JStories―世界有数の火山地帯として知られる日本は、アメリカ、インドネシアに次ぎ世界第3位の地熱資源量(23ギガワット)を有する。一般的な原子力発電所(1基およそ1ギガ)に換算すると、原発23基分に匹敵する規模になる。
しかし、長期にわたる開発期間、土地利用規制や地元温泉業者らとの調整がハードルになって、実際の設備容量は約0.5ギガワット、地熱開発ポテンシャルのわずか2%にとどまっている。
豊富な地熱資源を何とか地元に貢献する事業として活用できないか。そうした問題意識のもと、いま九州を舞台に従来になかった発想で地熱発電を推進する新たな再生可能エネルギー事業が拡大している。
その舞台になっているのは、熊本県阿蘇郡と大分県玖珠郡の県境にある涌蓋山(わいたさん)のふもと、豊富な湯量で知られる「わいた温泉郷」だ。事業主体である「ふるさと熱電」(熊本県阿蘇郡小国町、代表取締役赤石和幸さん)が取り組む地域共生型の地熱発電では、地域住民が主体的に自分たちの地熱資源で収益を得て、自分たちの手で地域の課題を解決していくことを目指している。
同地区では、これまでも地熱発電に手を挙げる事業者はあったが、温泉源の枯渇や温度の低下などへの懸念から、温泉の地権者や地域住民との合意形成が難しかった。700年の歴史ある岳の湯盆踊りなどの伝統行事が中止されてしまうなど地域に分断が生まれ、事業は暗礁に乗り上げたままだった。
しかし、豊富な地熱資源を持つこの地域に大きな可能性を感じた赤石さんは、かつて手掛けたマンションの一括受電契約のノウハウを用い、事業に反対する地権者ひとり1人を説得、彼らに寄り添いながら合意を取り付けた。「子や孫が帰ってくる魅力ある町を作りたい」との思いが、赤石さんと地域住民とをつなぐ共通の思いだった。
2011年、地域住民30戸が主体となり「わいた会」が設立され、わいた第1地熱発電所が立ち上げられた。資金調達や資産形成、運用などを同社がサポートし、地熱発電で得る固定収益は地元に還元され、インフラ整備や教育の充実、観光資源開発などに活用されている。


わいた第1地熱発電所での成果を踏まえて2026年3月、小国町(おぐにまち)全体の課題解決を目指し「わいた第2地熱発電所」がスタート。設備容量約4995キロワット、年間発電量は約3500万キロワットに上り、約8950世帯分の電力を賄えるという。

「私たちの事業は、単に発電量を積み上げるものではない。ゴールは地域づくり」。そう語る赤石さんが同地での地熱発電に取り組む背景には、自身の故郷北海道の産炭地での原体験がある。
「祖父母の時代には炭鉱で町が潤い、映画館やボウリング場もあり活気にあふれていたという話を幼い頃から聞いてきた。地下からの資源をお金に換えることで地域が元気になっていた時代があった」という。赤石さんはこの原体験や小国町での成功事例を基に現在、北海道(弟子屈町)での地熱開発も進めている。
ただ、地熱開発にはまだ様々な課題がある。現在、固定価格買取制度における地熱発電の買取期間は15年間。「この期間を過ぎると、十分な地下資源、設備もあるのに買い取り価格が大幅に下がってしまう場合がある。地熱は社会インフラ。長期固定電源として30年から35年の事業継続へのインセンティブ設計が必要なのでは」と語る。

2025年9月には、世界で地熱開発を展開するベースロードキャピタル(本社:スウェーデン)が日本の地熱資源開発への期待から、同社への戦略的投資を発表した。ベースロードキャピタルには、ビル・ゲイツが設立したBreakthrough Energy VenturesやGoogleなどが株主として名を連ねる。
赤石さんによると、「Googleを例に見ても、AIを使ったデータセンターは24時間電力を必要としている。世界全体が環境負荷の少ないグリーンデータセンターへの移行が進んでいる中、天候や季節、稼働時間などの影響を受ける太陽光発電や風力発電と異なり、地熱発電は昼夜を問わずに安定的な発電が可能であり、高い設備利用率を活かしたベースロード電源としての期待も大きい」と話す。
日本政府も国産のベースロード電源として地熱発電を重要視しており、経済産業省は昨年、温泉地以外でも発電できる次世代型地熱発電を2050年までに国内118地域で開発する方針を発表した。原発約7基分に相当する7.7ギガワットまでの拡大を目指しているという。
「日本には資源がないと言われる。地域には地熱資源のみならず森林資源などもある。これらの営みとの関わりを尊重し、企業が寄り添うことで資源開発は加速していくはず」と強調する。
「安定的供給が可能な地熱の価値をさらに広め、政策的にも地熱と共生していけば地域が動き始める。地域が動き始めると世の中が変わっていくはず。私たちの取り組みが、世界のスタンダードになる日を目指していく」と語った。
記事:大平誉子 | JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真: ふるさと熱電株式会社 提供
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