完全自動運転へ「人間の目」を持つ視覚システムとは?

重要な対象を重点的に把握、濃霧や煙の先も認識

1月 25, 2023
by Ayaka sagasaki
完全自動運転へ「人間の目」を持つ視覚システムとは?
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J-STORIES - 完全自動運転の実現に向け、人間の目のような柔軟な視覚機能を備えた新しい運転支援システムが登場している。周囲の状況からたとえば他車や人間、信号機などの重要な対象物を重点的に把握、分析するとともに視野をさえぎる悪天候下でも状況を正確に捉えることができるという。
車の自動ブレーキやレーンキープなどを制御するADAS(先進運転支援システム)は現在、車載カメラやミリ波レーダーの活用が主流になっている。が、高度な自動運転には離れた場所から光の照射によって対象物との距離を計測するLiDAR(Light Detection And Ranging)技術が欠かせないと言われている。
自動運転のレベルは0から5までの6段階に分類されており、レベル2までは運転支援、レベル3からが自動運転になる。現在は人の介入なく運行できるレベル4の開発競争が激化しており、すでに米国や中国では自動運転によるタクシーサービスなどが稼働している。日本でもレベル4の自動運転を一定の条件下で認める制度が今年4月からスタートする見込みだ。
最終目標は走行エリアの限定もないレベル5の完全自動運転だが、技術面、コスト面からまだまだハードルは高い。その中で、レベル5に応用できる小型化、低コスト化を可能にした独自のLiDARシステムを開発したのが、茨木県つくば市に本社を置くStera Vision(ステラビジョン)だ。産業技術総合研究所の出身である上塚尚登代表取締役社長が、「Making the invisible visible(見えないものを見えるようにする)」を事業のテーマとして2016年に立ち上げた。
同社のLiDARの特徴は、人間の視覚の特徴を反映した独特のシステムにある。人間の目は視界にある全てのものを等しく認識するのではなく、見たい部分、重要なものだけを選択し、その情報を詳しく把握する。眼球を高速で動かすことはできなくても、必要な視覚情報を選んで脳で処理するため、迅速な判断ができる。
「見たいものを見たい精度で見る」を可能にする同社の新しいスキャナー。 Stera Vision 提供<br>
「見たいものを見たい精度で見る」を可能にする同社の新しいスキャナー。 Stera Vision 提供
同社ではこの特性を踏まえ、人間の目のように「見るべきところを見たい精度で見る」ことを可能にするスキャナーMultiPolを開発した。このスキャナーは、たとえば数百メートル先に交差点があるという情報があれば、その付近を重点的にスキャンして分析する。一方、安全走行に関係のない空やほかの対象物はスキャンの精度を低くする。
「人間の目と同様、外界のイメージをテレビ画面のように捉えるのではなく、重要なポイントだけを見るという効率的な方法で認識する」(上塚さん)というように、同社のLiDARは全体画像を捉える従来のものと異なり、重要な事象が生じた際のスキャン画像のみを取得する仕組みだ。
このため、データの取得効率が従来システムの数十倍以上に高められ、計算コストを大幅に低減することができるという。さらに、周波数を変えながらレーザー光を連続して照射、距離を測るFMCW方式の技術を応用することで、対象物の距離計測と同時に速度を高精度で検出、自動運転で重要な「動く物体」を高速に抽出できる利点がある。
同社開発のLiDERでは実験のように煙の向こうにあるお面も確実に認識することができる。 SteraVision 提供<br>
同社開発のLiDERでは実験のように煙の向こうにあるお面も確実に認識することができる。 SteraVision 提供
Stera Visionは昨年からLiDERのサンプル出荷を開始しており、国内外から引き合いが増えつつあるという。また、LiDERは道路上の亀裂の深さや傾斜なども測定できるため、車のみならず建機や農機にも利用が可能で、ドローンに搭載してダムや鉄塔などのセキュリティ強化にも応用するなど新しい需要が見込める、と同社では話している。
記事:佐賀崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:SteraVision 提供
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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上記の記事の内容は、動画リポート(英語)でもお伝えしています。

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