[インタビュー] 長年のスタートアップ・ウォッチャーが予測:日本の「ユニコーン」はもっと増える

日本のユニークさが生む、スタートアップと大企業との間の「コラボレーション」

9月 1, 2023
By Toshi Maeda
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フルインタビュー動画(英語)こちらでご覧になれます。
シリーズ: J-STORIES1周年 
ESGやSDGsの推進に向け、日本企業や研究機関、スタートアップなどが様々な分野で進めている革新的な取り組みを世界の視聴者やジャーナリスト、投資家に伝える国際ニュースサービスJ-STORIES。J-STORIESでは、1周年を記念して、さまざまな著名人に日本発のソリューションが持つポテンシャルについて話を伺います。第3回目のゲストは、自身も東京を拠点に活動する連続起業家であり、スタートアップ・ポッドキャスト「Disrupting Japan」の創設者として200人以上の日本の起業家にインタビューした経験を持つティム・ロメロ氏に日本のスタートアップの可能性について聞きました。
ティム・ロメロ氏:米国出身。東京を拠点に活動するイノベーター、連続起業家。元ミュージシャンでもあるなど、ユニークな経歴と多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と連携してテクノロジーを使った新規ビジネスを生み出すなど、スタートアップだけではなく、大手企業の裏表も知り尽くす。2014年に、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting Japan」を立ち上げた。現在は、Googleで日本のスタートアップを担当する統括責任者 (Head of Startups Japan)も務める。
ティム・ロメロ氏:米国出身。東京を拠点に活動するイノベーター、連続起業家。元ミュージシャンでもあるなど、ユニークな経歴と多彩な肩書きを持つ。東京電力など日本の大企業と連携してテクノロジーを使った新規ビジネスを生み出すなど、スタートアップだけではなく、大手企業の裏表も知り尽くす。2014年に、日本のスタートアップと世界の架け橋になるべくポッドキャスト番組「Disrupting Japan」を立ち上げた。現在は、Googleで日本のスタートアップを担当する統括責任者 (Head of Startups Japan)も務める。

日本からさらにユニコーンが?

J-STORIES ー 東京を拠点に活動する連続起業家であり、自身のスタートアップ・ポッドキャスト「Disrupting Japan」のために日本の起業家200人以上にインタビューした経験を持つ米国籍のティム・ロメロ氏は、日本屈指のスタートアップウォッチーだ。ロメロ氏は、日本のスタートアップの今後の成長を楽観視している。
確かに日本のスタートアップは数だけ見れば、他国に比べて見劣りする。米国や中国においては数百社に上る「ユニコーン(企業価値が10億ドルを超える若い技術主導型企業)」の数は日本では十数社にしか満たないが、ロメロ氏はその理由について個々のスタートアップの資質に問題がある為ではなく、早期に価値の低い新規株式公開(IPO)を強いられてきた歴史的な背景にあったと説明する。
「日本のベンチャーキャピタル(VC)業界は歴史的に、価値の低い新規株式公開(IPO)を安全かつ安定的に行うよう設定されてきました。それが業界の構造なのです。創業者は早期にIPOするよう圧力をかけられました。これらの企業が米国にあれば、もっと長く非公開のままだったでしょう」
ティム・ロメロ氏とJ-STORIES編集長 前田利継との対談の全編動画(英語)は、こちらからご覧になれます。
つまり、日本の有望なスタートアップがより長く非上場であったならば、日本からもっと多くのユニコーンが生まれていたはずだというのである。そして実際、近年になってその傾向が見え始めているという。日本においてもVCが以前より大規模な資金の調達と供給を始めており、日本のスタートアップがより長く非公開であり続けられる構造に変わってきたと言うのだ。
「私たちが今目にしている変化は、外国資本が市場に参入してきたことが大きな要因です。成長を続けるための資金調達が容易になってきているです。さらに、グローバルな野心を持つ地元の起業家の増加や、スタートアップと大企業がコラボレーションするという日本独自の特徴も、日本のスタートアップ業界を後押ししています」

独自のコラボレーション・システム

アメリカ東海岸出身のロメロ氏にとって、このスタートアップと大企業の「コラボレーション」こそが、日本のユニークなシステムであり、今後のアドバンテージになりうる、と指摘する。
「アメリカでは、スタートアップと大企業は天敵同士のようなものです。どの新興企業も、大企業を廃業に追い込み、その座を奪うために成長することを望んでいます。一方、日本では新興企業と大手ブランドは敵対するのではなく、パートナーシップを築く傾向があリます。特に驚くのはコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)ファンドによるスタートアップへの資金提供の多さです」
もちろん、この日本特有の大企業による支援は、スタートアップにとって諸刃の剣でもある。パートナーである大企業の意思決定を待ったり、大企業の思惑に引きずられる結果、成長が遅くなるリスクがあるからだ。しかし、総合的に考えて、こうした関係性はスタートアップの安定成長を可能にし、大企業との協力関係を維持することで双方にとって「有益な仕組みになっている」、とロメロ氏は語る。
「大企業による支援は日本特有で、スタートアップのより安定した成長を可能にし、双方にとって有益な仕組みになっている」
「大企業による支援は日本特有で、スタートアップのより安定した成長を可能にし、双方にとって有益な仕組みになっている」

日本は再グローバル化するのか?

こうした中、ロメロ氏は、グローバル化を目指す日本の起業家が増えていると感じている。
「10年前、あるいは5年前に比べて、日本の起業家は国際的な視野を持つようになったと思います。ベンチャーキャピタル業界において私が目撃してきた変化、つまり、スタートアップが早急な株式公開を強いられなくなったことで、より多くの資金を後期段階の成長に利用できるようになったことが大きい。起業家がグローバルな野心を持ちやすい環境が生まれているのです」とロメロ氏。
環境は整ってきたものの、マインドセットという観点からするとまだ課題は残っていると言う。
「まだまだ日本の起業家は、今よりも更にグローバルな意識を持ち続けることが必要だし、海外からの潜在的な競争をより意識するべきでしょう」

60年代に巻き戻す 

ロメロ氏は、日本のスタートアップがより成長する為に必要なこととして、日本の産業が 「信じられないほどグローバル 」だった1960年代の姿勢に戻ることだと指摘する。
「当時の日本企業は確かに英語でのコミュニケーションレベルは低かったかもしれません。しかし、彼らは国際的な考え方を持っていたため、より革新的でした。彼らは世界のあらゆる場所で、自分たちの業界で何が起こっているかを理解していたのです。そのようなマインドセットで言えば、今の中国が良い例でしょう。中国は日本よりも大きな市場を自国に持っていますが、中国のスタートアップは自国の市場だけをターゲットにせず、非常に国際的なマインドセットを持っている傾向があります。マインドセットの問題は、自国の市場規模で決まるわけではありません」
「60年代の日本企業は確かに英語でのコミュニケーションレベルは低かったかもしれませんが、国際的な考え方を持っていたため、より革新的でした。世界のあらゆる場所で、自分たちの業界で何が起こっているかを理解していたのです。」
「60年代の日本企業は確かに英語でのコミュニケーションレベルは低かったかもしれませんが、国際的な考え方を持っていたため、より革新的でした。世界のあらゆる場所で、自分たちの業界で何が起こっているかを理解していたのです。」

求められるロールモデル

日本の起業志望者にとって今こそ求められているのが、身近な「ロールモデル」を持つことだとロメロ氏は語る。日本の成功した起業家といえば、楽天の三木谷浩史CEOやソフトバンクの孫正義CEOのような業界のスーパースターを思い浮かべる人も多いかもしれないが、ロメロ氏は、ロールモデルとして必要なのは、そこまでの大物ではなく、起業家が似ていて親近感の持てる人物だと言う。
「年配のスーパースターを目指すことはギャップが大きすぎて、高校生や大学生にとっては、イメージしづらいのではないでしょうか。むしろ自分より5歳か10歳くらい年上の人や、海外で成功した人がロールモデルとして適切でしょう。起業家を目指す若い日本人は彼らを見て、『ああ、あの人たちは私と似ているよね、と思える。この『より近い』年齢のつながりが重要だと思います」

政府を呼び込む

ロメロ氏は、日本のスタートアップの成長に欠かせないもう一つの重要な要素として、目に見える形での政府の関与や支援を挙げた。政府が資金援助や、投資をすることはそのこと自体にメリットがあるだけでなく、それを公にすることでより大きな後押しが期待できると言うのだ。
米国でもシリコンバレーの発展の背景には、国防総省やその関連機関による積極的な関与と資金供給があった、それらは必ずしも一般に大きく宣伝されたものではないが、日本の場合はもっと目に見える形で、政府の関与や支援を行った方が良いのではないかとロメロ氏は提案する。
「政府が関与しお墨付きを与えることで、大企業がスタートアップと協力することを後押しすることになります。新興企業がより合法的に見えるようになり、それまで慎重だった企業が支援したり、才能ある人材がその企業に加入しやすくなるのです。日本では最近、政府がスタートアップ支援により多くの資金とリソースを投入していることは素晴らしいことだと思います。そうすることでスタートアップに参加することが社会的に容易になります」
「政府が関与しお墨付きを与えることで、大企業がスタートアップと協力することを後押しすることになります。新興企業がより合法的に見えるようになり、それまで慎重だった企業が支援したり、才能ある人材がその企業に加入しやすくなるのです。」
「政府が関与しお墨付きを与えることで、大企業がスタートアップと協力することを後押しすることになります。新興企業がより合法的に見えるようになり、それまで慎重だった企業が支援したり、才能ある人材がその企業に加入しやすくなるのです。」

足りないのは危機感とコミュニティ

ここまで日本のスタートアップの将来性に明るい展望を語ったロメロ氏だが、苦言を呈することも忘れていない。日本の起業家には "危機感 "と”コミュニティ”が欠けているように見えると言うのである。
「昨年サンフランシスコに戻ってきたときにそのことに気づいたのですが、日本の起業家たちは、知識や技術革新の面では世界のどこの国にも負けないレベルにあるものの、"今すぐやらなければならない "という切迫感が欠けています。『ワオ、彼らは素晴らしい顧客だ。今日電話しなければ!』『前四半期に20%成長したのなら、今四半期は25%成長しよう!』アメリカの起業家に当たり前のように存在しているそうした切迫した気持ちが、日本には欠けているように思うのです。
「そして、もう一つ欠けているのは、みんなが協力し合い、アイデアを出し合う、そんなペイ・イット・フォワード (pay it forward: 恩送り)的なコミュニティでしょう。生き残るためには、(業界内での)協力意識が必要だと思います」
Disrupting Japan:ティム・ロメロ氏が運営する、日本の起業家とスタートアップの紹介に特化したポッドキャスト番組(英語)。ロメロ氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。Disrupting Japan のエピソードは、一部を日本語記事化をしてJ-STORIESでも掲載・配信中。
Disrupting Japan:ティム・ロメロ氏が運営する、日本の起業家とスタートアップの紹介に特化したポッドキャスト番組(英語)。ロメロ氏が数年後には有名ブランドになるポテンシャルがあると見出したイノベーティブな日本のスタートアップ企業をピックアップして、世界に紹介している。Disrupting Japan のエピソードは、一部を日本語記事化をしてJ-STORIESでも掲載・配信中。
記事:前田利継 編集:一色崇典 
トップ写真:J-STORIES
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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