JSTORIES ー 気候変動の影響が広がる中、世界各地で落雷による人身事故やインフラ被害のニュースが相次いでいる。被害総額は日本だけで年間1000億から2000億円とも言われるが、現在の落雷対策は1700年代半ばに発明された避雷針を用いる方法が主流で、性能は進化しているものの、被害ゼロに向けた抜本的な効果は期待できない。
そうした中、通信設備などの雷被害に悩まされてきたNTTが今年4月、落雷させずに雷を捕まえる新しいドローン技術を開発し、その効果を実証したと発表した。
現在、主流となっている方法は、高い建物の屋上などに避雷針を設置、落ちてくる雷を引き寄せて、建物や人を直撃から守る。これに対し、NTTが開発したシステムはドローンを雷雲に近づけて雷を誘発させ、落雷する前に捕捉して安全な場所に大電力を放出する、という仕組みだ。

「自社設備に雷が落ちると、最悪の場合、付近一帯の通信がストップしてしまうが、これまでの対策ではどのようにしても被害をゼロにすることはできなかった。そこで『雷を落とさせない』のではなく、「雷を捕まえて安全なところへ導く』という発想に転換して研究を続けてきた」とNTT宇宙環境エネルギー研究所主任研究員の長尾篤氏は語る。
NTTの発表によると、実験では、雷雲の位置に合わせてドローンを移動、地上のスイッチによってドローンと地上を導通させ、意図的に雷を起こさせることに成功した。そのために開発した独自の技術は大きく2つある。


1つ目は、ドローンに雷が直撃しても誤作動や故障を起こさないための対雷ケージの設計だ。捕まえた雷の大電流を迂回させ、ドローン本体に雷の電流が流れることを防ぐ。同時に電流を放射状に流すことによって、電流が発生させる強磁界が互いに消し合うので、ドローンへの磁界影響が低下する。

2つ目は電界の変動を利用して雷を誘発させる技術。ドローンを雷雲の下に飛行させるだけでは雷は発生しない。このため、ドローンと地上の機器を導電性の細いワイヤでつなぎ、高耐圧スイッチでタイミングを計りながらドローン周囲の電解強度を急速に高め、雷を起こさせる仕組みだ。

雷を誘発する実験はこれまでにも研究の目的でロケットやレーザーを用いて行われてきたが、実用化を見据えた例はなかった。
「ドローンを利用して人やインフラを守るという発想は世界で初めてで、早ければ2030年ごろの実用化を目指している。現在の最大の課題は、雷がいつ、どこで発生するかを知るために発雷位置を予測すること。さらに、人体への影響などの安全対策も必要になる」と長尾氏は話す。
NTTでは、捕捉した雷エネルギーを蓄積し、活用するための研究開発も行っている。「雷一発のエネルギーは約400kWhで、およそ4人家族が1ヶ月間に消費する電力量に相当する。どこまで効率よく蓄積できるかは未知数だが、将来的には有効活用したいと考え、蓄積手法の開発にも取り組んでいる」(長尾氏)

この技術については、すでに国内外から反響が大きいという。高いニーズが予想される分野のひとつは、風力発電の設備への利用だ。風力発電設備は落雷被害に悩まされているが、周囲に避雷針を設置することができない。避雷針ドローンが実用化されれば大きな助けになる。
また、落雷で人的被害が起きやすい屋外イベント会場なども、ドローンを用いた対策であれば必要なときにだけきめ細かく設置することができるため、安全性とコストの両面で大きなメリットになる。
「雷が落ちてから対策する装置は考えられてきたが、ドローンを使って雷を捕まえに行く技術を実用化しようという発想はこれまであまりなかったと思う。世界各地で落雷の被害が増えている現状、私たちの技術がすべての人たちの助けになることを願っている」(長尾氏)
記事:嵯峨崎文香
編集:北松克朗
トップ写真:Envato提供
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