J-STORIES ー 世界各地の急速な都市化とともに需要が増え続けてきたコンクリートは、原料であるセメントの製造過程で石灰石を燃やすため、二酸化炭素(CO2)の大量発生源ともなっている。地球環境の保全に向けて日本など各国は2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡)実現を宣言しているが、その目標を達成するうえでコンクリートの脱炭素化は避けて通れない必須課題だ。
その対策として、発生したCO2の回収、固定化、リサイクルの推進やセメント原料である石灰石の代替品(人工石灰石)の利用、さらには環境にやさしいビルや住宅づくりまで、日本では世界に先行する技術や商品の開発・実用化が急速に進展しつつある。
そうした中で注目を集めている動きのひとつが、製造時のCO2排出量をネットでゼロ以下、つまり大気中のCO2を減少させることができる「カーボンネガティブ」コンクリートの普及促進だ。
鹿島建設は2008年、製造過程におけるCO2排出がゼロ以下になるカーボンネガティブ型のコンクリートを世界で初めて開発、「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」として実用化した。これまでに建築工事で使用される小型の舗装ブロックなどに使われるなど利用が広がっている。
以前から、コンクリートを製造する際に、セメントを他の材料に一部置き換えることでCO2の排出量を削減する技術はあったが、大気中のCO2を減少させることができる「カーボンネガティブ」には至っていなかった。
これに対しCO2-SUICOMは、CO2を吸収して固定する特殊な混和材「γ-C2S(ガンマ―シーツ―エス)」や産業副産物をセメントに置き換えセメントの使用量を抑えるとともに、硬化の際に高濃度のCO2を吸収させることで、コンクリート製造時のCO2排出量をゼロ以下にすることを可能にした。
「CO2を吸わせたコンクリート製品を普及させている例はまだ世界的にもなく、(CO2-SUICOMには)海外からも非常に多くの問い合わせがある」と鹿島建設技術研究所の主席研究員・坂井吾郎さんは話す。「コンクリートが水の次に多く使われている材料であることを考えると、この技術と製品を世界に普及させるインパクトは大きく、大きな社会貢献になる」と、その将来性にも自信を示した。
鹿島は今年、CO2-SUICOMの新しいグレードも売り出し、これまで課題になってきた土木工事向けの大型プレキャストコンクリート製品にも対応した。
新グレードであるCO2-SUICOM E(エコノミー)は従来のP(プレミアム)グレードと違ってカーボンネガティブにはならないが、コスト面に配慮しつつ、CO2削減には十分寄与できる設定になっている。大型(2m×1m)の擁壁(土を掘って切り拓いた際ののり面・斜面が崩れないようにカバーするためのブロック状の製品)なども展開をしているという。
「気候変動、CO2削減は日本だけではなく世界が直面している課題。その目標に向かってできることを考えた時に、(CO2-SUICOMの)もう少し大きな製品も展開することが世の中の役に立つのでは、という思いがあった。コンクリートのプレキャストメーカータッグと組んで、今後はこういった大きな製品も作って行く予定」と坂井さんは言う。
鹿島建設ではCO2-SUICOMのほかにも、セメントを産業副産物等に置き換えたセメント低減コンクリート(ECM)やCO2固定型コンクリートなどの環境配慮型コンクリートなど複数の製品を開発。CO2-SUICOMが活用できない部分には、これら環境配慮型コンクリートを提案することで、CO2削減に向けた取り組みを行っている。
日本政府は、気候変動に関する国際連合枠組み条約、パリ協定、並びに締約国会議の取り決めに基づき、毎年温室効果ガスの排出・吸収量の目録を作成し国連に提出している。今年4月に発表された2022年度の国内の温室効果ガス排出・吸収量には、「科学的な知見やデータ等が整った」としてCO2-SUICOMを含む環境配慮型コンクリートの吸収量(CO2固定量)が世界で初めて算定され、国連に報告された。CO2の吸収量が公式に算定されたことを受けて、環境省は、将来的には、コンクリートに吸収されたCO2をクレジットとして売却するなどの「Jクレジット化」を検討するとしている。
「社会に貢献したいという私たちの願いが開発への取り組みを支えている。まずは日本国内で技術をしっかり確立して、世界に広く普及させていきたい」と坂井さんは話している。
記事:水野佳 編集:北松克朗
トップ写真: 鹿島建設の報道資料より
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