J-STORIES ー世界的な水需給の悪化を背景に「節水」効果をうたう新技術や製品開発が広がる中、ほんの少し水ですすぐだけで油汚れまですっきり落ちる、という洗剤要らずの食器が登場した。節水を徹底するために、洗う皿そのものを変えてしまおうという新しい発想が生んだ日本発の商品だ。
新しいキッチンウェアブランド「meliordesign(メリオールデザイン)」を立ち上げたのは「世界を節水する」をテーマに掲げるDG TAKANO(東京都台東区)。同社は2009年に最大節水率95%の節水ノズル「Bubble90」を製品化。水の玉を弾丸のように連続して飛ばすことで、少ない水量で高い洗浄力を得ることを可能にし、水道の使用量が多い飲食店や量販店などにシェアを広げ、節水とコストの削減に貢献してきた。
これが普及するにつれて「もう蛇口の方でできることはやりきった。ここからさらに節水を進めるためにはどうしたらいいかと考え、洗うものから洗われるものへと視点を移した」という逆転の発想に至ったのは代表取締役の高野雅彰さん。次に目指したのは「汚れが落ちやすいのではなく、すすぐだけで汚れが完璧に落ちる食器」(高野さん)だった。
「開発期間は5年。これが完成したら世界が変わるという思いで懸命に開発を続けた」という高野さんがまず完成させたのがmeliorkitchenの4種の食器だ。記者発表会のデモンストレーションでは、ラー油や口紅などがこびりついた皿を水ですすぐと汚れが瞬時に浮かび上がってするりと流される光景に驚きの声が上がった。
水流だけで頑固な油汚れまで落とすことができる理由は、ナノテクノロジーを使った独自の表面改質技術にある。汚れと皿の間に水が入り込むことで油の層までも瞬時に浮かすことができ、洗剤などを使うことなく、除菌まで完了するという仕組みだ。
節水ばかりではなく、省力化にもつながる。これまで皿洗いを楽にするために食器洗浄機の機能向上などが行われてきたが、メンテナンスのために定期的に食洗機自体を洗うという必要もあった。その点、食器を用意するだけであれば設置工事も不要、水光熱費もほぼ必要がなくなり、洗剤やスポンジもいらない。
「蛇口で1分あたり水の量を95%削減してきたが、今回食器を洗う時間を1分から1秒にした。家事のストレスも大いに減らすことができるはず」と高野さんは言う。
同社では今後、ナイフやフォークなどのカトラリー類、包丁やまな板、ボウルなどの調理器具へとラインナップを充実させる方向だ。
5月からはまず自社サイトでの直販を開始。海外に向けては、今後SDGsに力を入れる世界のブランドや企業とコラボしてゆきたいという。
世界の水事情は危機的な状況にあり、世界気象機関(WMO)は「2050年に世界で50億人が水不足に陥る」と警告する。水や暮らしにかかわる企業にとって、節水効果の高い製品やサービスを展開する重要性は増している。
最近では、ウクライナでダムの決壊によって深刻な水不足が起こるなど、きれいな水で食器を洗うことすら難しい地域は多く存在する。高野さんはmeliorkitchenの食器について、「水不足と水質汚染問題の解決に直結する社会的意義のあるプロダクトだと信じている」とJ-Storiesの取材に語り、こうした製品が世界中であたりまえのものになることで社会問題の解決につながることを期待している。
「かつてウォークマンやiPhoneといった新しい製品が出ることで私たちのライフスタイルは変わってきた。今後、meliordesignによって世界が変わっていく様子を見たいというのが私の夢」と高野さんは話している。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:DG TAKANO提供
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