世界初の「木からつくるお酒」

廃棄素材に新たな価値を

6月 10, 2022
by yui sawada
世界初の「木からつくるお酒」
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J-STORIES ー 家具作りの端材や森林を間引く際に出る間伐材などを材料にして作られる「木のお酒」が一般販売される見通しだ。林業などに関する試験研究機関である国立森林総合研究所(茨城県・つくば市)が開発した世界初の技術をもとに、廃棄素材による酒類を手掛けるエシカル・スピリッツ(東京・台東区)が製品化に向けた準備に着手した。
森林総研が特許を取得した技術は、木を2000分の1ミリ以下まで粉砕して糖分を抽出、水と食品用の酵素、醸造用の酵母だけを使い、熱処理や薬剤処理なしに発酵させてアルコールを製造できる。2kgのスギからおよそ750ml程度の蒸留酒を生成することが可能だ。
同総研の研究によると、スギ材から製造したアルコールにはスギ材特有の香り成分が多く含まれ、より木らしい香りを持つ。桜材のアルコールには、ジャスミンなどの花の成分が含まれ、より華やかな香りを持つ一方、白樺材のアルコールには甘い熟成香を示す成分が多く含まれ、フルーティーで甘い芳香があることがわかった。同総研は今年、「木のお酒」技術の安全性を最終的に確認する予定だ。
森林総合研究所が試作した木のお酒。エシカル・スピリッツが製品化に向けて使用する木は、同研究所でも試作されたスギ、桜、ミズナラ、クロモジの4種類。     森林総合研究所 提供
森林総合研究所が試作した木のお酒。エシカル・スピリッツが製品化に向けて使用する木は、同研究所でも試作されたスギ、桜、ミズナラ、クロモジの4種類。     森林総合研究所 提供
エシカル・スピリッツでは、すでに日本酒製造で使われた後の酒粕から作ったクラフト・ジンを事業化している。国内では東京台東区にある販売店舗のほか、オンラインでも同社のジンや関連グッズの購入が可能だ。海外にも同社製品の輸出を始めており、イギリスでは今年6月から、イタリアでは今年の夏頃から購入可能になるとしている。
エシカル・スピリッツが酒粕からつくったクラフト・ジン。昨年、英で開かれたInternational Wine and Spirit Competition で最高金賞を受賞した。     エシカル・スピリッツ 提供
エシカル・スピリッツが酒粕からつくったクラフト・ジン。昨年、英で開かれたInternational Wine and Spirit Competition で最高金賞を受賞した。     エシカル・スピリッツ 提供
同社はクラフト・ジンに続く「木のお酒」の製品化に向け、エアブサン・ジンなど薬草酒を中心としたバーのオーナーで、「農家バーテンダー」として知られる鹿山博康氏とタッグを組んだ。鹿山さんは製品のアンバサダーとして、PRと販路拡大を担当する。
COOの小野力さんは、同じ酒でも「一期一会の味」として1本ごとに味わいが少しずつ異なるのも面白いのではないかと言う。「(弊社の商品を)美味しいと思って選んでもらい、(多くの人に)廃棄されてしまう可能性のある素材の価値に気付いてもらうきっかけにもなったら、とても意義のあることだ」と小野さんは話している。
樹齢何百年もの古木には生きた分だけの長い「ストーリー」がある、と森林総合研究所の大塚祐一郎さんは言う。
何年も熟成させたウイスキーやワインなどであれば、長い歳月を経て生まれたという重みが酒の付加価値となる。「木のお酒」も同様に、原料となる木の樹齢を付加価値にできないだろうか。大塚さんはJ-Storiesの取材に対し、今回開発した製造技術によって、新しい酒を楽しみ、樹齢が語る木々の営みやそのストーリーの素晴らしさにも共感してもらえるよう期待している、と語った。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗 
トップ写真:nzooo/Envato
この記事に関するお問い合わせは、 jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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