(シリーズ)JStoriesでは、東京(東京圏)の今の姿を、多様なフォトグラファーの目で活写したフォトストーリーをシリーズでお届けします。日本に以前からあるものや、2025年の今にしか存在しないものまで、どこか日本らしいユニークさや、イノベーティブなアイデアが感じられるものを、様々なバックグラウンドを持つJStoriesスタッフが街中を歩きながら見つけて撮影しました。こうした日常の姿の中にこそ、世界の問題解決につながる日本発のイノベーションのアイデアが生まれているのかもしれません。

J-Stories ー SNSでも注目を集め、過去の開催では20万人以上が訪れた「東京ナイトマーケット」。
代々木公園では初となる夜10時までの開催が実現し、「東京×アジアの夜市」というテーマのもと、地元の人々にも観光客にも支持を広げている。
今夏には「星と太陽の市場」と題した新バージョンも予定されており、都市の夜に新たなリズムが生まれつつある。
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5月下旬の代々木公園。夜のとばりが下りると、公園は昼間よりもにぎわいを見せる。東京ナイトマーケットが始まったのだ。わずか5日間限定のイベントだが、その場づくりは驚くほど丁寧。整然と並ぶ屋台に、やわらかな灯りの演出。まるでお祭りのようでいて、日常の延長線のようでもある。

この夜市のテーマは「東京×アジアのナイトマーケット」。まず目を引くのは、やはりグルメ。タイのグリーンカレー、ベトナムのフォー、台湾の小籠包、福島のご当地ラーメン、さらには創作バーガーや牡蠣の鉄板焼きまで。まるで東京の夜に並んだ「味の通り道」のようだ。どれも主張が強いはずの料理なのに、競い合うのではなく、自然と隣り合っている。その調和が、とても心地いい。

中国出身の私は、夜市という言葉から、どうしても地元の熱気や雑踏を思い浮かべてしまう。人波にもまれながら串焼きを手に入れる、あの混沌とした楽しさ。でも、東京の夜市は違った。屋台の間にはしっかりとスペースがあり、人の流れもスムーズ。立ち止まって眺めたり、座って休んだりする余裕がちゃんとある。その瞬間、私の中にあった「にぎわいとは何か」という価値観が、音もなく崩れていった気がした。
設計の妙は、動線だけにとどまらない。屋台、ゲームスペース、ライブステージ、休憩エリアが絶妙なバランスで配置されていて、歩き回る楽しさがある。たとえば、小さなステージでは夕方18時ごろからさまざまなアーティストが登場。チャラン・ポ・ランタンの昭和ムード漂う演奏や、Buddha TOKYO、lyrical school、LA SEÑASのパーカッションまで、音楽が夜風に乗って広がっていく。

驚いたのは、買い物や食事をしない人もたくさんいたこと。ベンチに座って、演奏を聴いたり、ただ話したりしているだけ。でもそれで十分楽しめる空間があった。これは、ただのナイトマーケットではない。夜の公園を、どう使う?----その問いへの、小さな提案だった。

そしてもうひとつ、大きな意味を持つのが「夜10時までの開催」。代々木公園でこれほど遅くまで開放されるのは初めてだという。管理上の変化にとどまらず、「東京の夜にも自由があっていい」と都市が発する新しいメッセージのようにも感じられた。
なにより印象的だったのは、空気感の柔らかさ。無理に「アジアっぽさ」を演出するのでもなく、かといって日本的な美学を押し出すわけでもない。緩やかに混ざり合うなかで、自分なりの過ごし方を見つけられる。騒がしく過ごすもよし、静かに歩くだけでもいい。その自由さが、心に残った。
このナイトマーケットは「絶対行かなきゃ」というスポットではない。でも、ふと立ち寄って「ちょっとだけ」のつもりが、気づけば長居してしまう。そんな場所だ。7月には新テーマ「星と太陽の市場」での開催も予定されているそうで、今後の展開も気になる。
私にとって、この夜市は単なる異文化体験ではなかった。「にぎわい」って、必ずしも大きな音や混雑だけじゃないんだ。光の下で、黙ってベンチに座っているだけでも、「にぎやかさ」はちゃんと感じられる。そのことを、東京の夜が静かに教えてくれた気がした。

記事:劉洋 (Liu Yang)
編集:一色崇典
トップ動画: Alexandre Cas, Moritz Brinkhoff | JStories
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