[PODCAST] 不妊治療を支える日本の新テクノロジー (Part1)

In partnership with Disrupting JAPAN

11時間前
BY DISRUPTING JAPAN / TIM ROMERO
[PODCAST] 不妊治療を支える日本の新テクノロジー (Part1)
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JStoriesでは、革新的な取り組みを行う日本のスタートアップを海外に紹介している人気ポッドキャスト番組 Disrupting JAPANと提携し、同番組が配信している興味深いエピソードを日本語で紹介しています。以下は、iPS細胞を用いた次世代の不妊治療法を開発するDioseve(ディオシ―ヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さんとのインタビューで、複数回に分けて記事をお送りします。
*オリジナルの英語版ポッドキャストは、こちらで聴取可能です。
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している
Disrupting JAPAN:Disrupting JAPANは、Google for Startups Japan の代表で東京を拠点に活動するイノベーター、作家、起業家であるティム・ロメロ氏が運営するポッドキャスト番組(英語)。ティム氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している
Disrupting Japan の創立者で自ら番組ホストも務めるティム・ロメロ氏
Disrupting Japan の創立者で自ら番組ホストも務めるティム・ロメロ氏

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(イントロダクション)

日本の最前線で活躍する起業家や投資家(VC)たちと本音で語る「Disrupting Japan」、ティム・ロメロです。
日本の少子化は世界的にも頻繁に取り上げられる問題ですが、実は近い将来、同じ課題に直面する先進国は他にも数多くあります。社会制度や経済面での大きな変革が求められる一方で、テクノロジーも解決に向けて大きな役割を果たしつつあります。
今回は、人の誕生に関わる先端医療をテーマに、Dioseve(ディオシーヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さんにお話を伺います。Dioseveは、iPS細胞から卵子を作り出す技術を開発しており、これは体外受精(IVF)だけでなく、生殖医療全般にとって大きな前進となることが期待されています。また、同社が進める技術の一部は、早ければ来年にも商用化に向けた動きが始まる可能性があります。対談では、Dioseveの技術の仕組みや期待される社会的インパクト、そして避けて通れない倫理面・安全性の課題に至るまで幅広く議論します。さらに、日本には豊富な研究力と人材があるにもかかわらず、なぜバイオテック系スタートアップのエコシステムがまだ十分に成長していないのか、その背景にも迫ります。とても興味深い内容ですので、ぜひ最後までお楽しみください。

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本編

Dioseve(ディオシーヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さん  写真提供:Dioseve
Dioseve(ディオシーヴ)の共同創業者兼代表取締役である岸田和真さん  写真提供:Dioseve
ティム・ロメロ(インタビューアー、以下ロメロ):今日は、iPS細胞を活用した新しいアプローチで不妊の課題に挑むDioseveの岸田和真さんにお越しいただきました。本日はよろしくお願いします。
岸田和真(以下、岸田):お招きいただき、ありがとうございます。
ロメロ:イントロでは、御社の取り組みを大まかにご紹介しましたが、あらためて教えていただけますか?
岸田:はい。私たちは、iPS細胞を卵子や卵巣の細胞など、さまざまな生殖に関わる細胞へと分化させる技術を持っています。
ロメロ:この技術は、現時点では不妊治療には使われていませんが、将来は大きな可能性を持っていると言えますよね。
岸田:そうです。現在、体外受精の成功率は依然としてかなり低く、その治療過程も体への負担がとても大きいのが実情です。ですが、もし私たちが開発している iPS細胞由来の卵巣細胞などの技術が使えるようになれば、体外受精は今よりずっと利用しやすいものになり、成功率も大幅に向上する可能性があります。そうなれば、これまで子どもを持つことが難しかった多くの女性に、新たな選択肢を届けられるはずです。
ロメロ:女性の体から採取した卵子ではなく、iPS細胞から作った卵子を使うことで、なぜ成功率が上がるのでしょうか?
岸田:通常の体外受精では、まず女性の体から卵子を採取します。しかし、その中には未成熟の卵子が多く含まれており、未成熟卵子は受精に使うことができません。そこで私たちは、そうした未成熟卵子を体外で成熟させ、受精可能な状態にすることができます。これは、体外受精の成功率を直接高めることにつながる技術です。
もう少し補足すると、私たちは大きく2つの技術を開発しています。1つは、卵子そのものをiPS細胞からつくり出す技術。これは、つくった卵子をそのまま受精に利用できる可能性があります。もう1つは、iPS細胞から卵巣の細胞をつくり出す技術で、こちらは現在の体外受精のプロセスを支える「サポート細胞」として機能し、治療全体の効率を高めることが期待されています。

体外受精が日本で広がる現状と背景

ロメロ:実は、日本で体外受精がこれほど一般的になっているとは思っていませんでした。現在、日本で生まれる赤ちゃんの約7%が体外受精だそうですね。
岸田:はい。年間では6万件以上が体外受精による出生です。
ロメロ:日本でここまで体外受精が広がっているのは、どんな背景があるのでしょうか?
岸田:大きな要因として、結婚や第一子の出産年齢が上がっていることが挙げられます。かつては平均がおよそ29歳でしたが、現在では、女性のキャリア形成やライフステージの変化により、第一子の出産がより遅くなる傾向があります。そして、妊娠のしやすさは年齢と強く関係しています。年齢が上がるほど妊娠は難しくなるため、これが最も大きな理由だと考えられます。
ロメロ:日本は体外受精による出生割合が世界でもトップクラスですが、初産年齢も他国と比べて特に高いのでしょうか?
岸田:米国と比べるとその通りで、日本のほうが女性が第一子を出産する時期はかなり遅くなる傾向にあります。
写真提供:Envato
写真提供:Envato

非・医学系出身のCEOがバイオテックに挑む理由

ロメロ:なるほど。それでは、技術や市場戦略の話に入る前に、少し話を戻してご自身についてお伺いしたいと思います。2020年に早稲田大学を卒業後、投資銀行に入られたとのことですが、そこからどうしてDioseveを立ち上げることになったのでしょうか?
岸田:実は高校生の頃には、すでに起業すると決めていました。大学ではいくつかのスタートアップでインターンを経験し、その中でスタートアップのCEOは、資金調達が主な役割の一つであると気づきました。
ロメロ:確かに、それは大事な仕事ですね。
岸田:はい。それで、「金融を学ぶにはどうすればいいだろう?」と考え、投資銀行に進むことに決めました。
ロメロ:でも長くは続きませんでしたね。
岸田:はい、会社には申し訳ないのですが、金融を学んだ後、辞めました。面接の際に「近い将来、起業するつもりです」と宣言していたので、会社も了承してくれました。
ロメロ:おそらく会社としては「まさか2年後だとは思わなかった」という感じでしょうね。
岸田:そうだと思います。
ロメロ:では、どのようにしてDioseveを立ち上げることになったのですか?なぜこの分野を選んだのでしょうか?
岸田:先ほども言ったように、高校生のときから起業を決めていたのですが、その当時、C型肝炎と診断され、肝がんのリスクもあると言われました。親も同じ病気で、当時は治療法がありませんでした。しかし、医師から「3年後に新薬が日本に導入される」と言われ、その通りに3年後、実際に治療薬が登場したのです。その薬は驚くほど効果があり、私も親も祖父母も完治しました。
その時、「バイオテクノロジーに命を救われた」と強く感じ、「今度は自分がバイオテクノロジーで他の人を救う番だ」と思い、バイオテック企業を立ち上げようと決めました。
ロメロ:大学では医学や生物学を専攻していたのですか?
岸田:いいえ、地質学を学んでいました。
ロメロ:地質学!全く違いますね。
岸田: はい、全然違います。
写真提供:Envato
写真提供:Envato
ロメロ:では、創業メンバーとはどのように出会ったのですか?
岸田:ベンチャーキャピタルのANRIが、事業の核となる技術を発明した浜崎伸彦博士を紹介してくれました。意気投合した後、「一緒に会社を立ち上げませんか?」と声をかけたところ、浜崎さんも「やりましょう」と快く応じてくれました。
ロメロ:創業メンバーの中で、医学系のバックグラウンドがないのはあなた1人ですか?
岸田:そうです。でもご存じの通り、スタートアップでは金融がとても重要ですから。
ロメロ:本当にその通りですね。この10年で特に感じるのは、日本のディープテック系スタートアップにおいて、以前は「教授がCEOを務めるのが当たり前」という風潮があったのが、少しずつ変わってきていることです。
岸田:そうですね。
ロメロ:CEOが不向きな学者も多いため、それは良くないモデルだと思っていましたが、最近ではその状況も変わりつつありますね。
岸田:はい、そう思います。

なぜ体外受精は40年間、大きく進化しなかったのか

ロメロ:では、技術と市場戦略についての話に移りましょう。先進国では、女性が子どもを産む年齢が年々遅くなっています。これはどの国でも非常に重要な社会問題です。体外受精は1980年代に導入され、これまで大きな成功を収めてきましたが、この40年間で目立ったイノベーションはあまりなかったように感じます。なぜなのでしょうか?
岸田:おっしゃる通りです。まず、体外受精の発明自体が非常に革新的でした。その後は、卵子を採取し受精させるというプロセス自体がとてもシンプルで、改善の余地が少なかったのです。しかし、唯一大きな改善の余地があったのは「卵子の成熟」でした。卵子は成熟して初めて機能するようになりますが、それを可能にしたのがiPS細胞技術です。
ロメロ:つまり、卵子の成熟化以外は、ほぼ最適化されていたということですね。
岸田:医師ごとに意見は異なりますし、どの医師も自分の方法が最適だと考えています。ですが、体外受精における第二の大きなイノベーションは、ガラス針を用いて精子を卵子へ直接注入する顕微授精(ICSI)だと思います。以前は、卵子と精子を同じ皿に入れて、自然に受精するのを待つだけでしたが、1990年代に顕微授精が導入され、受精率が劇的に向上しました。
(第2回に続く)
第2回では、iPS細胞を用いた生殖医療の安全性や倫理的課題、さらに英国での市場展開を視野に入れたDioseveの戦略について伺います。
[このコンテンツは、東京を拠点とするスタートアップポッドキャストDisrupting Japanとのパートナーシップにより提供されています。 ポッドキャストはDisrupting Japanのウェブサイトをご覧ください]
翻訳:藤川華子 | JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真:Disrupting Japan 提供

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本記事の英語版は、こちらからご覧になれます
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