J-STORIES ー 太陽光に含まれる波長の短い近赤外線領域を吸収し、発熱や遮熱を自在に制御できる日本発の技術が新たな分野でも活用されつつある。従来の用途だった自動車や鉄道の窓ガラスの材料だけでなく、アパレルや建材、農業、医療など幅広い分野での応用が進んでおり、この機能を付与した素材を使ったジャケットや毛布などで、エネルギーが途絶えた被災地や戦地への支援にも貢献できる可能性がある。
太陽光を吸収して発熱、遮熱を自在にコントロールできる近赤外線吸収微粒子「CWO」は住友金属鉱山が2004年に独自開発した新素材。同社はすでに国内外で特許を持ち、欧米を中心に自動車や鉄道のウィンドフィルムやカーポートの建材など、主に工業用材料として広く利用されている。
この技術の用途をさらに広げるため、同社はこの素材(CWO)を「SOLAMENT」としてリブランド。近赤外線を吸収し熱に変換する機能により、内部の上昇温度を防ぐことができる特徴を生かし、アパレルや農業など、新たな分野への活用を進めている。
この素材は粉末や液体の状態でも使うことができ、製品に塗布するだけでなく、繊維に混ぜ込むこともできる。たとえば、この素材を使えば、太陽光の近赤外線を吸収し、羽毛製品並みの温かいダウンジャケットができる。さらに、遮熱機能を利用して、農業ハウスの室温の上昇を抑えることも可能だ。
粉体材料事業部 企画開発部プロダクトマネージャーの熊田哲さんによると、「素材に使う微粒子の濃度を調節することにより、上昇温度は調節可能。また、濃度を上げることで心配される、肌への刺激性や口から入った場合の安全性についても試験済み」という。
同SOLAMENTプロジェクトリーダーの石橋佳祐さんは「夏場に灼熱の太陽が照り付ける九州で、これまで作れなかった野菜を収穫できるなど、(この素材を使った)新たなビジネス創出の可能性が見えてきた」と期待を込める。
「SOLAMENT」を使ったダウンジャケットと、羽毛の入っているダウンジャケットを着用した際の温度を比較した実証実験では、「SOLAMENT」の特徴である優れた可視光線透過性と近赤外線吸収能力により、通常のダウンジャケット同等の温度変化が見られたという。
「この機能を付与したブランケットなどがあれば、電気のない被災地や戦地などでも、太陽光で暖を取ることができ、被災者支援として役立てられる」と石橋さんは災害対策への貢献にも意欲を示す。
意外な用途としては、同素材の近赤外線を吸収する特性を生かし、スポーツ選手のユニフォームなどに使うと、これまで問題となっていた赤外線カメラによる盗撮防止にも大いに役立てられる。石橋さんは最後に、「SOLAMENTという新たなテクノロジーで、アスリートや様々な分野の可能性に光を当てていきたい」と語った。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:住友金属鉱山 提供
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