記録的な暑さが続く中、冷房に頼らない冷却技術が世界で注目を集めている。
英国気象庁(Met Office)は今月、2026年の世界平均気温が産業革命前比1.4℃超えとなる可能性が高く、4年連続でこの水準を超えると予測した。冷房需要の増大は電力需要を押し上げ、それがさらに温暖化を加速するという悪循環が、特に都市部で顕著になっている。
こうした問題に対し、電力をまったく使わない冷却素材が脚光を浴びている。その一つが、日本のスタートアップが開発した放射冷却素材だ。
仕組みは「宇宙への放熱」
大阪ガスと米国と日本に拠点を持つベンチャーキャピタルWiLが出資するスタートアップ、SPACECOOL(本社:東京・港区、CEO:末光 真大)が開発した放射冷却材「SPACECOOL」は、太陽熱を最大95%反射しながら、物理学でいう「大気窓」波長域の赤外線を通じて熱を宇宙空間(約-270℃)へ直接放出する素材だ。通常の断熱・遮熱材が「熱を遮る」のに対し、SPACECOOLは地上から「熱を宇宙に捨てる」という根本的に異なるアプローチで、直射日光下でも表面温度を外気より低く保てる。同社はこの革新的な素材の製造から販売までを担っている。
建物の屋根やコンテナ、屋外の電気設備など、あらゆる表面に貼り付けるだけで機能するため、大規模な工事が不要な点も特徴だ。

サウジの砂漠で29%削減、大阪万博でも実証
技術の実用化は着実に進んでいる。2025年4月時点で国内外の屋外機器5,000台超に導入済みという。
この素材に関する最も厳しい条件での実証結果が、サウジアラビアから報告された。同国エネルギー省が発足したプロジェクトの傘下組織「Oil Sustainability Program(OSP)」のもと、マルチプロジェクトデベロッパーのRed Sea Globalと、ザミルグループの貿易部門がコンテナハウスでの共同実証を実施。2025年2月に発表された結果によると、空調エネルギー消費量が平均約29%削減され、15年間で約21トンのCO₂排出量削減が見込まれるという。テント比較実験では、内部の体感温度が通常テントより約10℃低下した。
2025年の大阪・関西万博でも、SPACECOOLは「ガスパビリオン」の外装膜に採用され、スタッフ用テントや案内スタッフのパラソルにも使用された。同年12月には、経済産業省が主催する「省エネ大賞」のグランプリを受賞している。また最近は、東京都内の小学校などでも体育館や校舎の屋内温度を下げるために導入されている。
海外からも高まる注目
直近では、Temasek Foundationが主催するグローバルイニシアティブ「The Liveability Challenge 2026」(2026年5月20日開催)において、100か国以上・1,500件超の応募の中からトップ3社(ファイナリスト)に選出。同コンテスト9年の歴史の中で日本企業初となる快挙を成し遂げ、民間投資家のKibo InvestなどからInvestment Prize(投資賞)として10万シンガポールドル(約1,100万円)を受賞した。
「電気を使わない冷却」は、日本の猛暑対策や電力需給の両面で直接的な意義を持つ。国際エネルギー機関(IEA)は、世界の冷房向け電力需要が2050年までに現在の約3倍に膨らむと見通しており、電力インフラが脆弱な途上国や砂漠地帯でも導入できるパッシブ冷却技術の社会実装は、気候適応策として注目が高まっている。
日本が強みを持つ素材科学が、ソフトウェアではなく「物理インフラの層」でグローバルな課題に応える事例として、今後の展開が注目される。
出典:SPACECOOL株式会社プレスリリース、英国気象庁(Met Office)発表、Eco-Business(Liveability Challenge 2026)
【さらに深掘り】
最近の動き(このSolution の実績): サウジアラビアでの実証実験(Red Sea Global・ザミルグループ・OSP共同)でAC消費電力が平均29%削減。テントの体感温度を通常品比で約10℃低下(大阪ガスエネルギー技術研究所での比較試験)。2025年4月時点で屋外機器5,000台超に導入実績あり。
市場規模: IEAは2050年の世界冷房向け電力需要が現在の約3倍超になると予測。
業界の動き: 遮熱塗料・断熱鋼板(BlueScope等)・3M Cool Roofフィルムなどが既存の競合技術。SPACECOOLの差別化点は「遮熱(熱を反射)」ではなく「放熱(熱を宇宙へ放出)」という物理メカニズムの違いにあり、外気より低温を実現できる点。第三者による競合比較データは現時点で公開情報なし。
今後の課題: 直射日光下で最大効果を発揮するため、曇天や室内では効果が限定的。価格・大量普及コストは非公開。屋外機器での実績は積み上がっているが、建築物への大規模施工の長期耐候データは蓄積段階。室内温度を直接下げる効果はなく、既存空調との併用が前提。
将来への期待: 「冷やすために電力を使う」ではなく「地球が毎晩行っている自然の放熱現象を、昼間・直射日光下でも起こす」という発想の転換。空調設備の寿命延長と、太陽光パネルの必要枚数削減という二次的CO₂削減効果も確認されており、単純な省エネ以上のシステム的インパクトがある。
トップ写真:SPACECOOL株式会社 提供
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