J-STORIES ー お茶を淹れると必ず出る茶殻には、多くの栄養成分や消臭・抗菌効果があり、日本人の暮らしの中で様々に再利用されてきた。「そのまま捨てるのはもったいない」という昔ながらの思いを受け継ぎ、最近では大手飲料メーカーの技術で、軽量ながら強度の高い建材としても、「アップサイクル」されるなど、茶殻の活用法はさらに広がっている。
※「アップサイクル」→ 従来から行なわれてきたリサイクル(再循環)とは異なり、廃棄される素材に新しい価値を付加すること。
大手飲料メーカー、伊藤園の人気商品「お~いお茶」の工場では、家庭と同じように急須を使ってお茶を抽出しているため、大量の茶殻が排出される。その量は年間54800トンで、およそ東京ドーム1杯分に及ぶ。
茶殻には栄養成分が残存するため堆肥や飼料などに有効活用されているが、伊藤園では2000年頃から新しいリサイクル法も模索しはじめた。工場から排出される茶殻は水分含有量が85~95%と高く腐敗しやすいが、乾燥させるためには燃料を余計に消費しなければならない。同社はこの解決策として、2001年に水分を含んだままの茶殻を再利用する技術を開発し「茶殻リサイクルシステム」と名づけた。
このシステムを使い、茶殻リサイクル製品の第1号が誕生したのは2003年。畳の中に入れる茶配合ボードを畳の専門商社と共同開発した。
当時から一貫して茶殻リサイクルシステムの研究、開発を担当してきた中央研究所課長の佐藤崇紀さんは「祖母が畳の上に茶殻をまいて掃除をしていた記憶があった。昔ながらの知恵を生かしたい」と考えたと話す。
その後、茶殻配合の建材や樹脂、紙などの素材を開発、様々な製品を誕生させてきた。たとえば茶殻入り封筒はほんのりお茶の香りがして抗菌、消臭効果があるうえに、軽量化しても中身が透けないことから情報保護性に優れ、選挙封筒などに使用されている。「お~いお茶」の梱包用段ボールは茶殻の消臭効果によって古紙特有の匂いが低減、古紙の使用量も少なくてすむ。また、麦茶やコーヒーのシルバースキンなどからもリサイクル製品が生まれている。
新たな茶殻活用法として昨年開発されたのが「茶殻配合軽量パネル」だ。同社では製品の運搬に営業用トラックを多く運用しているが、軽油の使用量が多く社内課題になっていた。車体を軽量化すればCO2の排出量を削減できる。当時、トラックのドアなどに使われていたパネルはA4サイズ1枚で1キロ強の重みがあったが、茶殻配合樹脂を使用することで同サイズ1枚を240gに軽量化、従来の3トン車と比較して最大 110kgの軽量化に成功した。
「樹脂に茶殻を混ぜると強度が上がることはわかっていたが、割れやすいというデメリットがあった。それを改良し、同等の強度を保ちながら軽量化を目指した」(佐藤さん)。これにうよって、トラックのドアを開け閉めする力が従来の3分の1に省力化できるため、現場でも好評だという。
さらに、このパネル技術をもとに、茶殻を配合した防音パネルを開発、今年東洋メビウス(東京都品川区)熊谷物流センター内全長約60mの防音壁として採用された。一般の防音パネルと比べて約2.1トンの軽量化を実現できたという。
防音パネルの開発は、伊藤園研究所にある粉砕室の騒音が大きく、隣の実験室の作業にも悪影響を及ぼしていたため、その問題を解決しようとしたのがきっかけだった。
茶殻配合軽量パネルが吸音性にも優れていることに着目して改良、設置したところ防音効果が確認され、製品化に至った。軽量なので施工しやすいのが特徴で、既存の建物の周囲に後から住宅が建つなどして騒音問題が発生した際、追加で設置することも容易だという。
「これからも茶殻を価値ある資源として、あっと驚くような製品を生み出したいと考えている。『おばあちゃんの知恵袋』から生まれた日本発の技術として世界にも羽ばたいてほしい」と、J-Storiesの取材に対して佐藤さんは語っている。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:伊藤園 提供
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