世界の結節点をめざすSusHi Tech Tokyo、宮坂副都知事が語る「新たな挑戦」

「エコシステムの競争」ではなく「つなぐ力」へ ─ 東京が目指す次世代型スタートアップ戦略

11時間前
by Masaru Ikeda
世界の結節点をめざすSusHi Tech Tokyo、宮坂副都知事が語る「新たな挑戦」
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日本発のイノベーションを多言語で世界に配信しているソリューション特化型ニュースメディア「JStories」(運営会社:株式会社 パシフィック ブリッジ メディア アンド コンサルティング)は、アジア最大級のスタートアップカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2025」の公式メディアパートナーに就任しました。本パートナーシップを通じて、JStoriesでは、「SusHi Tech Tokyo 2025」が掲げる「持続可能な都市を高い技術力で実現するという理念の下、都市課題の解決に向けた挑戦や東京の多彩な魅力を世界発信する」というミッションの実現に向け世界への情報発信の面でサポートしていきます。
JStories ー 2年前に「CityTech Tokyo」として旗揚げし、昨年から「SusHi Tech Tokyo」としてさらなる発展を目指している東京都のスタートアップカンファレンスを率いるのが、2019年9月から副知事を務めている宮坂学氏だ。
世界中の都市がスタートアップカンファレンスを打ち上げる中で、SusHi Tech Tokyoにも進化が求められている。SusHi Tech Tokyoは今後どのような役割を担い、国際的な存在感を高めていくのか。ヤフーの社長や会長を歴任するなど、テクノロジー業界で大きな実績を上げてきた同氏に、その抱負と戦略を聞いた。

今年から創設された「パブリックデー」、将来の起業家を生み出すために

スタートアップカンファレンスに限らず、ビジネスイベントでは、招待スピーカー、出展者、チケットを購入した人などが参加するのが一般的だ。イベントも平日に開催されることがほとんどだが、今回は初の試みとして、最終日となる土曜日に一般市民に開放するパブリックデーを設けた。
パブリックデーを設けた理由について、宮坂氏はフランス・パリで毎年開催されるスタートアップカンファレンス「VivaTech」での経験をあげた。東京都とパリ市は40年以上前から姉妹都市であることもあり、宮坂氏はここ数年、VivaTech にたびたび登壇し、スタートアップハブとしての東京の魅力を伝えている。
2024年5月にパリで開催された VivaTech。この回の Country of the Year は日本だったため、関係者が多数訪れた。日本パビリオンの開設セレモニーで最左に立っているのが宮坂氏  写真提供 :JETRO
2024年5月にパリで開催された VivaTech。この回の Country of the Year は日本だったため、関係者が多数訪れた。日本パビリオンの開設セレモニーで最左に立っているのが宮坂氏  写真提供 :JETRO
宮坂氏:「VivaTechの最終日はパブリックデーになっていて、出展しているスタートアップは、ビジネスパーソン向けではなく、一般市民向けのプレゼンテーションに切り替えるんです。一般市民が理解しやすい言葉で、自分たちの技術やサービスが未来にどう貢献するのかを説明しています。来場者の中には子供もいて、彼らが楽しそうに参加している様子を見て感銘を受けました」
 「小さい頃からスタートアップや起業家に接し、そしてまだ産業として成立していないが10年後、20年後に革新的なビジネスになる可能性があるものを見ておくことは、子供たちにとても大事だと思います。きっと、そういう子供たちが、10年後や20年後にVivaTechに出展するんだろうと思いました。行政だからこそできる  〝足の長い仕事〟として、次世代の育成と長期的なエコシステム構築の視点を重視しています」
東京都では、パブリックデーを市民との接点を作るだけでなく、「長期的な視点で、スタートアップ文化を醸成するための取り組み」と位置付けている。社会が急速に進化・変化する中で、一般企業の寿命は長くて数十年、スタートアップの寿命は数年と言われるがが、宮坂氏は、行政だからこそ可能な、長期的視点に立った取り組みが必要との考えを強調した。

「エコシステム」ではなく「ノード(結節点)」としての東京

地方自治体が主催するスタートアップカンファレンスの多くは、その地域のスタートアップに焦点を当てることが多い。ただ、東京ともなれば、そこは日本中のスタートアップの集積地でもあり、地方創生の観点から言えば、そうしたスタートアップの生み出す力や気運を日本各地に還元していく責任も負っていると言えるだろう。
SusHi Tech 2025の特徴として、「東京都だけでなく日本全体に貢献するイベントとしての役割を自覚している」と宮坂氏は述べた。今回は東京以外から35の地方自治体が出展予定で、これは前年の10倍の規模となる。この急激な拡大は、地方自治体のスタートアップエコシステムへの関心の高まりを示すものだ。
東京都副知事 宮坂学氏      写真撮影: Moritz Brinkhoff | JStories 
東京都副知事 宮坂学氏      写真撮影: Moritz Brinkhoff | JStories 
宮坂氏:「大阪や名古屋といった都市が単独ではなく、北陸、中京、関西、瀬戸内など、広域連合の形でパビリオン参加してくれているのは面白いと思います。日本各地の自治体が海外のエコシステムと繋がりたいと思っていますが、海外の人からすると、全ての都市に行くのは難しい。でも、SusHi Tech Tokyo に来れば、日本中のエコシステムに出会えるチャンスがあるわけです」
「行政の取り組みとして、東京自体がエコシステムの拠点そのものになることを目指すと、他の都市とライバルになってしまいます。ですから、東京は、プレーヤー同士をつなぐノード(結節点)になるのが大事です。年に一回ノードになるのが「SusHi Tech Tokyo」、一年中ノードとして活動を展開しているのが「Tokyo Innovation Base(TIB)」というわけです」
Tokyo Innovation Base (TiB)       写真撮影:Masaru Ikeda
Tokyo Innovation Base (TiB)       写真撮影:Masaru Ikeda
今回のSusHi Tech Tokyoは参加者目標を前年の4万人から約2割増やし、5万人に引き上げた。「5万人と500社の参加、5000件のミーティング実施」という「5」並びの目標を掲げているが、これらの数字は単なる目標ではなく、同時にイベントの規模と影響力を示す指標とも言える。3回目を迎えた今回、宮坂氏は「確実に国際的な認知度は向上している」と手応えを感じているそうだ。
また、SusHi Tech Tokyoとは「Sustainable High City Tech Tokyo」の略称だが、「サステナブル」という言葉が含まれることからも想像できるように、スタートアップだけでなく、都市が永続的に成長し続けるための技術に主眼を置いている。その観点から多様性にも注力しており、今年の登壇者の半分は海外から、また、45%が女性という高い数値を達成している。

行政がスタートアップを支援するモデルケースとして、東京都が実践していること

スタートアップハブ形成を目指す世界中の都市が目標とするシリコンバレーがアメリカ西海岸に形成され始めたのは、その地に人材輩出の源となるスタンフォード大学が存在したこと、それを背景に、ヒューレットパッカードやフェアチャイルドのような半導体産業が生まれたこと、そして、彼らを支援するKPCBなど投資家が集まってきたことなどに起因する。
この話を聞くと、本家のスタートアップハブ形成は完全に民間主導で、そこには政府の支援は介在していないように思える。一方で、アメリカ以外の国々では、多くの場合、中央政府や地方自治体が多額の助成金を投入することで、半ば人工的にスタートアップハブを形成してきた側面があることは否めない。
広く公平に、偏りなく支援することを求められる行政がスタートアップ育成に過剰介入することは、時として負の効果を伴う。一定期間のトライアルを経ても、世の中に必要とされなかったスタートアップは市場から退場を促されるのが自然の摂理だが(デッドプール入りや倒産)、行政の支援が、言ってみれば、単なる延命措置になってしまうこともあるからだ。
そんな理由から、筆者は以前、行政の過剰なスタートアップ支援には懐疑的だったが、この考えを少し改めつつある。起業家として世界的スターとも言えるイーロンマスク氏率いる SpaceX や Tesla でさえ、NASAや国防総省からの業務委託(SBIR)、エネルギー省による融資や税優遇措置、GSAによる政府調達などで生き残ってきた経緯があるからだ。
東京都副知事 宮坂学氏      写真撮影: Moritz Brinkhoff | JStories 
東京都副知事 宮坂学氏      写真撮影: Moritz Brinkhoff | JStories 
つまり、社会構造を変革するような新産業を生み出す過程では、行政の支援は理に適ったスキームであり、その成果は納税者を含む社会全体に還元されるだろう、という考え方だ。東京都でも近年、スタートアップを対象にした行政調達の取り組みを強化していて、2022年は9件だったのが、2024年には153件まで伸びた。今後、500件まで増やす計画があるという。
宮坂氏:「東京都という世界でも有数の大都市が選んだということ自体が、スタートアップにとって大きな後押しになります。金額自体はそんなに大きくないが、東京都が採用したということが信用になり、この信用は国内の他自治体への展開や、場合によっては海外政府機関への採用にもつながっています」
「スタートアップへの支援は直接的な資金提供だけでなく、このような形での信用供与も重要です。特に行政の規模が大きいと発注額も大きくなりすぎて、資金力のないスタートアップは対応できないこともあります。しかし東京都に採用されたという実績自体が、次のビジネスにつながる大きな後押しになります」
スタートアップエコシステムの発展において「東京モデル」が形作られつつある。宮坂氏が目指すのは一過性のブームではなく、「Sustainable High City」の名が示す通り、持続可能な形での日本全体のスタートアップ強化だろう。東京独自の取り組みが今後どのような成果をもたらすのか、その行方に注目したい。
記事:池田将 
編集:北松克朗
トップ写真: Moritz Brinkhoff | JStories

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