J-STORIES ー 微生物による発酵の力を活用するバイオマス発電は、生活や産業の廃棄物をエネルギー源に変える方策として多くの自治体が取り組んでいる。再処理の効率をどのように高めるかが課題だが、そのカギのひとつは、廃棄するゴミを分別する住民側の協力にある。
日本で最大規模のバイオマス利活用センターを建設、クリーンな電力を生み出している愛知県豊橋市。この施設では、下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥、生ごみを一括処理し、100%の効率でエネルギーに転換している。それには可燃ごみと生ごみを分別する市民の協力が不可欠だ、と同市は強調する。
ごみ分別を進める豊橋市民の取り組みには長い歴史がある。いまから47年前の昭和50年、同市の名所、葦毛湿原の遊歩道が訪問客のゴミで汚れる状況を懸念した住民が、ごみの持ち帰りなどを呼びかけ、全国に先駆けた「530(ゴミゼロ)運動」が始まった。
このキャンペーンには多くの市民が参加し、遊歩道だけでなく道路や公園、河川などに拡大。市当局も連携して、今では幼児教育や関連イベントの開催にまで協力の輪が広がっている。
もともと同市では可燃ごみと生ごみの分別はされていなかったが、2017年に同センターを稼働させるにあたり、市当局は地元市民約37万人に可燃ごみと生ごみを分別する必要性を訴えた。説明会の回数は500回以上にわたったという。
同市下水道局で処理施設の主幹を務めている正岡卓さんによると、家庭の生ごみと汚泥などを一括して処理できている自治体は、豊橋市以外、北海道に二か所ある。ただ、北海道の両自治体では、燃えるゴミと生ごみの分別対象人数が6万人弱で、豊橋市はおよそ6倍の規模で分別が行われている。
同市が他の多くの自治体より進んでいる理由について、正岡さんはJ-Storiesの取材に対し、市民による積極的な協力があることを挙げた。市内各地の生ごみをバイオマス利活用センターに集めるため、センターの近隣住民への説明では、ごみ収集車の匂いなどについて理解を得ることが難しかったものの、生ごみを分別する必要性に関して苦情は出ていないと正岡さんは言う。
同市の説明によると、同センターでは年間690万キロワット時(一般家庭1890世帯が消費する電力量)をバイオマス発電している。その過程で残った汚泥などは炭化燃料に変えて活用。下水道汚泥、し尿・浄化槽汚泥、生ごみのすべてが無駄なくエネルギーに転換できている。
このバイオマス発電を化石燃料に換算すると、温室効果ガス(CO2)を年間で約1万4000トン節約することになり、杉の木をおよそ100万本植樹した効果に匹敵するという。また、汚泥やゴミの処理工程を集約したことで、20年間で約120億円のコスト削減効果が見込めるとしている。
豊橋市では、生ごみ用の指定ごみ袋制度も導入するとともに、発酵工程を妨げないよう、発酵を促す生ごみとそうでない可燃ごみの分別表を市のホームページにて公開している。
また、節約できたコストは災害対策に向けた下水道の更新費用として利用。同時に、市民の下水道処理費用の固定費上昇を抑える資金としても使っているという。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:bialasiewicz / Envato
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