J-STORIES ー 電気などのエネルギーを使うことなく、建物や工場、屋外機器などの内部温度を外気温より下げることができる新しい冷却素材が開発され、社会実装に向けた準備が進んでいる。高温による熱中症、機器の故障、冷房エネルギーの増大などを抑える効果があり、地球温暖化に伴う産業、生活課題への対策として期待されている。
この冷却素材「スペースクール」は、太陽光と大気からの熱をブロックし、同時に放射冷却の原理で内部の熱を宇宙に放出する機能がある。大阪ガスが2017年頃から研究を続けて開発、その後、2021年に同社が中心となって、SPACECOOL株式会社(東京都港区、宝珠山卓志・代表取締役社長)を設立し販売を始めた。
放射冷却は地球上の熱が放射(熱ふく射)と呼ばれる光の形で宇宙に放出される現象で、夜間に気温が下がる原因の一つ。日中は太陽光による入熱エネルギーが大きいため、自然界では気温が上昇するが、スペースクールは独自の光学設計により、太陽光と大気からの熱を95%以上反射すると同時に、通常の遮熱素材ではできなかった放射冷却を実現した。
同社COOの夘瀧高久さんによると、中国企業の類似製品はあるが、スペースクールはより優れた性能を持っており、反射率と放射冷却性能は世界最高レベルだという。
たとえばスペースクール素材を使ったテントと一般テントを比べた試験では、体感温度にして約10℃の差を確認。一般テントの内部が暑さを感じるのに比べ、同素材使用のテント内部は外気より涼しく感じられるという。また白色の物置に同素材を貼付した試験では、貼る前に比べて天井温度で20℃、倉庫内温度は最大10℃ほど低下した。
また、今年1月に本田技研工業寄居工場(埼玉県寄居町)で行われた実証実験では、スペースクールを使ったコンテナが、一般コンテナに対して53%消費電力を削減できることを確認した。また、建物間の通路に施工したところ、天井内部の温度が15℃低下したという。2025年大阪・関西万博のガスパビリオンでは、スペースクールの膜素材を使った建物の設計が進められている。
そのほか、工場や商業施設、コンテナやトラック、農林畜産分野など幅広い用途が想定され「様々な業界と実証実験を進めている」(夘瀧さん)という。
日本のみならず、暑い時期が続く中東やアフリカではさらに需要があるとして、今後積極的に海外展開も進める予定だ。実証実験を終えた本田技研でも、国内工場への導入に加えて東南アジアの工場での活用に前向きだという。
「日本発の優れた素材として世界に広げたい。電気のない地域でこそ役立つのではないかという声もあり、困っている人たちに役立つ技術になればうれしい。たとえば難民キャンプや避難キャンプのテントとして活用できないかともと考えている」と夘瀧さんは話す。
スペースクールは現状は素材としてのみの販売だが、この夏には効果を実感しやすい日傘の商品化とテスト販売を検討中だという。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:スペースクール 提供
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