「M&Aキング」驚異的な成長を続けるSHIFTの挑戦 ─ 日本企業の成長戦略を変える

年間300件のM&A検討、その成功の秘訣とは

11時間前
by Toshi Maeda
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Introduction

JSTORIES ー 日本政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、「2027年度にスタートアップへの投資額を10兆円規模にする」という目標を掲げている。経済産業省の報告書によれば、この目標を実現するために必要な「スタートアップの継続的な成長」を促す要素としてグローバル展開とともに指摘されているのが「M&Aの促進」である。GAFAMに代表されるような大企業は、スタートアップに対して積極的にM&Aを行い、非連続的な成長を遂げている。また、スタートアップ側としてもM&Aは、安定的な成長に資する選択肢と考えられており、米国のスタートアップは出口戦略(EXIT)として、9割がIPOではなく、M&Aを選択している。
こうした中、日本では、スタートアップを対象としたM&Aは非常に少なく、スタートアップ側もIPOを志向するケースが大半で、成長投資戦略の中でM&Aが積極的に 活用されていないのが現状だ。
スタートアップエコシステムを発展させる上で、企業の海外進出とともに欠かせない両輪となるべきM&Aが日本で低いままなのは何故なのか、M&Aによる事業成長の可能性や、EXITの選択肢を増やすことは、どうやったら可能になるのか?日本国内におけるM&AのエキスパートにJSTORIES編集長前田利継が話を聞いた。
小島 秀毅(こじま ひでたか) / SHIFT グループ経営推進部 部長 兼 SHIFTグロース・キャピタル 代表取締役 兼 SHIFT USA  取締役CEO      JSTORIES(Moritz Brinkhoff)撮影 (以下同様)
小島 秀毅(こじま ひでたか) / SHIFT グループ経営推進部 部長 兼 SHIFTグロース・キャピタル 代表取締役 兼 SHIFT USA  取締役CEO      JSTORIES(Moritz Brinkhoff)撮影 (以下同様)
2003年東京外国語大学外国語学部卒業。2009年一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程(MBA)修了。2019年ハーバード・ビジネス・スクールPLD修了(PLDA)。
大和証券、GCA(現・フーリハン・ローキー)を経て、2011年に三菱商事にてライフサイエンス本部立ち上げと合わせて同社に入社。国内外のM&A/PMIを推進し、グループのコア事業に育てる。また、米国企業買収に伴い現地本社でもCEO補佐として北米のM&A/PMI戦略の立案と実行に携わる。2020年からSHIFTにてM&A/PMIを一貫して行える体制を組成し責任者を務める。2022年3月にSHIFTグロース・キャピタルを立ち上げ取締役として参画、2024年11月に代表取締役に就任しM&Aをリード。2025年2月にSHIFT USAを設立し取締役CEOに就任、海外戦略も統括する。近年はスタートアップの顧問やエンジェル投資家として日本のスタートアップエコシステムの構築にも取り組む。米国公認会計士。著書『クロスボーダーM&Aの契約実務』(共著、中央経済社)  

SHIFT

SHIFTはソフトウェアの「品質保証」を基点に、顧客の“売れるサービス作り”全体をサポートする会社。従業員は連結で約14,000人、グループ会社は37社(2025年2月末現在)。2025年までの中期成長戦略として売上高1,000億円を目指す「SHIFT1000」を掲げ、2024年8月期の通期決算で達成。現在は売上高3,000億円達成を目標に中期成長戦略である「SHIFT3000」に向けて様々な施策を実施中。

毎年300件ほどのM&Aを検討する日本の「M&Aキング」

左から:SHIFT 小島 秀毅氏、前田利継JSTORIES編集長
左から:SHIFT 小島 秀毅氏、前田利継JSTORIES編集長
JSTORIES編集長 前田利継(以下JSTORIES):本日はソフトウェアの品質保証とテストを専門に、過去10年に渡り高い売上高成長を続けているSHIFTグループでM&A/PMI(Post Merger Integration:買収後の経営統合)および海外事業推進の責任者を務める小島 秀毅さんをゲストに迎えています。小島さん、今日はSHIFTの本社にお邪魔していますが、目の前に見える東京タワーがとても近いですね。
小島 秀毅(以下小島):そうですね、会社に来ていただく皆さんが、必ず最初に仰いますね(笑)。東京タワーは日本のシンボルであり、海外の方も含めて馴染みがあるので話題にもなりますね。
JSTORIES:素晴らしいオフィスですね。さて、SHIFTは2023年、日本の上場企業で一番M&Aを多く公表されたということで、日本のM&Aキングと言っても過言ではないかと思います。本日は、SHIFTのM&Aを牽引されてきた小島さんに、その秘訣はどこにあるのかを主に伺いたいと思います。
小島:よろしくお願いします。
JSTORIES:私たちのメディアは、世界の問題を解決しうる技術やサービスをもつ日本のスタートアップや研究者を取材して、多言語で配信することで、日本のイノベーションを促進し、日本企業の海外進出のサポートをしたいと思って活動してきましたが、これまであまり取り上げてこなかったのが、スタートアップのM&Aについてでした。最近では、スタートアップ単体だけではなく、日本や、日本の都市が海外のスタートアップやVCなども含め、イノベーションを活性化させるスタートアップエコシステムについても取り上げるようになっており、個々のスタートアップ企業だけではなく、インフラについても注目していまして、M&Aはそのエコシステムを語る上で欠かせないピースになると思います。
前田利継 JSTORIES編集長
前田利継 JSTORIES編集長
小島 :そうですね。最近は日本のスタートアップを対象としたM&Aが増えてきました。SHIFTでも毎年300件ほどのM&Aを検討していますが、その中でスタートアップの割合は年々増えています。それでも海外と比べるとまだまだ少なく、米国のようにM&AでのEXITがスタートアップにとって主流とまではなっていないのが現状です。今日はSHIIFTでのM&A/PMI戦略や海外戦略に加えて、こうしたスタートアップエコシステムの課題についてもお話ができればと思っています。
JSTORIES:ありがとうございます。日本のスタートアップのM&Aについて語る上で、小島さん以上の方はいないと思います。小島さんがSHIFTで取り組んでいる「M&A/PMI戦略」と「海外戦略」についてもそうですが、「日本のスタートアップエコシステムの課題」についても専門家の目線からどのように見ているのか、じっくりとお話を伺っていこうと思っています。

2023年は国内の上場企業で最多10件のM&Aを公表。SHIFTは「M&Aを梃に業績を急拡大させている会社」

SHIFT 小島 秀毅氏
SHIFT 小島 秀毅氏
JSTORIES:先ずは小島さんが今、どのようなことをしているのかお伺いさせてください。小島さんは、M&A/PMIの責任者として、2020年にSHIFTに参画して以来、M&A/PMI組織を立ち上げ、さらに2022年にはSHIFTグロース・キャピタルを設立し取締役として参画、2024年には代表取締役にも就任しました。SHIFTで圧倒的な実績を打ち立てたと聞いています。また、直近ではSHIFT USAも設立、取締役CEOに就任し、海外事業も統括されています。
小島:SHIFTはこれまで40件ほどのM&A(資本業務提携を除く)を実施しました。2020年にM&A/PMIチームを立ち上げて、今はコンスタントに年間300件くらいのM&Aを検討し、グループ会社も毎年平均で20~30%成長を続けることができるようになりました。ここ最近は「M&Aを梃に業績を急拡大させている会社」として皆さんに認識してもらえるようになってきたと感じますし、国内外の投資家と話をすると、SHIFTのM&A/PMI戦略は再現性が高いと言われることが増えてきました。
また、1年ほど前に海外チームも立ち上げ、昨年12月に米国企業2社と業務提携を行い、今年2月にはSHIFT USAを設立しました。米国を皮切りに海外展開も本格的に開始しています。
JSTORIES:40件ですか!凄い数ですね。国内トップ件数のM&Aを行っただけではなく、それで会社が急拡大しているというのは凄いですね。まさにM&Aキングですね。日本では米国と違って、M&Aの成立件数が非常に少ないと伺っています。そのような中で、SHIFTのような例は大変、珍しいのではないでしょうか?
小島:M&A件数は適時開示から分かるので常にウォッチしていますが、確かに毎年複数の案件を公表している企業はかなり少ないです。その大きな理由として2点挙げられると思っています。1つ目は「組織にM&A/PMIのノウハウが蓄積していないこと」、2つ目は「大企業・中小企業・スタートアップのM&Aの違いを理解していないこと」です。
1つ目ですが、具体的に言いますと、M&AやPMIの専属チームがなく、案件が持ち込まれた段階でチームが組成され、案件が終了すればチームも解散するというケースが多いです。そうなると組織としてM&AやPMIのノウハウを蓄積することが難しくなります。SHIFTではM&A/PMIを行う専属のチームがあり、これまで累計で1,000件以上のM&A案件を検討してきたノウハウが組織に蓄積され、独自の型が出来上がりつつあります。その結果、案件をよりスピーディーに判断し、効率的に推進することができるようになり、再現性も高くなっています。
2つ目のM&Aの違いについてですが、買収対象企業が大企業なのか、中小企業なのか、スタートアップなのかによって、ソーシングからエグゼキューション、バリュエーションに至るまで、戦略の思考を変える必要があると思っています。私の周りでは大企業からスタートアップに転職しM&Aに携わっている人が多くいますが、なかなか結果が出ず苦労している人に共通しているのは、この違いを理解していない場合がほとんどです。大企業出身の人は大企業で学んだM&Aのやり方でスタートアップを買収しようとする。これでは上手くいきません。逆も然りです。また、投資銀行などがアドバイザーとして関与する案件と、仲介会社から紹介される案件も、入札プロセスひとつ挙げても違いがあります。それぞれのやり方を熟知して対応する必要があります。
JSTORIES:こうした実績が評価されて、小島さんは、今では講演やセミナーの依頼から社外取締役や顧問就任の打診がひっきりなしにあると聞いています。最近は大学でも定期的に講義を行っているようですね?
小島:ありがたいことに、最近はいろいろな機会で声をかけて頂きます。大学での講義で言うと、例えば、京都大学の学部生向けの授業とビジネス・スクール(MBA)の授業で話をしています。昨年はゲストに経済産業省の中西課長(産業組織課)をお招きし、対談セッションも行いました。経済産業省は2023年8月に『企業買収における行動指針』を発表していますが、中西さんはその指針を作った責任者です。この指針は昨今の「同意なき買収」に多大な影響を与えたもので、指針を作る側とそれを実行する側という立場で意見交換をさせて頂きました。こうした議論が日本のM&Aリテラシー向上に繋がれば良いなと思っています。

証券会社、M&AファームでM&Aの理論・フレームワークを学び、商社で実践

京都大学での対談の様子:左から京都大学 砂川教授、SHIFT 小島氏、経産省 中西氏 提供:SHIFT
京都大学での対談の様子:左から京都大学 砂川教授、SHIFT 小島氏、経産省 中西氏 提供:SHIFT
JSTORIES:小島さんが、M&Aを通じて行っている事業承継のお手伝いとか、ユニコーンを増やしていく、といったことは、日本が切実に必要としていることだと思いますが、そうした知見を持っている方は、小島さん以外になかなかいないと思います。なぜ、小島さんだけが他にはできないことができているのか、を知るために、小島さんご自身について少し伺いたいと思います。そもそも、どのような経緯でM&Aに関わるようになったのでしょうか?
小島 :もともとは大学を卒業後、大和証券でキャリアをスタートさせました。その後、GCA(現・フーリハン・ローキー)というM&Aのブティックファームに転職したので、キャリアの前半は様々な企業に対してアドバイザーという立場で仕事を行っていました。一方で、アドバイザーを続ける中で、いつまでたっても当事者にはなれない歯がゆい思いもしました。
そんな時、三菱商事が事業投資のモデルケースとして「ライフサイエンス本部」を立ち上げ、M&A/PMIを活用してビジネスを展開するという話を伺いました。実は、私の大学院の修士論文のテーマが『総合商社の事業投資会社化について』で、商社はトレーディングだけではなく、事業投資を通じてビジネスをスケールさせるべきだという内容の論文を書いていました。まさに、私がチャレンジしたかったことができる環境で声がかかったので、三菱商事に転職することにしました。ここから私の事業会社でのキャリアがスタートします。
JSTORIES:なるほど。証券会社やM&AファームでM&Aの理論やフレームワークを叩き込み、それを商社で実践しながら学んだということでしょうか?
小島:そうですね。新人の頃からアドバイザーという立場でたくさんの企業のM&A戦略に触れる機会があり、もの凄く勉強になりました。私の仕事の基礎力はアドバイザー時代に身に付いたものだと断言できます。特に、GCAの創業者で日本のM&Aの先駆者である佐山さんと一緒に仕事ができたことが、私のキャリアに大きな影響を与えたと思っています。
GCAのアルムナイ。小島氏は、佐山展人氏(中央)に憧れてCGAに転職した 提供:SHIFT<br>
GCAのアルムナイ。小島氏は、佐山展人氏(中央)に憧れてCGAに転職した 提供:SHIFT
その後、「ライフサイエンス本部」の立ち上げにあわせて三菱商事に転職し、当時のグループCEO(後に副社長)とは「10年で事業の柱を作る」と約束しました。アドバイザー時代に培った知見が活きる場面もある一方で、新しく学んで対応しないといけないこともたくさんありました。もがきながら国内外のM&A/PMIを推進し、ちょうど10年ほどでグループの1つの柱となる事業へと成長させました。
JSTORIES:10年で「ライフサイエンス本部」をグループの柱にすると約束して、見事実現させた、ということですが、自信はあったのですか?
小島:ある程度こういう風にやったらできるという確信はありました。10年かけて柱にするとなった場合、逆算してこの時にはこうしないといけない、と考えていました。前半の5年は国内の基盤固めのため、国内でM&Aを行いながらロールアップをし、ある程度、事業規模が大きくなってくるとようやくグローバル企業と肩を並べて商談ができるようになってくる。後半の5年は、最大のマーケットである米国市場に狙いを定め、米国企業の買収を起点によりグローバルに展開していく、といった計画でした。
JSTORIES:商社で着実に実績を出して、まさに順風満帆ですが、小島さんはここで日本を代表する商社からSHIFTという“ベンチャー企業”に移ります。大企業で結果を出していたのに、敢えてこのような新しいチャレンジを決断した理由は何だったのでしょうか?
小島:確かに、周りからは「なぜ三菱商事からベンチャーに?」と何度も聞かれました(笑)。今でも三菱商事の人とはレイヤーを問わずやり取りがありますし、決して三菱商事が嫌になった訳ではないですが、10年かけて事業の柱を作るという目標が達成できたので、純粋に次の挑戦をしてみたいという想いが強くなったのが一番の理由です。あとは、代表の丹下(丹下 大 / SHIFT代表取締役社長)の魅力に惹かれたことも大きいです。
米国駐在から帰任したタイミングで丹下と面談する機会があり、SHIFTのこと、経営のこと、M&Aのこと、IT業界の社会課題などいろいろな話をし、最後に「SHIFTと一緒に成長しよう!」と言われ、凄くワクワクし、二つ返事で承諾をしました。

SHIFTに「ジョイン」し、ビジョンに共感してくれたメンバーを集めチームを構築。日本トップクラスのM&A実績を上げる

グループ経営推進部(戦略企画室・M&amp;A推進室・海外事業推進室)のメンバー&nbsp; JSTORIES撮影
グループ経営推進部(戦略企画室・M&A推進室・海外事業推進室)のメンバー  JSTORIES撮影
JSTORIES:そうして新しいチャレンジの場として選択したSHIFTは、過去10年に渡り高い売上高成長を遂げるという目覚ましい結果を出し続けています。特に、小島さんの担当分野であるM&Aでは日本トップクラスの実績を上げている会社であり、しかもそのM&Aで会社を急拡大させたというのは先ほどもご紹介いただいた通りです。この辺は、入社前から勝算があったのでしょうか?
小島:自信過剰と言われるかもですが、勝算はありました(笑)。丹下との面談で私の強みを聞かれた際、「私の強みは運がいいことで、これまで仕事をしてきた全ての組織の目標を実現させてきました。SHIFTの目標も必ずかないます!」と言い切りました。丹下には笑われながらも「いいね」と言われたのをはっきりと覚えています。三菱商事の時と同じく、会社の目標から逆算して、それに合わせた組織やチーム作り、施策を頭の中で描いています。あとは、“自分が決めたことが正しかった”と言える努力をするだけです。 
2020年にSHIFTにジョインし、「グループ経営推進部」という部署を立ち上げ、先ずはその下に「M&A推進室」と「PMI推進室」の2つのチームを作りました。最初はメンバーもいなかったので、日々の業務と合わせて採用にも力を入れていました。今と比べるとトラックレコードが少なかったので、正直、最初の頃は採用に苦労しましたが、幸いビジョンに共感してくれるメンバーが1人、2人とジョインしてくれて、今では「戦略企画室」「M&A推進室」「海外事業推進室」の3つのチームが一体となり、国内外のM&A戦略の立案からエグゼキューション、PMI、海外戦略に取り組める体制になりました。メンバーのバックグラウンドも多様で、本当に素晴らしいチームになっていると思います。
JSTORIES:なるほど。チームの体制を整えることで、これまで以上のスピードで事業を進めることができるようになったということでしょうか?
小島:どんなに優秀な人でも、個人でやっていてはスケールしません。それを三菱商事にいたときに凄く感じました。M&Aを続け、組織が大きくなると、自分一人では全てを見切れなくなる。私は常に組織力にレバレッジをかけて仕事をスケールさせる方法を考えています。例えば、2022年3月にはM&A戦略をさらに加速させるためにM&Aの機能子会社を作りました。
JSTORIES:代表取締役をされているSHIFTグロース・キャピタルですね?
小島:はい。大きな特徴は、一定の規律(投資対象やマルチプルなど)のもとであればSHIFTの取締役会決議ではなく、SHIFTグロース・キャピタルの投資委員会で意思決定ができることです。SHIFTの取締役会から一定の権限移譲が行われている形になります。取締役会とは違い、投資委員会の開催はフレキシブルなので、意思決定のスピードも格段に早くなりました。

M&Aの効果を最大化するために必要な経営統合(PMI)戦略

SHIFTによるM&A実績(2024年12月末時点)提供:SHIFT
SHIFTによるM&A実績(2024年12月末時点)提供:SHIFT
JSTORIES:小島さんはM&Aによって、SHIFTをもの凄い勢いで成長させているわけですよね。M&Aが企業拡大の原動力になるというのは、日本のスタートアップも上場企業も同じだと思いますが、成長の原動力としてのM&Aについてはどのようにお考えになっていますか?
小島:もちろんオーガニックな成長も大事なので続けていますが、やはり時間を買うM&Aでさらに加速させることも必要なことだと考えています。
我々は、これまで40件ほどのM&Aを行ってきましたが、大事なことは、きちんと再現性を追い求めているという点です。ホームランを打つのは凄い事ですが、偶然のホームランはあまり褒められない。ところが、毎日ヒットを打っていたら褒められる。それをきちんとメンバーにも伝え、評価にも組み込んでいます。それもあるからこそ、毎年コンスタントに数をこなせるわけですし、M&Aをした会社をしっかりとバリューアップさせるPMIにも繋がっているわけです。
JSTORIES:今、ちょうどPMI、経営統合プロセスと呼ばれる言葉が出てきましたので、この件について聞かせてください。つまり、買収した企業に寄り添って、しっかりSHIFTのビジョンやゴールを共有して、いかに成長をともにしていくかということでしょうか?
小島:仰る通り、我々のグループにジョイン頂く会社には、最初にSHIFTのビジョンを共有しています。その際、「遠心力」「求心力」という言葉を使っています。一言でいえば、細かい箸の上げ下げは行わず、必要だと思ったSHIFTアセットを使い倒してください、一緒に成長していきましょう、という話をしています。やらされるのではなく、グループ会社が自発的に動く仕組みを作ることに全力を注いでいます。結果として、グループ会社のトップラインは毎年上がっています。
JSTORIES:つまり、企業の成長に繋げるためには、M&Aをしたら終わりというわけではなく、PMIを適切に行うことがより重要になってくるということですね?
小島:M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するためには、きちんとしたPMI体制が必要不可欠になります。先ほど話をした通り、最初にPMIチームを立ち上げた頃は誰もメンバーがいなかったものの、ここ数年でメンバーも増え、しっかりと型化ができるようになり、グループ会社も平均で20~30%成長を続けています。結果としてSHIFTの連結売上高に占めるグループ会社の割合も40%ほどになりました。まだまだ課題もたくさんありますが、それでもPMIチームがしっかりとバリューアップしてくれるのでM&Aチームもアクセル全開で交渉に臨んでいけます。
JSTORIES:小島さんが、M&A/PMIの両方においてしっかりとしたチームを構成して臨んでいることが伺えます。こうした中で、小島さん自身が、PMIにおいて大事な点は何だとお考えでしょうか?
小島:PMIは大きく2つの観点があると思っています。1つ目は、「100日プラン」と言われるもので、買収後の3ヶ月で最低限やらなければいけないことを確実にやることです。決算期変更や内部統制といったコーポレート周りの業務が多いと思いますが、ある程度対応が決まっているので型化がしやすい領域のPMIです。2つ目は、トップラインを上げシナジー効果を狙うPMIです。こちらはケースバイケースで対応することが多いので、必ずしも細かく型化ができる訳ではないですが、大きなテーマでの型化は可能だと思います。SHIFTの場合、これまでは「採用」「営業」「戦略」のサポート依頼が多かったため、先ずはこれらのテーマでPMIを考えてきました。最近はここに「技術」も加えています。自社のリソースやステージ、課題に合わせて型化することが必要だと思います。
前半はここまで。
後半は、SHIFTの海外戦略や、日本のスタートアップエコシステム、ユニコーンを増やすにはどうしたらいいのか、についての提言などお伺いします。

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記事:前田利継
トップ動画:JSTORIES (Jeremy Touitou, Giulia Righi)
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。
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