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腸内細菌の「カクテル」で心とカラダの安全を支える

最適な細菌の組み合わせを提供、メンタル改善から健康長寿までサポート

Kei Mizuno by Kei Mizuno
05/11/2026
in Life Sciences, BioTech, Lifestyle, News-ja, Wellbeing
0
Home Life Sciences
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JStories ― 腸は「第2の脳」とも呼ばれ、脳からの指令がなくても独立して活動できる。脳と腸は情報を交換し、影響を及ぼしあう関係にある。こうした「脳腸相関」について、膨大な数の腸内細菌が関与し、体や心の異変をとらえ、対応するうえで重要な役割を担っていることが近年の研究でわかってきた。

小腸、大腸からなる腸管には、約1000種類の腸内細菌がいるといわれ、腸内細菌叢(腸内にすむ細菌の集まり、腸内フローラ)の重さは、成人では1㎏~2㎏にも及ぶ。腸内細菌は病原体の侵入や定着の阻止、食物繊維の消化、ビタミン類の生成、短鎖脂肪酸の産生、腸管免疫系の制御、ドーパミンやセロトニンの合成などの役割を担っていることも解明されるなど、新しい研究分野として注目を浴びている。

こうした腸内細菌の力をメンタルヘルスのウェルビーイングに活用しようとしているのが、渋谷区の株式会社NERON(本社:渋谷区、代表:長﨑恭久氏)だ。同社は渋谷区のスタートップ認定制度S-Startupsの初代認定企業でもある。

スタートアップカンファレンス SLUSHで登壇する長﨑さん 写真提供:NERON(以下同様)
現代社会のウェルビーイングを支える技術に

現在、同社が取り組んでいるのは、精神的な不安やストレスを改善するために腸内細菌を効果的に組み合わせた「腸内細菌カクテル」の研究開発だ。世界で最も幸福度が高いとされる国、フィンランドが公開している腸内細菌リストの中から「安全」、「増殖」、そして幸せホルモンと言われる「セロトニン分泌」という3つの目的に最適な腸内細菌を抽出、セロトニン分泌を重視した腸内細菌の組み合わせと配合比率の細胞試験を実施した。

さらに、100億通りの組み合わせからスクリーニングをし、脳機能に直結するような指標で3つの菌を選抜。この菌を活用して、気分障害や睡眠障害、食欲不振、ストレス耐性の低下などの精神および生理機能の改善に寄与する「カクテル」の社会実装を目指している。

同社がビジョンとして掲げているのは、「腸内細菌の力を活用して、現代社会が抱えるストレスや健康課題を根本から解決する」ことで、腸内細菌カプセルによる 未病予防 を掲げている。10年以上腸内細菌の研究に携わってきた代表の長﨑恭久さんは、「この分野は、人間の健康やウェルビーイングを支えるような技術として今後、必ず成長してくる。その発展や健康増進に寄与できるように活動していきたい」と意気込みを語る。

長﨑さんによれば、同社の強みは「まず、菌のスクリーニングのためのプラットフォーム構築をしたこと。2つ目は立ち上げ当初から社会実装、製品販売まで見据えて特許の取得戦略も組み、基礎研究から製品化まで一体で開発していること」で、デザインされた腸内細菌をカプセルに閉じ込め、万人に効果がみられるようなプロダクトづくりを目指している。

株式会社NERON、代表取締役CEOの長﨑恭久さん

現在は細胞スクリーニングを終え、動物の安全性試験と機能性評価が進んでいる。動物の安全性試験が終わった段階で、臨床試験や実証実験に進む計画で、2027年上市のスケジュールで研究開発を進行している。

マウスの機能性試験では脳の免疫細胞が活性化するデータや、「身体の錆び」とも言われる酸化ストレスやプリン体の減少への効果、身体が傷んでくる現象が緩和されるエビデンスも徐々に出てきているという。メンタルヘルスの機能も実証できれば、将来はフィジカル面やロンジビティ(健康長寿)に寄与する「カクテル」プロダクトの製造販売を目指す考えだ。

同社は将来的には創薬まで視野に入れながら、まずは医薬品と食品のちょうど中間に位置するような新しいカテゴリーの製品の実現を目指している。摂取するのは1日1錠。「メンタルストレスを抱えていて、うつ病とは診断されていないが、グレーゾーンにいる人たちのこころの痛みを解決したい。トップアスリート、起業家、経営者など強いストレスがかかるような人に使ってもらうことをまずは想定している」という。広く一般に流通させるべく、目標としては1日換算すると200円~300円程度の価格帯での販売をイメージしているそうだ。

将来は宇宙空間での心身管理にも

現在の最も大きな課題は資金調達と再現性の問題だと長﨑さんは言う。「脳で起きている変化が腸で起きたアクションによるものかどうかの証明に時間がかかる。関係がありそうだとわかってきているが、その証明に実験を積み重ねる必要がある。その上で、市場へ売り込んでいくスピード感も大切だ」

実験で使用している腸内細菌(ビフィズス菌)の画像

分析技術の向上で腸内細菌の解明は進んでいるものの、未知の菌も多く、いま分かっている腸内細菌は全体の15%か20%程度とも言われる。長﨑さんに、5年後10年後の「未来予想図」を尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「5年後には、精神的なバイオティクス事業でグローバル展開をしていたい。メンタル以外にも、フィジカル、ロンジビティに効果的なものなど複数のプロダクトを世に送り出し、上場も見据えるような成長フェーズに入りたい。10年後には、腸内細菌をデザインしてウェルビーイングを向上させていくのが当たりまえの社会を実現し、その一端を担うことのできる会社にしたい。個人ごとに最適化されたオーダーメードの腸内細菌プロダクトで、よりよい社会をつくりたい」

さらに将来のテーマとして、人工衛星で宇宙に細菌を打ち上げ、宇宙に行って帰ってきた腸内細菌と地上にずっといた腸内細菌を比較し、差異がないことを証明できれば宇宙飛行士や宇宙旅行者など宇宙空間に出ていく人たちに活用できるのではと考えているという。実際、宇宙空間に長時間滞在すると腸内細菌の多様性の低下、メンタルヘルスの低下、筋力低下や骨密度減少が起こることがすでに分かっている。

「メンタル、フィジカル、ロンジビティに効果的な腸内細菌カクテルを提供できれば、宇宙でのウェルビーイングにも寄与できる」と長﨑さんは話している。

 

記事:水野佳 | JStories

編集:北松克朗 | JStories

トップ写真: NERON 提供

この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

Tags: FinlandGut HealthInnovationJapan TechMental HealthMicrobiomeshibuyaStartupsTechnologyTokyo
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