J-STORIES ― 水素の力で発電して走る燃料電池車(FCV, Fuel Cell Vehicle) は日本が推進すべき「究極のエコカー」として政府の後押しを受けながらも、期待通りには普及が進んでいない。その大きな理由は、車に水素を充てんする日本国内の水素ステーションが極めて少なく、ガソリン車や電動車 (BEV, Battery Electric Vehicle) などにくらべ、車としての利便性がまだ大きく劣っている点だ。
水素ステーションに頼ることなく、コンビニやスーパーで缶ジュースのように買える「水素カートリッジ」があれば、水素の力を活用した新しいモビリティーの世界を広げることができるのではないか――。
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そうした可能性に取り組んできた愛知県名古屋市のベンチャー企業、ABILITY(冨士元雅大代表取締役CEO) が、今年1月下旬に東京ビッグサイトで開かれた自動車の最新技術展示会「オートモーティブワールド」で、車への着脱が簡単にできる独自の「水素カートリッジ」を搭載した小型車のコンセプトを発表した。
出展されたカートリッジは長さ450mm、直径100mmの円筒形で、1本で約100キロの走行が可能。簡単に持ち運びができるほか、すでに水素が充填されているので、車に装着すれば持ち時間なくすぐに動かすことができるという利点がある。
同社では今年中に水素カートリッジを搭載した車のロードテストを実施する予定だ。将来的には、コンビニやスーパーの店頭に水素カートリッジが並び、「購入したカートリッジを、単三電池のように安心して車の燃料として使うことができる」と同社取締役COOの宍戸智彦さんは言う。宍戸さんはトヨタ自動車でGR86(トヨタ自動車とスバルの共同開発スポーツカー)など車両企画開発の責任者を務めていた。
水素カートリッジについては、先駆的企業である仏NAMXが昨年5月、カートリッジ燃料車のプロトタイプを発表した。NAMXが高圧カートリッジを搭載しているのに対し、ABILITYはカートリッジに常圧技術を導入している。常圧カートリッジの場合は高圧に対応する場合より材料や構造を簡素にでき、軽量化が可能。また、常圧カートリッジは危険物とみなされないため、取り扱いもしやすい。
日本には2022年5月現在、全国に2万8475カ所のガソリンスタンドがあるのに対し、水素ステーションの数は159カ所。そうした水素供給インフラの未整備が一因となって、燃料電池車は政府から一台当たり200〜300万円の購入補助金がでているにもかかわらず、6,981台(2021年度、次世代自動車振興センター推計)にとどまっている。
地球温暖化が深刻になる中、世界の自動車市場ではBEVが急速に増加しているが、欧米や中国などにくらべ日本は政府・自動車業界とも「脱炭素」戦略の出遅れ感が否めない。

宍戸さんは、「CO2排出量を減らすなら、これからはFCV。しかし、水素エネルギーはインフラが整備されておらず、水素がエネルギーとして普及されてこなかったのが現実だった。何かしないといけないと思いこのプロジェクトを試みた」と話している。
記事:池田光来 編集:北松克朗
トップ写真:nblxer 提供
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トヨタ、ウーブン・プラネット、持ち運び可能なポータブル水素カートリッジのプロトタイプを開発 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)とトヨタの子会社であるウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社(以下、ウーブン・プラネット)は、手軽に水素を持ち運びでき、生活圏の幅広い用途で水素エネルギーを使用できるポータブル水素カートリッジ(以下、水素カートリッジ)のプロトタイプを開発しました。静岡県裾野市にて建設を進めるWoven Cityをはじめとした様々な場所での実証を通じて実用化に向けた検討を進め、水素が日々の生活で気軽にご使用いただけるエネルギーとなることを目指してまいります。なお、2022年6月3日~5日に富士スピードウェイにて開催されるスーパー耐久シリーズ2022 第2戦において水素カートリッジのプロトタイプの展示を行うなど、多くの方に水素エネルギーをご理解いただき、より身近なエネルギーと感じていただける取り組みを行ってまいります。
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