インバウンド人気は観光にとどまらず 〜 日本市場に流入する東アジア発スタートアップの新潮流

シリコンバレーではなく東京。韓国や台湾のスタートアップを惹きつける日本市場の魅力に迫る

8月 9, 2024
By Toshi Maeda
インバウンド人気は観光にとどまらず 〜 日本市場に流入する東アジア発スタートアップの新潮流
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J-STORIES ー 多くのアジアのスタートアップは、グローバルに展開し、世界の舞台で輝くことを夢見ている。一部の企業はスタートアップの聖地とも呼ばれる米・シリコンバレーに進出し、世界で最も活気があり競争の激しいスタートアップコミュニティに参加しようとしているが、自国以外の最初の市場として日本を選ぶアジアの企業、特に韓国や台湾のスタートアップが増えているというのだ。
その中でも東京は、多くの企業にとって現実的で実現可能な初の海外進出先として見られている。
「率直に言って、日本を選んだ一番の理由は同じタイムゾーンにいるからです」と語るのは、韓国の「遠隔医療」分野のパイオニアである、株式会社ドクターナウの創業者、ロビン・ジャン氏。ドクターナウは症状から病気を検索する機能などを持つオンライン診療&薬配達アプリ「ドクターナウ」を運営する韓国企業で昨年はフォーブスのアジア有望企業100(Forbes Asia to Watch 100)に選出されている。
韓国の「遠隔医療」分野のパイオニアである、「ドクターナウ」の創業者、ロビン・ジャン氏        提供:Venture Cafe Tokyo (以下、同様)
韓国の「遠隔医療」分野のパイオニアである、「ドクターナウ」の創業者、ロビン・ジャン氏        提供:Venture Cafe Tokyo (以下、同様)
ジャン氏は、Venture Café Tokyo が8月8日に開催した日本、韓国、台湾のスタートアップ経営者によるトークイベントの登壇者の一人。このイベントでは、東アジアの起業家達が国境を越えた協力関係を結ぶことで、経済成長とテクノロジーの進歩を共に実現する為の方法などについて議論が交わされた。
Venture Café Tokyo は、米・ボストンに本部を置き、世界4カ国14都市で展開する非営利団体 Venture Café グローバルネットワークのアジアで初めての拠点である。今回のイベントを企画した Venture Café のプログラムパートナー小倉大地雄氏は「日本のスタートアップエコシステムに東アジアのスタートアップを含める必要性が高まっています」とイベントの開催理由を語る。Venture Café としても、台湾や韓国のスタートアップがよりアクセスしやすくなるように、福岡や横浜に新たな拠点を開設する予定だという。
8月上旬に Venture Café Tokyo(虎ノ門ヒルズ内)で行われたイベントでは、参加した台湾や韓国など東アジア出身のスタートアップ代表者たちが、日本市場の魅力と日本進出を成功させるノウハウなどについて語り合った。
8月上旬に Venture Café Tokyo(虎ノ門ヒルズ内)で行われたイベントでは、参加した台湾や韓国など東アジア出身のスタートアップ代表者たちが、日本市場の魅力と日本進出を成功させるノウハウなどについて語り合った。
ジャン氏は、現在、毎週東京とソウルを行き来しており、平均して週に日本で4日、韓国で3日を過ごしている。
「韓国の出生率が今年0.7を下回ると予測される中で、グローバル展開は多くの韓国スタートアップにとって運命のようなものです」とジャン氏は話す。ジャン氏のスタートアップが日本市場にスムーズに進出できたのは、日韓両国の医療法に類似点があることが一因だとも語る。
一方、イベントの登壇者の一人である台湾のスタートアップ、AI駆動型トラベルテック「Aiello Inc.」の共同創業者兼CEOであるヴィック・シェン氏は、日本に進出を決めた理由は市場規模に加えて、台湾人は日本に知り合いが多くいることだと話す。
「台湾の友人・知人のルートを辿っていくと、ほとんどの場合、日本で必要な人脈に辿り着くことができます」とシェン氏。
ホテルやホスピタリティー業界に向けて音声を使ったサービスツールを提供する、台湾のAIスタートアップ 「Aiello」の共同創業者兼CEO ヴィック・シェン氏    
ホテルやホスピタリティー業界に向けて音声を使ったサービスツールを提供する、台湾のAIスタートアップ 「Aiello」の共同創業者兼CEO ヴィック・シェン氏    
シェン氏のスタートアップは、旅行業界などに向けた音声アシスタントツールを提供しており、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、日本の5カ国・地域で展開している。現状は台湾が一番の市場だが、来年には日本での収益が台湾を超え、日本が最大の市場になることを期待しているという。
元・現職の起業家の実際の経験と約1.5万人の起業家に会って得たデータをもとに、実践的な起業家向け教育コンテンツを直接開発しているという韓国のスタートアップ「アンダードッグス」のマネージャーのイム・ジェソン氏は、日本政府のスタートアップ支援が彼のようなアジアの起業家の日本進出を間接的に支えていると指摘する。
韓国の起業教育のコンテンツを開発している「アンダードッグス」のイム・ジェソン氏     
韓国の起業教育のコンテンツを開発している「アンダードッグス」のイム・ジェソン氏     
「現在、私たちのスタートアップは日本政府からの資金提供は受けていませんが、そのような資金の提供を受けている日本のスタートアップと協力してプログラムを進めています」と、イム氏は J-STORIES に語った。
日本政府が2022年から進めている『スタートアップ育成5か年計画』は、日本から100社の「ユニコーン」企業を生み出すことを目標として、スタートアップへの資金提供を含めた支援を行っている。
さらに、ここ数年日本では、特に台湾や韓国などからのアジアのスタートアップが集まり、一部政府の支援も受けてイベントを開催する傾向が高まっている。9月中旬には、台湾政府が主催し、東京都が後援する日台のスタートアップの交流イベント「日本・台湾イノベーションサミット」が東京で開催される予定で、台湾のスタートアップ担当大臣や小池百合子・東京都知事なども参加を予定しているという。
また、Venture Café Tokyo でも、グローバルなスタートアップが参加する半年に一度のシグネチャーピッチイベント「Rocket Pitch Night」を9月6日に大阪で開催する予定で、ここにも台湾や韓国をはじめ、アジアで展開する多数のスタートアップ企業の参加が見込まれている。
記事:前田利継(編集長) 編集:一色崇典
トップ写真 提供:Venture Cafe Tokyo 
この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。

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