J-STORIES ー 多くの飼い主にとって家族同様の存在となっている伴侶動物の健康寿命対策が求められる中、犬や猫の最大の死因であるがんを一滴の血液で検査できる新技術の活用が広がっている。従来の検査方法にくらべ、動物たちの身体的な負担を大きく軽減できるだけでなく、早期がんの発見により役立つという。
犬や猫のがん発見検査システム「リキッドバイオプシー」を事業化したのは、メディカル・アーク(本社:東京都小金井市東京農工大学内、伊藤博(Itoh Hiroshi)代表取締役)。
同社によると、このシステムは伴侶動物(ペット)向けに事業化された世界最先端の検査技術。細胞が放出する微粒子、エクソソーム内にある核酸・マイクロRNAの分析を手掛かりに少量の血液でヒトのがん早期発見を実現した東京医科大学の落谷孝広(Ochiya Takahiro)教授(医学総合研究所分子細胞治療研究部門)の協力を得て実現した。今年1月から本格稼働を始めた。
現在検査できるのは、犬の肝臓がん、口腔内メラノーマ、尿路上皮がん、リンパ腫、肥満細胞腫の5がん腫だが、今年9月にも乳がんなども加え、13がん腫の検査が可能になるという。
同社は、4大学の腫瘍科と共同研究契約を締結し、猫の検査測定の確立にも着手。将来的には、がんだけでなく代謝性疾患や循環器疾患の検査にも活用していく。
同検査は、動物に太い針を刺したり、メスで切除したり、全身麻酔をする必要もなく、身体的負担を最小限にできる。検査ができる指定登録病院も、今年1月の約200カ所から452カ所(5月末現在)まで拡大している。
エクソソームに着目したがん検査としては、米国などで核酸から抽出したctDNAを解析する方法が行われている。伊藤代表によると、「ctDNAは、がん細胞の破壊や壊死によりDNAが血液中に遊離するもの。ある程度大きくならないと検出されないため、分析できた段階でがんがかなり進行していることも少なくない」のに対し、マイクロRNAはがん細胞が小さいうちから分泌されるため、早期発見に結び付きやすいという。
伊藤代表は、「犬のがんは人間の5~7倍のスピードで進行し、見つかっても約3カ月で命を奪われてしまうことも多い。進行スピードを考えると、人間の30~40歳にあたる7才から年2回の検査を推奨。10歳を過ぎたら4回の検査を行うと早期がんの発見に有効」と話す。
検査は確定診断ではなく、あくまで補助診断。「言葉を話せない動物だけに、この技術をうまく検診に結び付け、早期発見から適切な治療につながる仕組みを作り、1組でも多くのがんで苦しむ伴侶動物と家族を辛さや苦しみから救いたい」と話している。
記事:大平誉子 編集:北松克朗
トップ写真:メディカル・アーク 提供
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