広がる「ごみゼロ宣言」の成果

エコツーリズムも呼び込む

6月 22, 2022
by emi takahata
広がる「ごみゼロ宣言」の成果
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J-STORIES ― 徳島県の山間にある人口1500人ほどの上勝町が日本で初めて廃棄物をすべてなくす「ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)宣言」をしてからおよそ20年、ごみを資源として循環させるリサイクル率はすでに80パーセントを超えた。町を挙げてのエコロジー推進の成果はスイスのダボスで開く「世界経済フォーラム」でも注目された。今年は豊かな地域社会への取り組みを奨励する日本政府の「ふるさとづくり大賞」の最優秀賞を受賞している。
上勝町がゼロ・ウェイスト宣言を打ち出すきっかけとなったのは、家庭や事業所などのごみを庭や空き地で焼却する「野焼き」による環境汚染だった。財政が苦しかった上勝町は高額な焼却炉の購入ではなく、ごみを出さないリサイクル政策の推進に着手した。
コンポストによる生ごみ処理から始まった資源化の取り組みは缶、ビン、ペットボトルなどの分別回収に広がり、現在では町内の処理センターで13種類、45分別と細かなごみ処理が行われている。ごみを持ち込めない高齢者や車のない世帯は他の町民が支援し、町ぐるみの助け合いや高齢者の見守りにも広がっているという。
2003年に上勝町が日本初の廃棄ゼロを宣言。その後、日本では5つの自治体がゼロ・ウェイストを宣言している。     上勝町 提供
2003年に上勝町が日本初の廃棄ゼロを宣言。その後、日本では5つの自治体がゼロ・ウェイストを宣言している。     上勝町 提供
2003年に「ゼロ・ウェイスト宣言」を打ち出した同町の先駆的な取り組みは海外でも注目を集め、2019年のダボス会議では同町のNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長の坂野晶さんが共同議長に選ばれた。
今年1月には、政府のふるさとづくり大賞最優秀賞(内閣総理大臣賞)を受けた。「未来の子どもたちにきれいな空気やおいしい水 を残していくため、住民主体の多分別資源化による環境負荷の軽減や処理 費の削減を図った」ことなどが受賞理由だ。
上勝町では今、ごみゼロ推進がエコ・ツーリズムの人気を生む魅力にもなっている。包装紙などのごみを出さない量り売りでの買い物、廃棄前の特産柑橘類「ゆこう」から作ったビール、バイオマスで沸かした温泉の宿などのほか、ごみを集める「ゼロ・ウェイスト・ステーション」併設のホテルでは、パジャマや使い捨て歯ブラシなどがないエコな宿泊を体験し、同町のリサイクル事業を実地で学ぶ機会もある。
町民一人一人が細かな分別を行うことで焼却や埋め立てごみから資源を救い、処理費用を大幅に抑える。    上勝町 提供
町民一人一人が細かな分別を行うことで焼却や埋め立てごみから資源を救い、処理費用を大幅に抑える。    上勝町 提供
こうしたごみゼロの町づくりは、多くの女性の活発にも支えられている。ダボス会議に出席した坂野さんだけでなく、上勝町役場のゼロ・ウェイスト推進委員会も6人中4人の委員が女性だ。
その委員のひとり、藤井園苗さんはJ-Storiesの取材に対し、「最近では多くの若者がIターンで移住してきている。上勝町が廃棄ゼロを徹底している町であるという理由で、意識が高い人が多い」と、若者パワーの拡大に期待を示す。
上勝町では、ゼロ・ウェイストセンター内にあるゴミステーションで住民たちがごみを13種類、45分別に細かく分別して処分する。     上勝町 提供
上勝町では、ゼロ・ウェイストセンター内にあるゴミステーションで住民たちがごみを13種類、45分別に細かく分別して処分する。     上勝町 提供
一方、上勝町が抱える課題もある。ゴミステーションでは自分でごみを細かく分別しなければならない。「面倒な分別をすることの理解を得るのは時間がかかる」と藤井さんは言う。
ごみの細かな分別を住民に求めても、それが町の経済の活性化につながらなければ、町民側には負担にしか感じられない。藤井さんをはじめ上勝町役場では、10年近く前から町民の協力に対して商品交換できるポイント制の導入など還元策を行い、ゼロ・ウェイスト宣言の取り組みが町民の暮らしにも寄与していることを伝えているという。
上勝町では、2030年に向けたごみゼロ政策の重点目標として、「未来のこどもたちの暮らす環境を自分の事として考え、行動できる人づくり」を掲げ、そのための教育活動を強化する方針だ。
現在、上勝町のリサイクル率は8割を超えたが、町単独でこれ以上の達成は難しい。リサイクルできないごみや分解しづらい廃棄物があるからだ。フライパンの蓋や水筒など、金属やプラスチックといった複数の素材で作られた製品は、リサイクルや分解作業に回すとコストがかかり、上勝町だけで行うのは限界がある。同町では廃棄せずに使い回す方法を取っているが、それでも劣化した製品はどうすることも出来ない。
こうした問題は町単体で解決できる課題ではなく、社会全体、国全体で取り組まなければいけないと藤井さんは語る。
「リサイクルは非常に重要なポイントだが、それだけではごみ問題を解決できるわけではない」とし、ごみ自体を出さない工夫やモノを共有する意識、そうした教育の推進についても注目をしていかなければならないと藤井さんは指摘している。
記事:高畑依実 編集:北松克朗 
トップ写真:上勝町 提供
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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