J-STORIES ー 日本のスタートアップエコシステム(起業家を支える人材、投資家からの資金調達、行政などの支援体制、ネットワークなどのインフラ・体制)の整備は急ピッチで進んでいるが、世界での評価はまだまだ厳しい。
今年5月イスラエルの調査会社によって発表されたスタートアップエコシステム指数の国別ランキングでは、日本は昨年から順位を落とし21位となり、アジア内でもシンガポール、中国、インド、韓国に次いで5位と低迷している。
こうした中、国内外の起業家や投資家が集結し、スタートアップエコシステムの強化と、イノベーションを生み出す国際ネットワーキングイベントを開催し、都市全体でスタートアップ業界を盛り上げていこうとする行政の動きも活発だ。
東京都は今年5月、昨年に続き2年連続で国際スタートアップイベントSusHi Tech(Sustainable High City Tech)Tokyoを開催し、世界82の国と地域から4万人の参加者を集めた。
そして、今月8、9日には福岡市がこの流れに乗り、世界からイノベーションを創出するスタートアップが集まるネットワーキングイベントとして RAMEN Tech(Revolutionizing Asia: Merging Ecosystems & Networks - Tech) を開催、日本の「スタートアップ都市」は東京のみならず福岡もあることを世界にアピールした。
福岡といえば、豚骨らーめんの本場。福岡市は過去10年以上、スタートアップの支援に力を入れてきており、交流イベントは2018年から開催してきた。今年は東京のSUSHIテックにインスピレーションを受けて、今や海外観光客に寿司をもしのぐ圧倒的な人気を誇るといわれる「ラーメン」を冠した名称に変更した。
J-STORIESの取材に対して、主催の福岡市でグローバルスタートアップ推進担当を務める藏滿渓(くらみつ・けい)さんは、今回のイベントが繁華街として知られる天神エリアのオープンスペースで行われていて、世界からの参加者と、一般の人が自然に交われることが既存のスタートアップイベントとの大きな違いで、「グローバルにも通じる「RAMEN(ラーメン)」を合言葉に世界からもたくさんの参加者に集まってもらっている」と話す。
イベントには、地元のスタートアップや投資家だけではなく、国内外のスタートアップも招き、英語でのピッチ大会や、スタートアップ関係者によるセッションなどが行われたほか、RAMENというイベント名に倣って世界的に有名となっている地元のラーメン店4店が出店し、人気を呼んだ。
国際色豊かな参加者が英語で行うグローバル度の高いイベント
イベントには台湾、シンガポール、ベトナム、インド、フィンランドなど多くの国や地域からのスタートアップ、政府系のスタートアップ支援組織、ファンド関係者などが集い、英語でピッチやディスカッションが行われる「グローバル度」の高いイベントとなった。通訳は基本的になく、一部日本語のセッションもあったものの、ほぼ全てのコミュニケーションは世界の共通語である英語で行われた。
旗振り役は、2012年に福岡市を「スタートアップ・シティー」と宣言した、福岡市の高島宗一郎市長だ。当初は、まだ「スタートアップ」とは何かという啓蒙活動から始まったというが、6年間続けてきた交流イベントを通じて今では「(福岡市に)問題解決型のスタートアップがアジアの中でも一番集まっているかもしれない」と述べる。
「今年のテーマは『グローバル』。東京に行かなくても、スタートアップがグローバルにチャレンジできる環境をつくりたい」と、高島市長は語る。
東京のSusHi Techに規模では劣っても「グローバル度ではひけをとらない」
東京のSusHi Techには規模では及ばないものの、福岡のRamen Tech の「熱量やアジアの各地からスタートアップ関係者が集まるグローバル度では、全く引けを取らない」と関係者は胸を張る。
スピーカーの一人として参加した、東京に拠点を置くベンチャーキャピタル「Shizen Capital」のMatthew Romaineさんは、 Ramen Techイベントにおける言語や国籍を超えた「ダイバーシティー」のレベルは、東京の先をいっていると述べた。
福岡市は海外起業家向けのビザ取得のサポートや、英語を話すグローバル人材の雇用支援など、グローバルなスタートアップコミュニティーを構築するための実務的なサポートを市と地元の支援団体が一丸となって提供している。
またスタートアップ育成においては、市内に一級河川がなく水不足に悩んできた福岡市ならではの強みがあると、高島市長は説明する。例えば、「防災テック」や、水道管の漏水を衛星からの監視なども利用して最小限にする「インフラテック」などの分野においては、福岡市は他の都市よりも先進的な技術を積極的に支援し、実際に取り入れているという。
海外からのスタートアップも多く集結
2日間にわたるセッションにおいては、国際的なテーマが多く取り上げられた。「アジアでユニコーンを育成する方法」、「海外のVCからアジアのスタートアップが投資を受ける方法」、「日本において海外スタートアップが投資や協業を進めるコツ」など、国境の枠を超えた実用的なテーマでパネルディスカッションが行われる中、各国からの参加者はそれぞれの国での支援状況や他国とのコラボレーションの現状を共有した。
特に100以上のユニコーン企業(評価額が10万ドル以上)を抱えるインドや、人口は東京の4割ほどの500万人程度にも関わらず30ものユニコーン企業を誇るシンガポールなどでは実際にどのようなスタートアップ支援が行われているかという情報についても、参加者は耳を傾けた。
台湾からは10社以上のスタートアップが参加。そのうちの一つ、AI技術を活用してオンライン詐欺への対策サービスを提供する台湾企業 Whoscall は、2020年に日本市場進出を始めるにあたり、拠点として福岡を選んだ。
その後、コロナ禍などで逆風も吹いたものの、日本での実証実験とB2Cのサービス展開に進めてきた。今回のRamenTechへの参加を通じて、日本企業とのコラボレーションの話が進み、B2Bのサービス展開の道筋も見えてきたという。
「今回のイベントでお会いできた、Ramen Techのスポンサーでもある地元の銀行や電力会社さんの強い地盤を活用させていただき、地元企業の皆さんのネットワークに弊社のソリューションを提供してきたいです」と、日本事業責任者のウェイチェン・ローさんは期待を寄せる。
記事:前田利継 編集:一色崇典
トップ写真:福岡市
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