J-STORIES - 愛らしいペットは、飼い主にとって癒しと安らぎを与えてくれる大切な存在だが、いつかは別れの日がやってくる。かけがえのないペットの死は飼い主に大きな喪失感とともに、精神的、身体的な不調を引き起こす原因にもなりかねない。
最愛のペットが亡くなる前に、元気な姿を残しておきたい、亡くなってしまったペットにまた会いたい。そんな想いに応えようと、亡くなった愛犬の声や表情、仕草などを再現し、ペットとの時間を体感できるサービスが登場した。
2024年1月から同サービスを開始したのは、東京都港区に本社を置く株式会社SASUKE TOKYO(代表:植山佳江 氏)。植山さんの夫、耕成さんがデジタルコンテンツ開発に携わってきた経験と知見を活かし、新サービスを後押ししている。
同社のサービスは、まず愛犬を独自の3D(3次元)フォトスキャンシステムで撮影、立体的なモデルデータを作成する。さらに、AR(拡張現実)技術によって、再現した愛犬の様々な姿や動きをその場の景色と重ね合わせてスマホや専用ゴーグルの中に映し出す。
スマホを使ったサービスでは、カメラで家の中を映すと、その中に亡くなった愛犬が現れ、すぐ目の前で愛らしい動作を繰り返す。再現時間の基本仕様は約40秒。寝姿から起き上がって、こちらに向かってくるまでの一連の動きだけだが、ペットの癖や声などを再現することもできる。専用ゴーグルを装着すれば、愛犬との一体感や没入感をさらに深く味わうことができる。
ペットたちの愛らしい仕草や表情には、毎日の疲れやストレスを忘れさせてくれる力がある。一般社団法人ペットフード協会が1994年から実施している「全国犬猫実態調査」では、犬を飼い始めた動機について「日々の生活に癒しや安らぎが欲しいから」という答えが最も多かった(2023年度調査、全国5万人から有効回答)。
それだけに、かけがえのない家族の一員にもなっているペットを失くした際の悲しみは計り知れない。アイペット損害保険株式会社の「ペットロスに関する調査」(2023)によると、1000人の回答者の中で「ペットロスになった」という人は6割に上った。
さらに、亡くなったペットとの接し方についても、約6割が「後悔していることがある」と回答。「もっと何かできることがあったのでは、という漠然とした思い」を持っていたり、「一緒の時間の過ごし方」をもっと大切にしたかった、といった答えを半数以上の人が選択した(複数回答)。
植山さんが今回のサービスに取り組んだきっかけは、19歳になる愛犬の存在だった。犬の19歳と言えば、人間では92歳ほどの高齢になる。
自分の最愛のペットが歳を取り、具合が悪くなって病院へ駆け込む頻度が増える一方、同年齢のペットが相次いで亡くなっていく。そうした現実を目の当たりにする中で、植山さんは自分の愛犬がまだ元気なうちに、思い出として3Dデータを残しておきたいという想いを持つようになったという。
この3D再現サービスによって、飼い主が過去の記憶をただ振り返るだけではなく、愛するペットと新しい思い出をつくることも可能だ。例えば、一緒に行くことのできなかった場所や自分の大好きな風景などの画像に、ペットの3DCGモデルを組み合わせれば、あたかもその場所でともに時間を過ごすという、実際にはなかった体験を楽しむこともできる。
さらに、同サービスは、愛犬を失った人たちだけでなく、自分のペットの無邪気な子犬時代の姿や成犬になるまでの成長の記録をよりリアルな形で残しておきたいという飼い主にも、利用価値がありそうだ。今後の生成AI の技術の発達次第では、さらに猫や鳥などの犬以外のペットでも同様なサービスを実現できる可能性がある。
失ったペットを取り戻してペットロスを完全に解消するのは難しいとしても、3D映像で作成したアバターであれば「フィギュアやぬいぐるみとは異なり、よりリアルな動きがあるので、懐かしさや癒しを感じることができるのではないか」と植山さんは話す。
同社が現在、開発を進めているサービスは、3Dで作ったペットのアバターが散歩をしたり、他のペットと遊んだり、アバターとなった飼い主同士が交流するなどの新しいコミュニケーション空間となるメタバースの提供だ。ペットを失くした飼い主同士がメタバース上でつながり、思いを共有すれば、より悲しみを癒えやすくする効果が期待できる。
今後の課題の一つは、サービスの料金設定だ。スマホで再会できるプランは、27万円(税別)、専用ゴーグルでより没入感を味わうことのできるプランは37万円(同)。安価ではないが、サービスを立ち上げてから、早速問い合わせが入っているそうだ。
植山さんは「いまはまだ価格的に、経済的に余裕のある方やロスがかなり深い方などに利用は限定されるのではないかと思う。今後、利用者が増え、更に技術の発達により制作の工数を減らすことができれば、もう少し安価に、より多くの方に届けられるサービスとして広げていきたい」と話す。
「自分自身もいつか愛犬の死に向き合わねばならない。1人の飼い主として、また、長年デジタル技術の知見を積んできた技術者として、課題をひとつずつ解決しながら、息の長いライフワークとして取り組み、ペットロスの解消に貢献していきたい」と、サービスの拡充に意欲的だ。
記事:水野佳 編集:北松克朗
トップ写真:株式会社SASUKE TOKYO 提供
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文章内に犬が亡くなるとあり驚きました。何年か前に女優の方が飼い猫が亡くなったとあり、教育レベルが低い人なのかと思いましたが、最近目にする日本語も随分と変化し耳障りが悪かったりするものも多くなりました。長生きするのも考えものですね。