「次のユニコーン」誕生めざし、アジアのトップ起業家が台北に集結

クロスボーダー成長と台湾での上場を後押しする 「VIPサミット」の内幕

5月 30, 2025
by Toshi Maeda
「次のユニコーン」誕生めざし、アジアのトップ起業家が台北に集結
この記事をシェアする
JStories ー アジアのスタートアップ育成の舞台として、台湾が一段と熱気を高めている。首都・台北では先週、毎年恒例の大規模テックイベント COMPUTEX/InnoVEX が数万人を集めて大きな盛り上がりをみせたが、同時にアジア各国の次世代起業家たちを支援する完全招待制のVIPサミットが密かに行われていた。
初開催となったF2SU(A Friend to Startups)の Asia IPO Synergy Forum は、アジア全域の有望なスタートアップを世界的な「ユニコーン」へと成長させるため、台北証券取引所(Taiwan Stock Exchange、TWSE)への上場までも視野に入れて支援しようという完全招待制のサミットだ。
このサミットには、日本、シンガポール、韓国、マレーシア、インドネシア、香港、台湾から50人を超える創業者やCレベルの経営者、投資家が参加した。ChatGPT 登場以降の「AIブーム」に支えられて台湾の資本市場とIPOへの注目度がかつてない高まりを見せる中、F2SUは潜在力を秘めたアジアのスタートアップが世界規模で大きく成長できるよう支援する新たな起点として自らを位置づけている。サミットはクラウドサービスを提供する GrandTech Cloud Services(GCS)TWSEの共催で実現した。
F2SU Asiaは、7カ国・地域から50名を超える有望スタートアップのリーダーを台北に招き、クロスボーダー成長支援や台湾証券取引所での上場支援について議論した      写真撮影:前田利継 | JStories (以下同様)
F2SU Asiaは、7カ国・地域から50名を超える有望スタートアップのリーダーを台北に招き、クロスボーダー成長支援や台湾証券取引所での上場支援について議論した      写真撮影:前田利継 | JStories (以下同様)
クラウドサービスプロバイダー など2つの会社を台湾で創業して上場させた Frankie Hsu 氏が、F2SU Asiaサミットの立ち上げを主導した
クラウドサービスプロバイダー など2つの会社を台湾で創業して上場させた Frankie Hsu 氏が、F2SU Asiaサミットの立ち上げを主導した
「F2SUは、次世代の創業者をめざす人々を支援する目的で立ち上げました。スタートアップの資金調達からグローバル展開、戦略構築、そしてIPO前後のアドバイスまでを提供する場です」と、GCS創業者兼会長の Frankie Hsu 氏は語る。台北で2社の上場を果たしたシリアルアントレプレナーのHsu 氏だが、その原動力となっているのは自身が味わった苦労の経験がある。
「多くの困難を乗り越えてきたからこそ、次世代の起業家には同じ苦労を繰り返してほしくないと思います。その思いが自分のパッションであり、使命だと感じています」とHsu 氏。「痛みも落とし穴もよく知っている。だからこそ今、経験を還元したいと考えています」と語った。
サミットのフォーラムには、台湾のビューティーテックの最前線を走る Perfect Corp. の創業者兼CEOの Alice Chang 氏も登壇。グローバル市場での成長やIPOへの道筋について、実践的なアドバイスを提供した。Chang 氏が率いる Perfect Corp. は3年前にニューヨーク証券取引所にユニコーン(評価額 10億ドル以上)として上場した。
台湾のビューティーテック企業 Perfect Corp. の創業者兼CEO Alice Chang 氏は、グローバル展開やIPO戦略について実践的なアドバイスを提供。Perfect Corp.は 2022年、ユニコーン企業としてニューヨーク証券取引所に上場した
台湾のビューティーテック企業 Perfect Corp. の創業者兼CEO Alice Chang 氏は、グローバル展開やIPO戦略について実践的なアドバイスを提供。Perfect Corp.は 2022年、ユニコーン企業としてニューヨーク証券取引所に上場した
一方で、Chang 氏は米国で上場するオプションが全てのスタートアップにとって最適だとは言えないとも強調。「台湾はアジア発スタートアップにとって有力なIPO先の一つであり続けている」と語った。
スピーカーの一人、台湾のベンチャーキャピタル AppWorks の Jamie Lin 会長は、台湾の強みはエレクトロニクスやAIサプライチェーンだけでなく、市場流動性の高さ、P/Bレシオの優位性、外国人投資家比率の高さにもあると指摘した。
 Hsu 氏もこれに同意。「台湾はタピオカドリンクと半導体だけでなく、強力な資本市場も持つ。そのことは各種データにも如実に表れています」と語った。
今回のF2SUは台湾の意気込みを示す一方で、アジア主要都市間のスタートアップ誘致競争の激化も浮き彫りにした。参加者の中には、東京証券取引所(Tokyo Stock Exchange)から公式サポートを受けているアジア有数のユニコーン候補も名を連ねた。その代表例が、マレーシア発のドローンテック Aerodyne と、台湾のトラベルテック KKday である。
マレーシア発のユニコーン候補 Aerodyne で国内担当CEOを務める Mudzakkir Hatta 氏は「上場先の選定については慎重に判断する」と語る
マレーシア発のユニコーン候補 Aerodyne で国内担当CEOを務める Mudzakkir Hatta 氏は「上場先の選定については慎重に判断する」と語る
Aerodyne は世界的にドローン事業を急拡大しており、KKdayも革新的な旅行体験プラットフォームで成長を遂げている。両社はいずれも10億ドルの評価額に向けて着実に成長を続けており、東京証券取引所が公式支援を行うアジア企業14社のうちの2社である。今後の上場先を慎重に検討する中で、今回のサミットは重要な情報収集の場となったようだ。
Aerodyne のマレーシア市場担当CEOを務める Mudzakkir Hatta 氏は、「F2SU参加により初めて台湾を訪れた。台北でのIPOが東京と比較してどのようなメリットがあるかを知る貴重な機会となった」とJStories に語った。今後、社内で複数の選択肢を慎重に検討した後、年内に上場する都市を最終決定する予定だという。
台湾の株式市場は、AIブームの波にも乗り、近年アジアの中でも際立ったパフォーマンスを記録している。現在、TWSEはより多くの海外スタートアップの台北上場を積極的に誘致。特に中小型株に強い「アジアのNasdaq」を宣言し、IPOの迅速化、低コスト、タックスヘイブン籍の企業の上場も受け入れる柔軟性などを強みにしている。現在、TWSEの上場企業約1,000社のうち約1割が海外企業となっている。
記事:前田利継 (Toshi Maeda) 
編集:北松克朗
トップ写真:前田利継 | JStories
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

***

本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。コメント
コメント
この記事にコメントはありません。
投稿する

この記事をシェアする
人気記事