J-STORIES ー イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドと並ぶ毛織物(ウール)の世界三大産地のひとつ、日本の尾州地域で、使い古したウール製品を回収し、綿に戻して再びマフラーやセーターなどとして再生する新たな循環型事業が動き出している。
高い品質の毛織物で栄えてきた同地域には、ウールを綿に戻す「反毛(はんもう)」と呼ばれる伝統技法がある。新事業は、輸入に頼るウールを無駄にしない昔ながらの技術を核に据え、ユーザーと生産者を回収・再生のエコサイクルでつなごうという試みだ。
「Rebirth Wool」(生まれ変わるウール)と名付けたプロジェクトを立ち上げたのは、岐阜県羽島市にある繊維素材・ファッションの老舗メーカー、三星グループの岩田真吾社長。
回収した古着などを反毛技術で綿に戻し、新しい製品として再び市場に出す。「作り手と使い手がつながる形でウールを再生する」(岩田さん)日本で初めての循環型事業になるという。
岩田さんがRebirth Wool事業に着手したのは、アパレル(ファッション)産業が抱える環境汚染への危機感からだ。
ウール製品を含むアパレル産業は、生産に膨大な水が必要で、大量の汚染水や温室効果ガス(CO2)を排出、使用済み品の多くは焼却・埋め立てによって廃棄される。国連貿易開発会議(UNCTAD)は繊維・アパレル産業(ファッション産業)を石油に次ぐ世界第2の環境汚染産業と批判している。
「この産業はサステナビリティ(持続可能性)の問題児。サステナブルというのはイメージではなく、もはや業界の存続に絶対必要な条件だ」と語る岩田さんは、「一番大きい問題は過剰生産、大量廃棄」と指摘する。
同社が130年余りの社業を営んできた尾州(愛知県一宮市を中心に尾張西部から岐阜県西濃に広がる地域)では、およそ60年前から「もったいない」精神が息づく反毛技術によるウール再生が行われている。
ReBirth Woolは、この技術で再生する中古のウール製品を使用者に広く呼び掛けて回収する。さらに、素材や色ごとの「分別」、ボタンや縫い糸を除去する「分解」という煩雑な工程を経て、同グループの中核企業、三星毛糸が反毛と再製品化を担当する。回収品の分別や分解は環境ベンチャー企業である株式会社ecommit(鹿児島県薩摩川内市)と共同で行う。
今年7月18日には大手商社の伊藤忠商事、ecommitと組み、回収ウールの分別分解を一般消費者が体験するイベントを行った。このイベントへの参加を通じ、一般消費者に製品を作り上げる工程や手間を理解してもらい、大量廃棄の抑制につなげたいという狙いからだ。
一般への協力呼びかけにより、不要となったウール製品が400着も集まった。現在は回収した製品を綿に戻す反毛作業を行っており、10月ごろには製品を販売する予定だ。
岩田さんは、ReBirth Woolプロジェクトを通じ、ウールが環境に優しい天然素材であること、半袖など夏でも着られる快適な製品が多くあることなどについて、消費者の前向きな再認識が広がって欲しいと話している。
記事:高畑依実 編集:北松克朗
トップ写真:EwaStudio
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