水陸両用船で初の無人運航

内向海運の人材難打開へ一歩

5月 25, 2022
by yui sawada
水陸両用船で初の無人運航
この記事をシェアする
J-STORIES ー 日本の国内物流を支える大動脈である内航海運の運営が、船員の高齢化や人手不足による構造的な危機に直面している。その打開をめざした無人運航船プロジェクトのひとつ、水陸両用船の無人運転の実証実験が今年3月、群馬県八ッ場あがつま湖で行われ、およそ2km、約30分の運航を無事に完了した。水陸両用船の無人運転が成功したのは世界で初めてという。
船舶の無人運航システムの開発には複数の企業が持つ技術を掛け合わせる協力や多額の資金が必要で、業界を横断する取り組みが求められていた。今回、日本財団がそのイニシアチブをとり、実証実験が実現した。
このプロジェクトは、日本財団が進めている「MEGURI2040」。水陸両用船の無人運航については、船の無人運行に必要な技術を持つIT企業のITbook(東京都)や自動運転技術を研究する埼玉工業大など5社・団体が結集、共同事業体として開発と実証実験を進めている。
八ッ場あがつま湖での実証実験は、すでに同湖の観光事業に使われている水陸両用バスを活用。自動車の自動運転技術を改良して導入、通信にはローカル5Gを使った陸上からの監視・運転システムも開発した。
無人運航の実証実験を行った全長11.83m、総トン数11トンの「八ッ場にゃがてん号」     日本財団 提供
無人運航の実証実験を行った全長11.83m、総トン数11トンの「八ッ場にゃがてん号」     日本財団 提供
今回の成功について、日本財団海洋事業部で開発や人材育成などを担当する中川直人(Nakagawa Naoto)さんはJ-Storiesの取材に対し、「水陸両用船が実用化されれば、船から運んだ貨物を港で積み下ろす作業を省くことができ、国内の船員の人手不足や高齢化の問題を解決できるのではないか」と話す。
また、日本財団海洋事業部で海洋船舶チーム全体を率いる桔梗哲也(Kikyo Tetsuya)さんは「無人運航できることを技術的には証明できたので、2025年までに実用化できるようにプロジェクトを進めていきたい。日本の問題を解決するためのプロジェクトではあるが、これが派生し世界の無人運航船の普及、世界の船舶に関わる問題にも役立つことができたら嬉しい」とJ-Storiesに語った。
今後の課題について、桔梗さんは「今回はダムの中、波の無いところで行われたため、海で実証実験を行うためには波にも耐えられる水陸両用船を作っていく必要がある」と話している。
実証実験が行われた水陸両用船の運転席。船舶運転の規則上、運転席に監視員を搭乗させた上で陸からの遠隔操作を行った     日本財団 提供
実証実験が行われた水陸両用船の運転席。船舶運転の規則上、運転席に監視員を搭乗させた上で陸からの遠隔操作を行った     日本財団 提供
「MEGURI2040」プロジェクトでは、今回の水陸両用バスの実証実験だけでなく、船の無人運航について、①船舶交通が非常に多い海域での航行、②720kmを18時間かけて行った長距離航行、③50km/hのスピードでの航行、など多くの実証実験にも成功している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗 
トップ写真:日本財団 提供
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

***

上記の記事の内容は、動画リポート(英語)でもお伝えしています。

***

本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。
コメント
この記事にコメントはありません。
投稿する

この記事をシェアする
人気記事