紛争を知る少女が、日本と世界をつなぐ投資家になるまで

ボスニア出身の投資家が語る、日本スタートアップの可能性

3時間前
AYAKA SAGASAKI
紛争を知る少女が、日本と世界をつなぐ投資家になるまで
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記事の目次
JStories —日本ではスタートアップ創出のための環境整備が進み、独創的な発想を持つ起業が次々と生まれつつある。そうした流れの中で、日本と世界を結ぶ存在として注目されているのが、ワールドイノベーションラボ(以下、WiL)だ。WiLは日本と米国に拠点を置くグローバルファンドで、大企業とスタートアップをつなぎ、日本発で世界に影響を与えるベンチャーの創出を目指して、次世代起業家の育成や支援を行っている。
WiLでパートナーを務めるミラナ・クズマノヴィッチさんは、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身。彼女が日本に関わるようになった背景には、幼少期に母国で経験した母国での紛争がある。
ワールドイノベーションラボでSr. Directorを務めるMilana Kuzmanovicさん  写真提供:Milana Kuzmanovic(以下同様)
ワールドイノベーションラボでSr. Directorを務めるMilana Kuzmanovicさん  写真提供:Milana Kuzmanovic(以下同様)
「幼少期に紛争があり、インフラが破壊されて不便な生活を送っていました。そんな中で街を走っていた黄色いバスが、日本政府の支援によるものだと知って驚きました。私たちの国は小さく、日本の隣国でもない。直接的なメリットがあるとは思えないのに、なぜ日本は手を差し伸べてくれたのか。その理由を知りたくなったのです」
紛争終結から3年後、小学校1年生のクリスマス。中央列、左から6番目の赤いセーター姿がMilanaさん
紛争終結から3年後、小学校1年生のクリスマス。中央列、左から6番目の赤いセーター姿がMilanaさん
日本への関心が募り、高校時代には日本史を専攻。西郷隆盛に惹かれ、明治維新をテーマに卒業論文を書いた。大学では経済学と東アジア研究を学び、その両方を生かす形で日本での就職を選んだ。
2010年、高校の卒業式にて。2列目左から3番目がMilanaさん
2010年、高校の卒業式にて。2列目左から3番目がMilanaさん
「日本で出会った人たちはとても温かく、たくさん助けられました。次第に、日本に対して“いつか恩返しをしたい”という気持ちが強くなったのです」
その思いを具体的な行動に移すため、2021年にWiLへ参画。現在はシリコンバレーと東京を行き来し、主にアメリカのベンチャーファンドの引き受けなどを担当しながら、日本のスタートアップシステムの発展を支えている。
「日本で意欲的な起業家がもっと育っていくことを心から期待しています。日本の強みの一つは実行力。やると決めたら計画を立て、着実に実行する力があります。そしてもう一つは、日本の歴史から感じるレジリエンス。何度も大きな困難を経験しながら、国として立ち直ってきた。その回復力は本当に素晴らしいと思います」
米Necessary Ventures社・米Context Ventures社主催のAdvancingVC カンファレンスで登壇
米Necessary Ventures社・米Context Ventures社主催のAdvancingVC カンファレンスで登壇
客観的な目を持つからこそのアメリカと日本のスタートアップの違いについても、率直に語る。
「アメリカで最近大きくなったスタートアップは、いい意味で“イカれた”アイデアが多い。UBERも、知らない人の車に乗るなんてありえない。airbnbも、知らない人の家に泊まるなんて怖いのが普通。SPACE Xも、民間企業がロケットを打ち上げるなんて夢物語というところからのスタートでした。でも、そこには夢を見る勇気があったのです」
その上で、日本の可能性にも強い期待を寄せる。
「日本にも優れた起業家は多く、これまで様々な企業に投資してきました。今後はさらに常識にとらわれないアイデア、大胆に夢を見る力に期待したい。日本のポテンシャルは高いので、失敗を恐れず、挑戦してほしいと思っています」
そうした挑戦を後押しする取り組みが、日本政府が推進しているグローバル起業家等人材育成プログラム「始動 Next Innovator」だ。2015年に経済産業省と日本貿易振興機構(JETRO)の主催でスタートし、WiLは当初から事務局として参画。2025年度からは一般財団法人「始動Next Innovator」として、投資家や起業家、大企業経営者らの協力を得て事業化支援を行っている。
「誰でも参加することができて、自分のアイデアを磨き、アドバイスを受けることができる貴重な機会。国内プログラムで優秀者として選ばれると、シリコンバレーでのプログラムにも参加することができます。卒業生が次の世代をボランティアとして指導するなど、自分が得た価値を次へ返していく文化が根づいているのが素晴らしく、日本人らしい精神だと感動します」
2025年に開催された始動11期、国内プログラムの様子    写真提供:始動 Next Innovator
2025年に開催された始動11期、国内プログラムの様子    写真提供:始動 Next Innovator
今後、日本で特に期待する分野としては、ロボティクス、ディープテック、AI活用などを挙げる。その一方で、AI時代だからこそ重要になるものがあると指摘する。
「AIが進化するにつれて、人間同士のコミュニケーションが弱くなることが懸念されています。その点、日本には気遣いや相手の気持ちを尊重する文化があり、人間らしいコミュニケーションがとても上手い。相手の立場を考えながら話す力は、これからますます重要になります。これは世界が日本から学ぶべきことだと思います」
少子高齢化など、日本が抱える社会問題はいろいろある。が、歴史の中で幾多の挑戦を乗り越えてきた日本はそれを乗り越えて、これからさまざまな問題に直面する国のお手本というべき存在になれるとミラナさんは力強く語る。
「私の価値観の源は、恩返し。自分がもらってきたものを、次の人へ2倍にして渡したい。私自身まだまだ未熟な存在ですが、次の世代、これからの時代のために、もっと頑張りたいと思います」
記事:嵯峨崎文香 | JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真: Milana Kuzmanovic 提供
提供この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp  にお寄せください

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Milana Kuzmanovic

Profile
2014年にウェルズリー大学で学士号、2020年にノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。2014年に日本のシティグループ証券のアナリスト、2016年よりIMF能力開発局 (ICD) にてリサーチアナリスト。2020年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルタントを務め2021年にWiLに参画。ベンチャーおよびグロースファンドへの投資、管理会社レベルでの戦略的イニシアティブの推進に注力する。

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