世界に「タンパク質危機」の救世主になるか?昆虫食にも匹敵、高栄養素スーパーフード「藻」

豊富なタンパク質、EPAを含み、環境にも優しく安定供給可能。新たな栄養源が世界で初めて給食で提供

9月 1, 2023
BY AYAKA SAGASAKI
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J-STORIES ー 世界的な人口増加や気候変動、さらにはウクライナ紛争などの地政学リスクの拡大を背景に、食糧需給の将来を不安視する見方は少なくない。食糧生産が人口増加に追い付かず、2050年には世界に「タンパク質危機」が訪れるとの警告もある。
一方、食の未来を守ろうと、新しい栄養源の開発や実用化も活発に動き出している。環境にやさしく安定した食糧需給をめざす技術革新の取り組みは「フードテック」産業として大きく広がりつつあり、その代表が大豆を使った代替肉や養殖された昆虫などだが、一部に根強い抵抗感がある。
こうした中、代替肉や昆虫食ではない第三の栄養源として新たな注目を集めているのが、タンパク質やビタミン、ミネラルなどを豊富に含む「藻類」だ。古くから食されてはいるものの、一般の食卓に十分に浸透しているとはまだ言い難い。しかし、「近い将来、藻から栄養を摂る時代が来る」と宮城県石巻市にあるイービス藻類産業研究所の寺井良治社長は語る。
寺井さんは今年6月、「日本一の給食」を目指す静岡県袋井市と連携し、「藻」を子供たちの給食に取り入れたユニークな食育を手掛けた。「子どもたちには、今から藻をあたりまえに食べる習慣をつけてもらいたい」という思いからだ。「グリーン給食」と名付けられた今回のサービスは、市内の小中学校、幼稚園、子ども園など28カ所で行われ、9250食が提供された。
「グリーン給食」を食べる小学生     イービス藻類産業研究所 提供
メニューに登場したのは、藻の一種である「ナンノクロロプシス」。タンパク質の含有量が多く、他の藻に比べて必須脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)を豊富に含むことが特徴になっている。必須脂肪酸は体内でほとんど生成できないが、血液をサラサラにして心臓病、動脈硬化、脳梗塞などを予防する効果が指摘されている。
子どもたちは地元の野菜と一緒に、ナンノクロロプシスの粉末を衣に練りこんだ「黒はんぺんの藻揚げ」をおいしそうにほおばっていたという。
静岡県袋井市の小中学校、幼稚園、子ども園で提供された計28箇所で9250食が提供されたグリーン給食は子どもたちに大人気。    イービス藻類産業研究所 提供
静岡県袋井市の小中学校、幼稚園、子ども園で提供された計28箇所で9250食が提供されたグリーン給食は子どもたちに大人気。    イービス藻類産業研究所 提供
「藻を使った給食は、私たちの知る限り世界で初めての試み。新しい味を受け入れられるか不安もあったが、青のりに似た風味でおいしいとおかわりも相次ぐほど好評だった」と語るのは、同研究所の寺井良治社長。
今回の好評を受けて、袋井市では定番のおかずとして藻食がメニューに並ぶことになった。今後は、同研究所の地元、石巻での「藻給食」をはじめ、全国展開を計画中だ。
同社は、ナンノクロロプシスの大規模培養技術を国内で唯一確立、生産しており、現在、大手食品会社の極洋と提携、商品開発も進めている。
母校である袋井南小学校で食育に関するスピーチをする寺井社長。    イービス藻類産業研究所 提供
母校である袋井南小学校で食育に関するスピーチをする寺井社長。    イービス藻類産業研究所 提供
未来のタンパク源としては昆虫食も注目されてきたが、食用コオロギパウダーを給食に導入した際には拒否感も強く、安全性に不安も残ると問題になった。その点、藻には嫌悪感も少なく、栄養価も高い。他にクロレラ、ユーグレナなどの藻類も注目されているが、それらが淡水で育つのに対し、ナンノクロロプシスは海水で育つため、将来的な淡水不足の課題にも対応できる。
ナンノクロロプシスに豊富に含まれるEPAは現在、イワシなどの魚油由来のEPAが医薬品などに使用されているが、原料となる魚資源に限りがあり、原料不足が危惧されている。そもそも、魚はナンノクロロプシスなどの藻からEPAを摂取して蓄積しており、藻の食材利用はEPAをより効率的に取り入れる方法でもある。
海の近くに位置する石巻研究所でのナンノクロロプシス培養風景。    イービス藻類産業研究所 提供
海の近くに位置する石巻研究所でのナンノクロロプシス培養風景。    イービス藻類産業研究所 提供
ナンノクロロプシスの可能性については食品業界、医薬品業界、水産養殖業などからの関心が高まっているが、今後は培養コストの抑制と大量生産体制の確率が課題だ。同研究所ではさらなる普及へ向けて技術研究、開発を続けている。
また、現在、大型培養施設を建設中であるギリシャのバイオ関連企業と技術提携し、現地からの研修生も受け入れている。「ナンノクロロプシスはこれからの地球を救う存在になると信じている。国内外のさまざまな企業、団体と連携してこの動きを進めてゆきたい」と寺井社長は語っている。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:イービス藻類産業研究所 提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
コメント

こういう取り組みは素晴らしいと思います。 アレルギーがある子供を持つ親としては本当に安全なものを子供に食べさせたいです



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