J-STORIES ー アフリカのタンザニアで深刻化する地下水のフッ素汚染を解決する対策として、日本の信州大学(長野県松本市)が独自結晶化技術を使ったティーバッグ型の浄水方式を開発、実用化に向けた準備を進めている。
フッ素が高濃度に含まれた飲用水を常用していると、骨の奇形が現れるなど重篤な健康被害につながる危険がある。タンザニアでは日常生活に使われる飲料水の約80%が深層地下水で、そのほとんどに高濃度のフッ素が含まれている。地域によっては世界保健機関(WHO)が飲用水に定めている基準の約3倍以上のフッ素濃度が確認されている。
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ティーバッグ型の浄水方式に使われる結晶素材は、同大の手嶋勝弥教授が率いる研究室が生み出した「信大クリスタル」。フッ素を吸着できる結晶、鉛などの重金属を吸着できる結晶など多くの種類があり、浄水以外にも様々な用途への研究が進められている。
信大クリスタルは大型の設備がなくても手軽に水を浄化することが可能だ。この技術を汚染水に悩む地域に役立てようと、同大では2018年からフッ素水源地域であるタンザニアのアルーシャ市で、水質調査・モニタリング、吸着結晶、高感度センサーを使った研究を進めてきた。
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現在、実用化をめざしているのは、信大クリスタルを入れたティーバッグを汚染水に浸すだけで安全な飲料水に変える手軽な浄化方式だ。1個あたり20リットルを浄化できる大型のフィルターバッグで、すでに同地に送付して実証実験を行っている。
日本国内の飲用水については、結晶素材の中でも、鉛などの重金属を吸着する重金属吸着結晶を使用する。結晶ティーバッグの大きさは紅茶のティーバッグより大きめの約6cmx9cmで、水に10分程度浸すと、1個当たり約1.5リットルの水を浄化できる。このティーバッグ型の吸着結晶は、日本国内で正式販売される方針で、今年1月に10個入り1045円で試験販売も行った。
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鉛などの重金属をはじめとする汚染の原因となる物質を除去する一方で、水の個性やうまみになるミネラル分は残せるのが特徴。信大クリスタルのフィルターを備えた携帯型浄水ボトルは、すでに国内販売されている。
大学の研究チームはJ-Storiesの取材に対し、「直近の目標としては、日本国内のおいしい水作りと、タンザニアのフッ素汚染問題の解決。それらを解決できたら、アメリカの限られた地域の水道水に含まれるヒ素の問題にも着手していきたい」と答えている。
同大学は長野県との協力の下、浄水事業だけでなく、人工関節、リチウムイオン二次電池など多岐にわたる商品、システム開発に信大クリスタルを活用している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:annakhomulo/Envato
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