J-STORIES ー スマホ、パソコン、家電などから電気自動車や発電所の送電設備に至るまで、暮らしや社会インフラに組み込まれた様々な電子機器を動かすには、電気(パワー)を制御するパワー半導体の存在が欠かせない。パワー半導体の性能を高めれば電力消費の大幅な削減につながり、社会の脱炭素化の切り札にもなりうる。
巨大な市場規模をにらんだ次世代パワー半導体の開発競争が激しさを増す中、現在、半導体原料として広く使われているシリコン(ケイ素)よりも電力消費をを大きく減らすことができる新しい素材の実用化を日本企業がリードしている。最先端の半導体材料として量産が期待されているのが「酸化ガリウム」だ。
その企業のひとつが京都大学発のベンチャー企業、FLOSFIA(フロスフィア、人羅俊実社長)。テクノロジーとサイエンスの新しい研究教育の場をめざす同大の桂キャンパス近くに工場と開発拠点を持つ。
フロスフィアの創業は2011年3月。前身となる会社は海水を淡水に変える濾過膜技術を事業にしていた。2012年にフロスフィアに参画した人羅社長がこの事業を現在のパワー半導体開発に転換した。
パワー半導体は高い電力や電圧に耐えると同時に、電力消費をできるだけ低減する性能(低損失化)が求められる。機器の小型化や省エネ化に欠かせないデバイスで、現在、主流の材料はシリコンだが、最近は新世代材料である炭化ケイ素(シリコンカーバイド)や窒化ガリウムが登場している。
酸化ガリウムはその先を行く新材料で、宝石のルビーやサファイアと同じ極めて硬度の高い結晶構造「コランダム(鋼玉)構造」を持っているのが特徴だ。フロスフィアによると、同社が開発した酸化ガリウム半導体は低損失化の性能(材料ポテンシャル)を示す「バリガ性能指数」について、「シリコンの約7,000倍、シリコンカーバイドの約20倍となる圧倒的な物性値を示した」(同社推定)という。
「炭化ケイ素や窒化ガリウムなどと比べ物性が良く、低コストで生産できる。コストでは炭化ケイ素や窒化ガリウムと比べて5分の1から10分の1ほどに抑えることができる」と人羅社長は酸化ガリウムの性能の高さを指摘する。
同社の強みのひとつは、原料をミスト(霧)状にした溶液を利用し、金属膜などの薄膜を原子層レベルで積層する独自の成膜技術「ミストCVD法」で、半導体の製造コストをシリコン並みに低減できるという。 京都大学で生まれた技術を同社が発展させた。
酸化ガリウムの研究開発は、フロスフィアとともに、スタートアップ企業であるノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県狭山市)も含め、企業や大学、研究機関が連携して進めている。フロスフィアには、その将来性に期待して自動車部品メーカーのデンソーや産業用ロボットの安川電機、ダイキン工業などの大手企業が出資している。
フロスフィアの酸化ガリウム半導体は、信頼性の評価基準が全てクリアされており、今は量産を目指す段階だ。半導体製造の前行程を受託するファウンドリーと分業し、中心となる技術部分のみ自社で行っており、月産100万個を目指す。
これまで約700件の特許を出願し、200件超を権利化した。資金調達額は累計約42億円に上る。調達した資金で人材採用も強化し、スタッフは60人に増えた。取締役CFOの間嶋千波さんは「仕事の進め方や定量的な目標について明確な業務評価基準を設けるなど、スタッフそれぞれが活躍できる職場環境を整えている」と話す。
フロスフィア(FLOSFIA)という社名は、「智慧(ちえ、sophia)が流れ込む(flow)」会社になるという同社の思いが込められている。「今後は半導体の特性をさらに磨き上げて、商品のラインアップを増やしたい」と人羅社長は意気込みを語っている。
記事:国分瑠衣子 編集:北松克朗
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