世界初!カフェインコントロールで楽しむ新しいデカフェ革命

東北大学との共同開発が生んだ次世代のカフェインレスコーヒー

4時間前
BY YOSHIKO OHIRA
世界初!カフェインコントロールで楽しむ新しいデカフェ革命
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JSTORIES ー 妊娠・授乳中の女性やカフェイン不耐性などの疾患を持つ人たちも本格的なコーヒーの味を楽しめる新しいカフェインレス(デカフェ)コーヒーの製造方法が、量産化に向けて動き出している。カフェインの「ある」「なし」の二者択一ではなく、健康状態やライフスタイルにあわせてコーヒー豆のカフェイン量をコントロールできる方法で、1日に何杯ものコーヒーをたしなむ愛飲家にとっても、カフェインの摂り過ぎを防ぐ選択肢になるという。
デカフェコーヒー豆の輸入量は2019年の2275トンから2022年には62%増の3686トンに急増。しかし、味への不満が大きな課題となっている。  ストーリーライン提供 (以下同様)
デカフェコーヒー豆の輸入量は2019年の2275トンから2022年には62%増の3686トンに急増。しかし、味への不満が大きな課題となっている。  ストーリーライン提供 (以下同様)
コーヒーや紅茶などのおいしさを高めるカフェインは、眠気の解消や集中力を高める効果のほか、肝臓がんや子宮体がんの予防に一定の効果が期待できるなどの報告がある一方、過剰に摂取すると動機や頭痛、吐き気などの身体症状や睡眠障害をもたらす危険性があるとされている。健康な成人の場合、摂取量の目安としては1日あたり400㎎(コーヒー3〜5杯)が推奨されており、カフェイン耐性が弱い人たちはカフェインを取り除いたデカフェコーヒーを選ぶしかなかった。
 こうした制約をなくすため、「ストーリーライン」(東京都世田谷区、岩井順子代表取締役)が着目したのが「カフェインコントロール」という考え方だ。「味の改善はもちろん、コーヒーを飲みたくても飲めない人やカフェイン依存の人にも、摂取量を自分で調整できる選択肢があれば、デカフェ市場の拡大が見込める」と事業化に踏み切った。
カフェインを抑えても、味はそのまま。美味しいデカフェコーヒーの魅力<br>
カフェインを抑えても、味はそのまま。美味しいデカフェコーヒーの魅力
岩井代表は米ポートランドでデザインコンサルティングの仕事をしていた頃、焙煎にこだわった現地のおいしいコーヒーを飲むのが日課になっていた。帰国後、毎日おいしいコーヒーを飲むのが日常になったという。
帰国後、娘の妊娠・出産時に初めてデカフェを飲んだときに、あまりのまずさに驚愕し、デカフェの改革を思い立ったという。2018年7月、「今後さらにデカフェのニーズが高まることは予想がついた。おいしいデカフェがないのであれば、自分が作ろうと思った」と、会社設立を振り返る。
コーヒーが大好きだという岩井代表。ポートランド在住時は「質の高い美味しいコーヒー店を探すのが楽しみだった」
コーヒーが大好きだという岩井代表。ポートランド在住時は「質の高い美味しいコーヒー店を探すのが楽しみだった」
おいしいデカフェを作るには、カフェイン除去の技術が重要となる。岩井さんはリサーチを重ねていく中で様々な食品において特定の物質だけを抽出できる「超臨界流体技術」の存在にたどり着いた。そして、この技術をデカフェ製造に応用できないかと考え、知人から紹介をうけた東北大学の知財管理などを行う東北テクノアーチを通じて、2019年から超臨界技術の研究を進める東北大学大学院工学研究科の渡邉研究室との共同開発をスタートした。
この超臨界流体技術を用いて岩井さんが実用化したのは、「ZEN Craft Decaf Process」という独自技術。これによって、有効成分を流出させることなくカフェインの除去率を0%、30%、50%、70%、100%と細かく調整することが可能になった。
岩井さんによると、カフェイン除去方法には、コーヒー豆を水に浸しカフェインを除去する水処理法のほか、生豆を有機溶媒に漬けてカフェインを分離する有機溶媒法、液体二酸化炭素法、超臨界二酸化炭素抽出法がある。
水処理法は安全な方法だが、香りや味成分が抜けてしまう難点がある。有機溶媒法は安価で簡単な方法ではあるが、生豆が直接薬に触れてしまうことから安全性の面で問題があり、国内での販売はできない。液体二酸化炭素法には長時間処理を行うため有効成分が溶出してしまう欠点が見られるという。
岩井さんのストーリーライン社と東北大は、安全で効率よく、しかも短時間処理で味を損なうことなくカフェインだけを抽出できる超臨界二酸化炭素抽出法をもとに、カフェインの量を細かく調整することを可能にし、生豆の処理から乾燥、焙煎にいたるまですべての工程を最適化できる独自のカフェイン除去方法として「ZEN Craft Decaf Process」を実用化した。
2022年10月、カフェインコントロールの購買データなどを取得するための実証店舗として東京・日本橋に「CHOOZE COFFEE」をオープン。2026年末までに宮城県仙台市に年間50トンのデカフェを製造できる工場を建設し、量産体制への移行を図る計画だ。
東京都中央区日本橋に設けた実証店舗「CHOOZE COFFEE」では、1日のカフェイン摂取量の多いビジネスマンの購買動向を調査している(写真左)。販売しているのはカフェイン量を調整したレギュラー(カフェインそのまま)、ハーフ&ハーフ(カフェイン少なめ)、デカフェ(カフェインレス)の3種類(同右)。
東京都中央区日本橋に設けた実証店舗「CHOOZE COFFEE」では、1日のカフェイン摂取量の多いビジネスマンの購買動向を調査している(写真左)。販売しているのはカフェイン量を調整したレギュラー(カフェインそのまま)、ハーフ&ハーフ(カフェイン少なめ)、デカフェ(カフェインレス)の3種類(同右)。
超臨界二酸化炭素抽出装置を使うことで、コーヒーの香りを残しつつ美味しいデカフェができるという。 
超臨界二酸化炭素抽出装置を使うことで、コーヒーの香りを残しつつ美味しいデカフェができるという。 
カフェインコントロールができる同社のデカフェは今後、健康経営を推進する企業のほか、コワーキングスペースやホテルなどでの販売を強化していく。「海外の事業者から技術面での問い合わせも増えてきており、ニーズの広がりを実感している」。
 同社が目指す将来の目標は「コーヒー生産者と消費者のニーズを日本の技術で同時に解決し、コーヒーの流通を革新すること」と岩井代表は言う。「この技術を使い、2028年を目標に、アフリカではルワンダ、アジアではタイで高付加価値のデカフェを生産できるシステムを構築していく。そのためにも共に協業してくれるパートナーを見極めていきたい」としている。 
記事:大平誉子 
編集:北松克朗
トップページ写真:ストーリーライン
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