J-STORIESは、オンラインマガジン「TOKYO UPDATES(東京アップデーツ)」とのコンテンツ提携を開始しました。「TOKYO UPDATES」は、ライフスタイルから、SDGsをはじめとする先進的な取り組みまで、グローバル都市「東京都」の魅力を伝えるメディアです。J-STORIESでは、「TOKYO UPDATES」のコンテンツの中から、問題の解決策に焦点を当てた記事をピックアップし、東京から生まれる創造的な解決策や画期的な取り組みを紹介します。
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J-STORIES - 「東京を油田に変える!」。そんな決意を胸に環境保護に取り組んできた女性がいる。株式会社ユーズの代表取締役、染谷ゆみ氏だ。これまでの取組と今後の展望について話を聞いた。
東京のキッチンにはたくさんの油が眠っている
染谷氏が、天ぷらなどに使った廃食油を回収して精製、工業原料として販売する家業の有限会社染谷商店に入社したのは1991年。きっかけは、高校卒業後に出たアジア放浪の旅だ。
「チベットから国境を越えてネパールに向かった時、土砂災害に遭遇したんです。九死に一生を得るような惨事でしたが、現地の人たちは『これは天災ではなく人災だ』と言っていました」
現地では開発のための森林伐採が進み、地盤が緩くなっていたのだ。これをきっかけに環境への関心が高まった染谷氏は、染谷商店に入社した。家庭から出る廃食油の大部分は、固めたり紙や布に含ませたりして廃棄されるが、有効に活用すればゴミを減らすことができ、リサイクルにつながるのだ。
「集まってくる廃食油を見て、東京は油田だと思いました」
廃食油の回収率を上げれば、環境への負荷をさらに減らすことができる。染谷氏はそう考えた
1993年には、廃食油から大気汚染の原因となる硫黄酸化物が発生しない、バイオディーゼル燃料BDF(Bio Diesel Fuel)の開発に世界で初めて成功。ディーゼル車の燃料としての使用が可能で、廃食油の回収トラックもBDFで走らせるようになった。
1997年に株式会社ユーズを設立し、2007年には東京のすべての廃食油を回収して資源化する「TOKYO油田2017プロジェクト」を開始。音楽フェスティバルや環境イベントなどで、BDFを使って発電するなど循環型社会への転換に向けた取組を進めていた。
地産地消のエネルギー計画が白紙に
しかし、2009年の法律改正によりBDFの自動車燃料としての使用に制限がかかるようになる。
染谷氏はその後、2016年に株式会社TOKYO油電力を設立、今度は廃食油で発電する発電機を開発して、電気の販売を開始した。
「東京で使用された油で発電した電気を、東京で消費するという地産地消の電気を目指したんです」
事業は順調に広がりを見せたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇などから廃食油の仕入れ価格が高騰するなど売電事業を中止せざるを得ない状況に。
「せっかくここまでやってきたのに、と無力感を抱いたのは事実です。でも廃食油はこれからも産出されますから、可能性は残されています。そう思って廃食油の回収に専念しました」
天ぷら油が飛行機の燃料になる!?
数年前から、廃食油に新たな需要が生まれている。廃食油からつくる航空燃料SAF(Sustainable Aviation Fuel)に注目が集まっているのだ。SAFは、石油からつくるジェット燃料よりも二酸化炭素の排出を大幅に減らせるクリーンな燃料で、ノルウェーなどは航空燃料にSAFを混ぜるよう義務化している。
東京都でも、「バイオ燃料活用における事業化促進事業」を実施。SAFを活用した全日本空輸株式会社による羽田・八丈島路線の運行を支援事業としている。
「私たちも回収した廃食油を、SAFの製造工場があるシンガポールに輸出するようになりました」
日本でもSAFの国産化を目指す動きがある。実現すれば、廃食油のリサイクルはますます進むだろう。
「紆余曲折ありましたが、東京が油田になる姿を見届けたいと思っています。環境問題は避けては通れない課題です。30年前に私が環境産業を始めると宣言した時とは、社会の理解も大きく変わってきています。今は環境への配慮がないビジネスは成立しない時代です。東京の油田は人がいる限り枯れないと思っています」
TOKYO油田プロジェクトは、形を変えながら継続中だ。
染谷ゆみ
TOKYO油田2017
取材・文/今泉愛子
写真/穐吉洋子
「このコンテンツは、TOKYO UPDATESとのパートナーシップにより提供されています。」
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