J-STORIES ー 使われていない淡水養殖場と海上の生け簀を活用し、「幻の魚」とも呼ばれる希少なサクラマスとイクラを商品化する循環型の養殖手法が宮崎大学発のベンチャー企業によって進められている。
日本固有種のサクラマスは、川釣りで人気のヤマメと同じ魚で、川にとどまるヤマメが体長20~30cmであるのに対して、海におりて成長したサクラマスは大きいものでは70cmにも達する。しっとりして肉厚、旨味が強く、富山県名産の鱒寿司に使われていることでも知られる。
この養殖事業を手掛けているのは、現在、宮崎大学大学院博士課程に在籍する代表取締役CEOの上野賢さん。上野さんは「研究成果を社会に還元し、サクラマスを広く知ってほしい」と、事業会社であるSmolt(宮崎県宮崎市)を立ち上げた。
同社が採用する「循環型養殖」とは、陸地にある淡水養殖場で孵化させた稚魚を、20cmほどで海水の生簀へ移動、数カ月育てて再び水槽へ戻すという手法だ。
宮崎県ではかつて養鱒業が盛んだった時期があり、今では使われていない淡水養殖場が存在する。一方、ブリやカンパチの養殖に使われる海上の生簀は、オフシーズンである冬の間、使用されていない。Smoltの養殖事業はこうした既存の設備を活用しており、持続型モデルとして2021年度には「STI for SDGs」アワードで科学技術振興機構理事長賞を受賞した。
生産されたサクラマスは「本桜鱒」というブランドで商品化、フレンチレストランや高級寿司店でも採用されている。アニサキスの幼虫が潜みやすいオキアミを餌としないため、生食が可能というメリットもある。サクラマスの養殖過程で生まれる希少な黄金色のイクラも「つきみいくら」として商品化。アスタキサンチンを含むオキアミを摂取しないため、紅色にならず金色になる。
商品は自社サイトなどで販売されるほか、ふるさと納税の返礼品や、百貨店のギフトカタログなどでも希少価値の高い贈答品として人気が高まっており、海外展開も視野に入れている。とくに、金色を好む中国への「つきみいくら」の展開には積極的だ。
今後の事業成長を見据えて、この9月には第三者割当増資による資金調達も実施。「おいしい魚を楽しめる未来を実現したい」という目標のもとで事業拡大を進める。
上野さんはJ-Storiesの取材に対し、「ブランドとしての確立を目指すとともに、この養殖技術自体をシステム化、漁業の未来のために生産者をサポートできる企業にしていきたい」と話している。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:sea_wave / Envato
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