J-STORIES ー 高度経済成長期以降に日本各地で猛烈な勢いで建設された数多のコンクリート建造物が、耐用年数とされる築50−60年を経て、老朽化の問題を抱えている。コンクリートの劣化によるひび割れを放置しておくと、鉄筋が錆びるなど建物の崩壊につながる危険性が高まるが、きめ細かい修復作業の手間や費用に、対応が追いつかず放置されるなど、深刻な社会問題となっている。
こうした中、日本企業が世界で初めて、特殊なバクテリアの力を使って、ひび割れを自動的に修復する「自己治癒コンクリート」の量産化に成功した。同社のコンクリートは、CO2排出削減が難しいコンクリート業界にあって、脱炭素にも寄与する新技術としても注目されている。
その企業とは、創業85年を超えるコンクリートメーカー、會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)。
同社の「Basilisk HA自己治癒コンクリート」は、特殊なバクテリアを配合しており、ひび割れが起こると、そのバクテリアが活性化して、ひびを自動的に埋めて、自己修復を行う。通常の点検では発見が難しい初期の段階で、修復が行われる為、ひび割れの悪化や、致命的な鉄筋のサビなどに至る前での修復が期待できる。
バクテリア個体の寿命は200年と言われるが、活性化の都度、分裂を繰り返して生まれ変わるため、コンクリート内部では治癒能力が半永久的に保たれる。ひび割れ補修といったメンテナンス費用の大幅削減が期待でき、内部の鉄筋が守られることで事実上の「永久構造物」として100年以上の耐用年数も期待できる。
もともとこの技術は、オランダのデルフト工科大学のヘンドリック・M・ヨンカース准教授が率いるチームにより開発されたものだが、生産工程が複雑で、商品化、実用化には課題が残っていた。同社は、オランダ側と技術提携を行ない、2年半かけて、製造方法を一から考えるなどの実証実験を行い、日本の風土に適し、大量生産可能なコンクリートの商品化を成功させた。
コンクリート材料だけでなく、モルタルや液状の補修材としても販売しており、これまでに日本最大級のサーモン陸上養殖施設、LNG基地内のガス配管津波対策基礎、大型池状構造物など国内の様々な建造施設に導入されている。
一方、同社の自己治癒コンクリートは、建設工事におけるCO2削減の大きな決め手としても注目されている。
建設工事におけるセメントによるCO2の排出は全体の3割を占めているが、自己治癒コンクリートを幅広く導入することで、大型建造物の建て替えや、補修による作業を大幅に減らし、CO2排出の大幅削減を図ろうという計画だ。
こうした取り組みを業界全体に広げようと、同社は2022年1月の取締役会で、創業100周年を迎える2035年までに、仕入れ先や物流、リサイクル過程など同社の商品に関わる全てのサプライチェーンでのCO2排出量を実質ゼロにする目標「NET ZERO 2035」を決定した。
同社は「保有する素材系の脱炭素化技術やブロックチェーンを使った温室効果ガスの排出量管理といった独自の取り組みを、希望する同業他社に対して包括的に技術移転するプログラム『aNET ZEROイニシアティブ』」を実施すると表明。対象となるサプライチェーンには、日本国内だけでなく海外の企業も多く含まれている。これまでに46社と業務提携し、コンクリート業界における脱炭素に向けた”集団的な動き”を加速させている。
同社の會澤祥弘社長はJ-STORIESの取材に対し、脱炭素の実現をめざす中で、「先に気付いた者の責任として、誰よりも早く行動すべきだと考えた。それをより多くの人に発信し、仲間を増やしていくことで、世の中は少しずつではあるが、確実に変わっていく」と今回のアクションの意義を説明。「セメントコンクリート産業が脱炭素の時代に絶対に欠かせない産業」と言われる存在になりたい、と語った。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
アップデート編集:一色崇典
トップ写真:會澤高圧コンクリート
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