めるキャサリン・ペン(Catherine Peng)氏の説明は具体的だった。20〜30年前、サプライチェーンの議論はコストがすべてだった。ところが地政学リスクを受けて顧客がチャイナ・プラスワンを求め、いまや台湾プラスワンまでが要求される。台湾の製造業はアメリカへ、メキシコへ、ベトナムへと工場を建てた。「拠点が一つ増えるたびに、供給業者と在庫が一組ずつ増え、理解しなければならない関税制度が一つ増えます。地政学リスクは解けましたが、サプライチェーンはかえって複雑になりました」とペン氏は言う。
そこに、税率が政治の発信一つで動く時代が重なる。同氏はこれを「ダイナミック・サプライチェーン」と呼んだ。さらに日台に共通する少子化がのしかかる。輸出入や物流の部署は社内で最もデジタル化が遅れていることが多く、若い人材が集まらない。
ペン氏は台湾では珍しい女性の物流起業家である。自社のシステムを導入した顧客企業を訪れたとき、担当者の表情が変わっていたことが忘れられないという。「輸出入と物流の現場のオペレーターは、ほとんどが女性です。彼女たちは毎日残業していました。それがなくなって家族と過ごす時間が増えたと聞いたとき、働く母親として本当にうれしかった」
Turn Cloud(騰雲科技)で会長兼社長を務める梁基文(Vincent Liang)氏は、日本の大手顧客との関係づくりに2年以上を要したと明かした。求められたのは技術力よりも、日本側の運用と管理の作法を理解しているかどうかだった。その「磨合」を経て、いまは相手企業とともに海外へ出ようとしている。同社は2024年に東京へ子会社を設け、イオンや三井の商業施設を顧客に持つ。海外売上比率は4割を超えた。
日本側からこのパネルに加わったのが、日立ソリューションズで執行役員ビジネスイノベーション事業部長を務める内藤英樹氏である。技術そのものより先に問われるものがある —— 登壇者の話は、そこで重なった。
台湾勢が日本の産業に接する場所は、完成品の市場だけではない。2021年創業のOhmplus(歐姆佳科技)は、RF ICとアンテナの量産試験システムを手がける。通常は1つずつ行う検査を独自技術で同時に走らせ、試験時間と設備台数を減らす。台湾と日本で40件以上の特許を取得し、今年3月にシリーズAで6000万台湾ドル(約3億円)を調達した。19日のピッチによれば、取引先には村田製作所と三菱電機が含まれ、2021年以降は売上が毎年倍増しているという。
同じパネルで、TXOne NetworksでCEOを務める劉榮太(Terence Liu)氏は、業界の潮目の変化を率直に語った。2019年の創業当時、この業界の指標は毎年100%成長で、費用は問わないというものだった。それが2022年以降、成長率30%に利益率10%を足して40を目指す「ルール・オブ・40」へと変わる。同社はいま従業員約400人、30カ国で展開する。「7年かかって、今年ようやく損益が釣り合いました。要するに、生き延びたということです」(劉氏)
「日本で稼ぎ、台湾で上場する」という選択肢

日米台の連携が実際に動くには、企業が育ち、資本が回る仕組みが要る。そこで今年のサミットが持ち出したのが、イグジット(出口戦略)だった。これまでの議論の中心は「日本企業からの出資」や「日本市場への進出」だったが、台湾側からはもう一つの選択肢が示された。台湾市場での上場である。東京サミットの2日目の会場となった有楽町のTiBでは、TWSE(台湾証券取引所)とTVCA(台湾創業投資商業同業公会)が続けて壇上に立った。呼びかけの向きは、これまでとは逆である。日本のスタートアップに向けた、「台湾での上場」の提案だ。資本の話題がM&A一色だった昨年までから、主題は株式公開へ移った。
TWSEのバイスプレジデント、高佩瑾(Kao Pei-Jing)氏が焦点に据えたのは、アジア版NASDAQを目指して2021年に開設された台湾イノベーションボードだ。営業年数は2年、時価総額の下限はおよそ3300万米ドル(約48億円)、そして黒字化は求めない。審査は6〜8週間で、上場までおおむね1年に収まるという。台湾には現在92社の外国籍上場企業があり、平均株価収益率は36倍に達する。

台湾のベンチャーキャピタルのコミュニティーであるTVCAの事務局長(秘書長)、謝睿哲(Solid Sie)氏は、その背景にある構造的な問題を挙げた。台湾では上場までに平均15年かかる一方、ベンチャーファンドの寿命は10年である。この差がアーリーステージへの投資をためらわせてきた。台湾イノベーション板は上場までを7〜9年に縮める装置だという。加えて今年から、台湾の約1,900社の上場企業がスタートアップやVCへ投資することがESG評価の要素になった。

医療分野に特化した BE Health Ventures(比翼資本)で創業者兼マネージングパートナーを務める陳彥諭(Arthur Chen)氏も登壇し、台湾で臨床試験を行う費用が日本の3分の1で済むと説明したうえで、日本橋のライフサイエンス拠点に日本オフィスを開いたと明かした。
日本で稼ぎ、台湾で上場する。その道筋が、公式に提示されたのである。
東京ハブが手狭になった理由

サミットが閉じた翌朝、8月20日。浜松町にあるStartup Island TAIWANの東京ハブで、開所式が開かれた。同じ浜松町でより広い場所へ移り、新しい拠点は100坪を超える。

東京都とStartup Island TAIWANが連携の覚書を交わしたのは2024年である。あれから2年で、葉氏によれば東京ハブの協働で20社が日本に拠点を築き、6社が都のプログラムの支援を得た。台湾全体では延べ500社超が日本市場との接続を支援されてきたという。そして、拠点は手狭になった。
この間、Startup Island TAIWANはシリコンバレーにも拠点を築いている。台北、東京、シリコンバレー —— 太平洋をまたいで3拠点を張るこの政府主導のイニシアティブの布陣は、今年のサミットが示した日米台の協調の動きと、ぴたりと重なって見える。積み上げてきたイノベーション協力の上に地政学リスクの高まりが重なったいま、経済安全保障をめぐる環境は、日米台の技術協調をさらに加速させていきそうだ。
本記事はStartup Island TAIWANとのパートナーシップにより制作・掲載されました。








