PROBLEM:
ベネズエラで相次いで発生した大地震により2,200人以上が死亡し、7州で水道システムが機能停止した。ひっ迫する医療機関や被災者は、安全な水の確保という深刻な課題に直面している。POTENTIAL SOLUTION:
東京のスタートアップWOTAが開発した「WOTA BOX」は、AIによる自律制御で使用済みの水の約98%をその場で再生・循環するポータブル水循環システム。わずか100リットルの水で約100人がシャワーを利用できる。
ベネズエラでは、いま最も必要とされる場所で安全な水が不足している。
6月24日、同国北部沿岸をマグニチュード7.2と7.5の地震が39秒間隔で相次いで襲った。7月1日時点で、少なくとも2,295人が死亡し、1万1,200人以上が負傷した。
地震は社会インフラにも甚大な被害を与えた。国際救済委員会(IRC)によると、7州で水道システムが機能停止し、衛星画像の解析では約5万9,000棟の建物が損壊または倒壊したとみられている。国連は、最大680万人が避難所、水・衛生、保健医療などの支援を必要とする可能性があると推計しており、被災した医療機関が対応能力を超える状況となる中、感染症の拡大リスクが高まっていると警告している。
こうした災害で特に難しいのは、飲料水の確保だけではない。飲料水は陸路や空路で運び込むことができる一方、入浴や手洗いなど衛生の維持に欠かせない大量の生活用水を確保することは、はるかに難しい。この課題に対応するため、日本のあるスタートアップは10年以上にわたり技術開発を続けてきた。

100リットルの水で100人がシャワー
WOTAは、2014年に東京大学出身者が設立した東京のスタートアップだ。同社が開発した「WOTA BOX」は、大型スーツケースほどの大きさのポータブル水再生システムである。
WOTA BOXは、使用済みの水を活性炭や逆浸透(RO)膜など6種類のフィルターに通した後、深紫外線(Deep UV)と塩素による殺菌処理を行い、約98%を再生・再利用する。さらに、AIによる自律制御システムが水質を常時監視するため、現場に専門技術者は不要で、大人2人なら約15分で設置できる。
こうした仕組みにより、通常100人がシャワーを利用するには約5,000リットルの水が必要なところ、WOTA BOXなら約100リットルで済む。
この技術は、構想段階にとどまるものではない。
2024年1月の能登半島地震では、WOTAは約100台のシャワー設備と200台の手洗いスタンド「WOSH」を被災地に展開。長期断水の影響を受けた避難所の89%と、68カ所の病院・介護施設で活用された。同社によると、これまでの災害対応では、23自治体、120カ所の避難所で延べ3万人を支援してきた。
また、2023年のトルコ・シリア大地震では、WOTA BOXが国際緊急援助隊(JDR)の支援活動で活用されたほか、カリブ海のアンティグア・バーブーダでは家庭向けの実証実験も進められている。

2026年3月には、茨城県と岐阜県との間で、水循環システムを自治体間で共同活用する広域互助プラットフォームの強化に向けた協定を締結した。
海外での取り組みも進んでいる。2026年5月21日には、国際連合工業開発機関(UNIDO)が実施するカリブ海地域での分散型水循環システムの大型実証事業に関する助成契約を締結した。アンティグア・バーブーダとバルバドスを中心に、従来の上下水道インフラに依存しない家庭用水循環システム「WOTA Unit」の現地導入と運用モデルの確立を目指す。
さらに2026年2月には、日本政府が支援するウクライナのグリーン産業復興プログラムにおいて、UNIDOが実施する実現可能性調査の対象企業47社の一つに採択された。実現可能性調査では、自律制御機能を備えた可搬式の浄水・水循環システムを検証し、調査結果が所定の基準を満たせば、実証事業へ移行する予定となっている。
これら2つのプロジェクトは、WOTAの上下水道インフラに依存しない水循環技術が、気候変動による水不足に直面する島しょ国や、紛争の影響を受けた地域のインフラ復旧にも活用できる可能性を示している。

ベネズエラ危機への対応にも限界はある
WOTAの技術はベネズエラのような災害でも役立つ可能性がある一方、限界もある。
WOTA BOXは少量の水で運用できるものの、電力は必要であり、電力供給が不安定な被災地では十分に活用できない場合もある。また、数百万人に影響が及ぶような大規模災害では、1台で対応できる人数には限りがあり、十分な数の機器の備蓄や輸送体制の整備が不可欠となる。日本でも現在の備蓄・輸送体制を構築するまでには、長年にわたる整備が必要だった。
また、WOTAが事業を展開する水再利用市場は、成長が見込まれる一方で競争も激しい。世界の水再利用市場は、2025年の178億9,000万ドルから2030年には296億1,000万ドルへ拡大すると予測されている。仏ヴェオリアや米ザイレムが大規模水処理システム分野を主導する一方、オランダのHydraloopは家庭向けシステムを展開している。
その中でWOTAの強みは、日本で繰り返し発生する地震災害への対応を通じて培った経験を生かした、可搬性、自律性、災害対応力にある。
分散型水循環システムは、大量の水を被災地へ運び込むのではなく、その場にある水を再利用することで、災害時の水供給のあり方を変える技術だ。
日本は一つ一つの災害から学び、その経験を次の災害への技術開発につなげることで、この技術を磨いてきた。その歩みは、日本以外の地震多発国にとっても、今後ますます参考となるだろう。
本記事の掲載にあたり、JStoriesはWOTAに取材および事実確認を依頼したが、配信時点までに回答は得られなかった。
WOTAについては、こちらの関連記事でも詳しく紹介しています。
トップ写真:WOTA株式会社
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。









