J-STORIES ー 日本にもっとも多く分布している樹木であるスギやヒノキはおよそ40年で成木になるが、これを過ぎるとCO2の吸収力も低下すると考えられている。林野庁によると、日本の人工林の半分以上がすでに樹齢50年を超えており、今のペースで森林が老いていくと脱酸素への効果がさらに低下する事態になりかねない。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する森林の「脱炭素」が欠かせない状況だ。
こうした中、これまでの品種より約1.5倍のスピードで早く成長する「エリートツリー」が注目を浴びている。「エリートツリー」は、成長が早い為、早期の木材利用と、二酸化炭素削減を同時に達成するだけでなく、花粉の量も半分以下となる為、花粉症対策の切り札にもなりうる。
エリートツリーとは人工造林地においてスギ、ヒノキ、カラマツといった樹木の中から、特に成長が優れた約9000の個体を人工交配によりかけ合わせ、その中からさらに選別された苗木で、農林水産大臣により指定される。在来系統の約1.5倍早く成長するだけでなく、二酸化炭素の吸収量も1.5倍以上で、木材利用に適した高い剛性を誇る上に、なおかつ花粉の飛散量は半分以下といった優れた特性を持つ。従来品種に比べると、下刈り回数の削減や、伐採の短縮が期待できる為、労働量やコストの削減も期待されている。
この「エリートツリー」を森林吸収源対策の加速だけでなく、花粉症対策の強化の「秘策」としても活用すべく、農林水産省は、エリートツリーを2030年までに林業用苗木の3割、2050年までに9割以上にすることを目指すとしている。
こうした中、民間企業として初めて、エリート苗木の量産・販売に乗り出したのが、国内に9万ヘクタールの社有林を持つ日本製紙だ。
同社は2023年10月までに、秋田、静岡、大分、広島、鳥取、熊本の6県で事業者としての資格を取得し、採種園・採穂園を開設した。2023年で、同社のエリートツリー苗の生産能力は年間160万本に達しており、2030年度中に1,000万本/年のエリートツリー苗生産体制構築を目指す。
海外での植林事業も手掛けており、ブラジルの植林地でユーカリのDNA分析から優良な木を選ぶ手法が実用段階に入っている。ここを舞台に、同社は12年かかる優良品種の選別を5年に短縮する実証試験を進めている。
今後はこうした育種技術を東南アジアなどに広げ、全世界で製紙原料調達の効率化と、CO2吸収量を増やす脱炭素の取り組みを同時に推し進めたいとしている。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:日本製紙
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