東京都が支援する「SusHi Tech Global」のメディアカンファレンスが2026年9月3日、東京・有楽町のTokyo Innovation Base(TIB)で開催され、最注目のスタートアップ10社がピッチを披露した。気候変動やインフラ老朽化、医療費高騰、安全保障といったグローバルな「社会課題」の解決に取り組んでいる。大学発などの強固な研究開発基盤を擁するディープテックやAIのトップランナーを紹介する。
気候変動に挑むクリーンテックと核融合の産業化
脱炭素の実現に向け、二酸化炭素(CO2)を回収・利用・貯留する「CCUS」や、次世代エネルギー「核融合」の領域で、日本発の技術が世界のサプライチェーンを掌握しつつある。
京都大学発のディープテックスタートアップであるOOYOO(京都府京都市)は、CO2回収コストを劇的に引き下げるアプローチで世界的な注目を集める。従来の回収法はCO2脱離に大量の熱エネルギーを要し、高コストが最大の課題だった。これに対し、同社は世界最先端の「高分子ガス分離膜技術」を用い、機械的な「ろ過」だけで低コストかつコンパクトにCO2を分離・回収するシステムを確立した。TOPPANホールディングスや大塚化学との共同実証が本格化しており、代表取締役CEOの大谷彰悟氏は「シンガポールのマーケットもこれから狙っていきたい。世界規模の脱炭素に自社の技術で貢献したい」と、アジアをはじめとする世界展開を見据える。

大気中から直接CO2を回収する「DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)」の社会実装に挑むのが、東京大学発のPlanet Savers(東京都文京区)だ。ゼオライトを用いた独自のDAC装置を開発し、東京湾でプロトタイプを稼働させている。代表取締役CEOの池上京氏は「航空分野など電化に限界がある産業では、排出されたCO2を直接大気中から回収するしかない。AIの爆発的な普及に伴い、巨大データセンターを運営するハイパースケーラーからの排出量急増が大きな課題となる中、大気直接回収は世界の最重要トレンドになる」と指摘。2050年には10億トンのCO2回収を目指す。


世界の核融合開発をインフラ面から支える京都大学発の京都フュージョニアリング(東京都大田区)の存在感も際立つ。自社で炉を建設するのではなく、世界中のプラントに必要な「プラズマ加熱装置」や「トリチウム燃料サイクル」などの高度コンポーネントを供給する独自のエンジニアリングモデルを構築する。8月には総額257.2億円を追加で資金調達した。
安全保障に対応する宇宙・地理空間インテリジェンス
緊迫化する地政学的緊張や巨大災害に対応するため、サイバー空間と現実世界の情報を多層的に解析して最適意思決定を支援するインテリジェンスの重要性も増している。
この領域において、2026年3月にシリーズAで50億円強の調達に成功したSolafune(東京都千代田区)の動向から目が離せない。同社が構築する「Planetary Intelligence OS」は、宇宙から取得する地理空間データ(GEOINT)に、ネット上の公開情報(OSINT)や通信電波情報(SIGINT)を統合解析するシステムだ。防衛省や内閣府から継続案件を受注しているほか、アフリカなどの海外政府や国連機関とも資源安全保障・災害対応で提携を広げており、国家の意思決定を支える最高峰のセキュリティとインテリジェンスの商用化を急ぐ。
また、サグリ(兵庫県丹波市)は、宇宙データとAIを融合させて農業の現場から脱炭素を推進する。同社は衛星画像とAIを組み合わせた耕作放棄地自動検出アプリなどを展開するほか、宇宙から農地の土壌化学性を解析する「アグリインサイトマップ」を通じて化学肥料の最適化を支援する。温室効果ガス削減分をカーボンクレジットとして創出・収益化する。

極限の現場をハックするフィジカルAIと設計革新
生成AIの活用領域は、今やオフィスから「現場の変革」へとシフトしている。日本の強みである精密工学や制御技術にAIを実装し、労働力不足に立ち向かうのが「フィジカルAI」だ。
Fairy Devices(東京都文京区)は、現場の暗黙知を可視化・AI化する独自のスマートデバイスを展開する。首掛け型のスマートウェアラブルデバイス「THINKLET」を用い、遠隔現場の非専門作業員と熟練者の視線や音、映像をリアルタイム共有。執行役員COOの久池井淳氏は「離島など専門知識のない作業員しかいない現場でも、この首掛けデバイスを装着すれば操作トレーニングなしに熟練者とリアルタイムで情報共有できる」と語り、現場DXの先にある自律化へのロードマップを強調する。


物理的なアプローチで危険環境の作業を代替するのが、東京工業大学発のハイボット(東京都品川区)である。福島第一原発の廃炉現場で培った制御技術に基づき、化学プラントなどの狭隘部を自律点検するヘビ型ロボット「Float Arm」を展開する。AI予測保全プラットフォーム「HiBox」との融合によって、従来は足場組みや安全確認に5〜6日を要したボイラー点検などをわずか1日に短縮し、危険な作業から人間を解放すると同時にプラント運用の効率性を劇的に高める実績を重ねている。

また、ブレイドテクノロジーズ(東京都渋谷区)は、これら複雑なハードウェアの設計プロセスそのものを生成AIで高速化する基盤モデルを独自開発した。事業開発統括の沈和曦氏は「人が『こういうものを作りたい』という意図を入れるだけで、その意図を満たすような形状自体を自動でAIが作り上げる基盤モデルを開発している。再生プラスチックの採用に伴う急な設計変更などの複雑なプロセスを簡単かつ高速化でき、熟練設計者が不足する製造業の課題をクリアする」と、AIがもたらす設計革新のインパクトを述べる。


ライフサイエンスと情報科学が拓く超個別化医療
個人の生体データをAI解析し、超早期発見や個別治療を施すプレシジョン・メディシン(精密医療)の市場が急拡大している。
名古屋大学発のCraif(東京都新宿区)は、バイオAI領域において世界的な資金力と技術力を有するトップランナーだ。8月、シリーズDで53億円(累計142億円)のグローバル調達を実施した同社は、独自のナノワイヤデバイス「NANO IP」を用い、尿や唾液から高効率にマイクロRNAを回収。AIがこれを解析することで、自覚症状が出にくい「すい臓がん」などを初期段階で検出する技術を確立した。PR/マネージャーの佐野翔一朗氏は「がん当事者だからこそ、この技術を社会へ届ける使命がある。尿から取得する世界最大級のデータを基盤に、がんに留まらず多様な疾患を早期に捉える尿解析プラットフォームを日米で本格展開していく」と、自身の闘病体験から得た使命感とグローバル挑戦への決意を表明する。
医師の意思決定を高度なインフォマティクスで支援するのが、東京大学発のテンクー(東京都文京区)である。がんゲノム医療を包括的にサポートするソフトウェア「Chrovis(クロビス)」を提供。次世代シークエンサーから出力される遺伝子データを高速解析し、世界中の文献や治験情報とマッチングさせて、最適な治療方針や治験候補のレポートを自動生成する。京都大学医学部附属病院との共同研究を経て開発した「RADシステム」を現場へ投入し、医師のエキスパートパネルにおける業務負担を大きく軽減している。

地政学的リスクと日本のディープテックへの期待
地政学的リスクが高まる中、信頼できる「技術サプライチェーンの供給元」として、日本発のディープテックIP(知的財産)への国際的評価は高まりつつある。科学技術の強みを持続的なビジネスに転換し、地球規模の難題を解く主役になれるか。日本発のイノベーションは今、その真価を問う局面に立っている。









