J-STORIES ー 二次電池(充電池、蓄電池)として現在広く使われているリチウムイオン電池の多くは、正極にリチウム、コバルトなどのレアメタル、負極に石油由来のカーボンが使用されており、枯渇する恐れがある原料への依存度が高い。この問題を解決すべく、サステナブルな手法で作られた高性能な植物性カーボンバッテリーが登場した。
PJP Eye(福岡県京都郡)が九州大学との共同研究で開発、製品化した「カンブリアンバッテリー」は、正極にコモンメタルを使用、負極にはオーガニックコットンをはじめ、サトウキビやオリーブオイルの搾りかすなどの植物性廃棄物を原料としたカーボンを使用する。構造上、リチウムイオンバッテリーにつきものの発火や爆発のリスクがなく、安全に急速充電ができて長寿命というメリットもある。
同社が2019年に丸石サイクルと共同開発した電動アシスト自転車は同電池を搭載、20分ほどでフル充電ができる。そのほか、キックボード、電動スクーター、電動アシスト三輪車などの小型モビリティも開発、ゴルフカート、小型バス、電動車椅子、ドローンなど、様々なジャンルへの対応が可能だという。
同社では、カンブリアンバッテリーを太陽光発電や風力発電などと組み合わせ、電気インフラが整備されていない地域でも電力供給が可能になるマイクログリッドの開発にも取り組んでいる。
2022年11月に行われた北九州市主催の環境イベント「エコライフステージ」では、ATM(現金自動預払機)国内トップの日立チャネルソリューションズと共同で、eモビリティから取り外した同電池に太陽光パネルから電気を供給、消費電力の大きいATMの電源として応用、オフラインで駆動することを実証した。
「カンブリアンバッテリーをコア技術として、世界中で電気を作って供給する地産地消のサステナブル・エネルギーソリューションの会社を目指している」と代表取締役専務の小山淳さんはJ-Storiesのインタビューで語った。発展途上国で創出したカーボンクレジットを先進国の取引システムで取引し、収益をCCを創出した地域に還元する構想だ。
こうした取り組みには、かつて東南アジアやアフリカなどで電気のない生活ゆえに教育や医療を受けられない子どもたちを目の当たりにした代表取締役社長仁科浩明さんの使命感が込められているという。「ソーラーパネルとパワーバンクの組み合わせでどこにでも電気が普及し、結果的に医療、教育の普及や農業の発展に貢献することを目指す」というのが同社の理念だ。
同社は英国政府が日本の革新的なスタートアップ企業を選出する「テックロケットシップアワード」2019-20を受賞し、それを契機に英国での活動も拡大、米国ビンガムトン大学とも共同研究を進めている。トルコやフィリピンでの展開も始まるなど海外からの注目は高く、国内外問わず地方自治体との連携にも期待が大きい。
正極と負極の双方に植物性カーボンを使用した「デュアルカーボンバッテリー」も開発を終えて実用化を進めており、より高電圧のバッテリーを設計できるため電気自動車や空飛ぶクルマ、電気飛行機などへの応用を考えているという。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:PJP Eye 提供
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