もしオードリー・タンが、あなたのメンターになったら?

東京都が新たに立ち上げたスタートアップ支援プログラムに、台湾の元デジタル担当大臣オードリー・タン氏が参加 日本の起業家たちへの個別メンタリングを提供

11月 22, 2024
by Toshi Maeda
もしオードリー・タンが、あなたのメンターになったら?
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J-STORIES – 著名な「天才プログラマー」で、今年5月まで台湾のデジタル担当大臣としても活躍したオードリー・タン氏が先週末、東京・有楽町に姿を現した。
東京都の招きで来日した同氏は、都が起業家向けに開始した「プレミアム・メンタリング」と呼ばれるプログラムに出席。基調講演とともに、日本のスタートアップ3社とそれぞれ30分の個別メンタリングを行い、起業家精神や事業展開についての実践的なアドバイスを熱くかつ冷静に語った。
東京都の「プレミアム・メンタリング」プログラムに初回メンターとして参加し、日本のスタートアップに個別アドバイスを提供する台湾の前デジタル担当大臣オードリー・タン氏。  撮影:前田利継 | J-STORIES(以下同様)
東京都の「プレミアム・メンタリング」プログラムに初回メンターとして参加し、日本のスタートアップに個別アドバイスを提供する台湾の前デジタル担当大臣オードリー・タン氏。  撮影:前田利継 | J-STORIES(以下同様)
会場となった都のスタートアップ支援拠点 Tokyo Innovation Base(TiB)でタン氏のメンタリングを受けた株式会社LIGHTz(茨城県)のCEO、乙部信吾さんは、台湾のデジタル政策の象徴とも言える同氏への敬意を新たにしたという。とりわけ乙部さんは、同じエンジニアでありながら、技術面だけの思索にとどまらない深みのあるタン氏のアドバイスが印象的だったと語る。

「東洋の視点」からのアドバイスに感銘

「特に印象的だったのは、エンジニア同士の視点で、単に技術的なアドバイスだけでなく、東洋的な文化や考え方を含めた深みのあるビジネス戦略についてのアドバイスをいただいた点です。技術面だけでなく、文化面も大事にしてビジネスを進めるべきだということを学びました」と乙部さんは語る。
茨城県を拠点とするAIスタートアップである株式会社LIGHTzのCEO、乙部信吾氏(左写真・中央)とチームメンバーは、各クライアントの要望に応じた製品のカスタマイズの必要性などについてオードリー・タン氏に意見を求めた。
茨城県を拠点とするAIスタートアップである株式会社LIGHTzのCEO、乙部信吾氏(左写真・中央)とチームメンバーは、各クライアントの要望に応じた製品のカスタマイズの必要性などについてオードリー・タン氏に意見を求めた。
LIGHTzは、ベテラン職人や「匠」などと呼ばれるスペシャリストたちが持つ専門知識や独自のスキルをAIシステムでデータ化し、様々な分野で継承・活用する仕組みを開発するスタートアップだ。
乙部さんのチームが特に質問したかった点の一つは、自分たちの製品を顧客の個別ニーズに合わせてどこまでカスタマイズすべきか、ということだった。最初はカスタマイズに否定的だったタン氏も、乙部さんらの話を聞いているうちにカスタマイズに理解を示すようになった。
「シリコンバレーの投資家や関係者との会話では、競争環境でいかに勝つかに焦点が当たりがちだが、今日のメンタリングでは、私たちが目指すべき場所と、それに向けて何を準備すべきかに話題が集中した」と乙部さんは語る。タン氏とのやりとりは全て英語で行われた。

「多様性」を追求する重要性を説く

メンタリングに先立って行われた基調講演で、タン氏は未来を築いていく起業家が「単一性 (Singularity)」ではなく「多様性・複数性 (Plurality)」を追求していくことの重要性を強調した。
東京都初のスタートアップ起業家向け「プレミアム・メンタリング」セッションに先立ち基調講演を行う台湾の前デジタル担当大臣のオードリー・タン氏。
東京都初のスタートアップ起業家向け「プレミアム・メンタリング」セッションに先立ち基調講演を行う台湾の前デジタル担当大臣のオードリー・タン氏。
「台湾では、『デジタル』という言葉は同時に『多様性』を意味する言葉でもあります。多様性、複数性、つまり多くの異なるものを含むことです。デジタル大臣であることは、多様性の大臣でもあるわけです」とタン氏は話した。
台湾初のトランスジェンダーで「無性別 (non-binary)」の大臣だった同氏は、14歳で中学を退学し、独自にプログラミングや英語をはじめとする多くの言語を習得、16歳で自ら最初のソフトウェア会社を立ち上げた。「天才」と呼ばれる一方、ビジネスでも大きな成功を収めた同氏は、日本の起業家たちに事業の持続可能性や「プロソーシャル(社会貢献的)」な価値観を追求するよう促した。
「皆さんのスタートアップにおいて、抽出型の経済モデルから、持続可能でハイテクなモデルへと転換する方法を考えることが重要です」、「会社(単独)ではなく、(その事業が持つ全体的な)エコシステムを構築することが大切。日本や台湾などアジアでは、このような考え方が私たちの行動の基本になっていると思います」。こうした同氏の言葉を参加者たちは熱心に聞き入っていた。

人工知能が社会をどう変えるかを議論

タン氏の講演後、人工知能とデジタル技術が人間社会をどのように変えていくのかを探るディスカッションも行われた。このセッションには、日本のスタートアップの中でも注目される存在である「Sakana AI」の共同創業者でCOOの伊藤錬氏が参加した。
東京都初の「プレミアム・メンタリング」セッションは、11月17日に東京・有楽町のスタートアップ支援拠点「東京イノベーションベース(TiB)」で開催された。
東京都初の「プレミアム・メンタリング」セッションは、11月17日に東京・有楽町のスタートアップ支援拠点「東京イノベーションベース(TiB)」で開催された。
Sakana AIは、自然界の効率性、特に蜂の群れのような集団知能の概念にインスピレーションを得て、新しい基盤AIの構築を目指す東京拠点のユニコーン企業である。
「私たちはOpen AIとは真逆のことをすることを決めていました」と、元・外交官の伊藤氏は話した。「オープンソースのバックグラウンドから来た私たちは、『AIをもっと持続可能にし、地域社会の利益になるようにしよう』と考えました。特に日本のためになるようにしたかったのです。」
日本最速でユニコーン企業となった「Sakana AI」のCOO、伊藤蓮氏(右)が オードリー・タン氏と共にディスカッションに参加。人工知能が人間社会をどのように変革させているか、またスタートアップや起業家精神の育成における東西の価値観や慣習の違いについて議論を交わした。
日本最速でユニコーン企業となった「Sakana AI」のCOO、伊藤蓮氏(右)が オードリー・タン氏と共にディスカッションに参加。人工知能が人間社会をどのように変革させているか、またスタートアップや起業家精神の育成における東西の価値観や慣習の違いについて議論を交わした。
記事:前田利継 
編集:北松克朗
トップ写真 撮影:J-STORIES (前田利継)
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