J-STORIES ー 現在世界で約4400万人が失明しているが、そのうちの半分以上は、白内障など予防可能・治療可能な病気が原因で、適切な時期に治療をすれば失明を防ぐことができと言われている。しかし発展途上国などを中心に、電気のない地域などでは、適切な予防や早期治療につながる診療を行うことが不可能だった。
こうした中、スマートフォンに装着するだけで白内障などの眼疾患検査ができる医療機器を日本のスタートアップが開発し、世界の失明を50%減らし、眼から人々の健康を守ることをミッションに途上国や過疎地で活動を広げている。
同機器を開発したのは、東京都の現役眼科医が創業した、慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業OUI Inc.(ウイインク、東京・港区)。
スマホのカメラとライトを利用する同社の眼科機器「Smart Eye Camera(SEC)」は、白内障などの眼科疾患を簡便に診断できるアタッチメントで、眼科にある大型の医療機器と同等の確定診断が可能。眼科医が通常使用する顕微鏡装置の1/10の値段で購入でき、ポケットに入れて簡単に持ち運べる利便性もある。
同社の創業者であり眼科医である清水映輔さんらは、NPO法人(Fight For Vision ・FFV) の活動で、ベトナム農村地域の白内障手術のボランティアに参加しているが、眼科の専門医もおらず、医療機器も不足する状況下で、スマホの光を使って患者の眼を診察しようとする現地スタッフの姿を見て、SECのアイデアを思いついたという。
SECは離島や過疎地域の医療機関で使用されており、現地の医師と本土などの眼科医をつないで遠隔診療を行っている。そのシステムを使用して、海外ではアフリカや東南アジアなど20カ国、100台以上が普及している。
現在、世界の失明人口は4,330万人に上っており、2050年には1億2,000万人に増加するといわれている。同社はSECを活用し、「2025年までに世界の失明を半分に減らす」ことを目標に事業を進めている。
同社はSECが集めた画像データを分析したり、診断を補助したりできる人工知能(AI)を開発中で、来年度の完成をめざしている。このAIが完成すれば、眼科医でなくても、内科の医師などでも診断が可能になり、目の病気を発見できる可能性をより高めることできる。
清水さんはJ-STORIESの取材に対し、将来的な目標として「(SECに集まった)目のデータを使用して、目の病気だけでなく体の病気も見つけることができればいい。多くの人のヘルスケアの向上につなげていきたい」と語った。
同社は、これまで、アジア・アフリカ・中南米地域をはじめとする世界30か国以上で、現地の眼科医・NGO・医療機関・国際機関と協力して、様々なパイロット実証を行ってきた。SECは2019年に日本、2021年に欧州、ケニア、2023年にはカンボジアとインドネシアで医療機器登録を行っている。
2023年4月には「眼鏡市場」を展開する株式会社メガネトップと共同で、インドネシアのバリ島を拠点に活動するJohn Fawcett Foundation/ Udayana Universityに826本のサングラスとメガネフレームの寄贈を行った。また5月には「メガネスーパー」を全国に展開する株式会社ビジョナリーホールディングスと共同で、ナイジェリア北部・カノのECWA EYE HOSPITALに光学台等の眼鏡機器・器具を寄贈している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
アップデート編集:一色崇典
トップ写真:OUI Inc.
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