慢性的なアレルギー性の目の病気「アトピー角結膜炎」の治療に新展開

副作用を抑えた分子標的薬、実用化へ前進

1月 8, 2026
BY YOSHIKO OHIRA
慢性的なアレルギー性の目の病気「アトピー角結膜炎」の治療に新展開
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JStories ― 体内の異常の原因となる特定の分子を狙い撃ちする「分子標的薬」が、失明の原因にもなりかねないアトピー角結膜炎の治療にも有効であることがわかり、佐賀大学富山大学日本大学と協力して新しい外用薬の開発を進めている。分子標的薬はがん治療の分野で多く実用化されているが、今回の開発が成功すれば、世界で初めて慢性のアレルギー性結膜炎(アトピー角結膜炎)に対する分子標的薬が誕生することになる。
佐賀大学などの発表によると、アトピー角結膜炎は日本全人口の5.3%、20人に1人が罹患している患者数の多い病気で、痒み,異物感,眼脂などの症状を伴い、最悪の場合は失明に至ることもある。現在の治療薬としては、ステロイド点眼薬と抗アレルギー点眼薬が広く使われているが、副作用が問題となることもあり、新たな治療薬が求められていた。
アトピー角結膜炎は、強い目の痒みや充血だけでなく、重症化すると結膜増殖や角膜障害を伴い、失明に至る場合もある    写真提供:佐賀大学医学部分子生命科学講座(以下同様)
アトピー角結膜炎は、強い目の痒みや充血だけでなく、重症化すると結膜増殖や角膜障害を伴い、失明に至る場合もある    写真提供:佐賀大学医学部分子生命科学講座(以下同様)
研究を手掛けているのは、佐賀大学の出原賢治特任教授(医学部分子生命科学講座アレルギー分野)、市村聡准教授(同講座分子医化学分野)らのグループ。同教授らは、皮膚の痒みを引き起こす原因物質として知られるタンパク質であるペリオスチンに注目。アトピー性皮膚炎の治療薬として開発中のペリオスチン阻害剤が、慢性のアレルギー結膜炎、中でもアトピー角結膜炎を引き起こす分子に対して抑制効果があることを突き止めた。

 全人口の20人に1人が発症する眼のアレルギー疾患

新たな治療薬の研究開発を進めるきっかけとなったのは、富山大学の北島勲副学長がアトピー性皮膚炎によく似た病態の実験用のマウスを開発した10年ほど前に遡る。出原さんによると「当時は、この疾患によく似た病態を示す動物モデルが存在せず、病気発症のメカニズムやどういう化合物が薬として有効かといった研究がほとんど進んでいなかった」という。
アレルギー反応により生じる結膜の炎症疾患であるアレルギー性結膜炎の分類
アレルギー反応により生じる結膜の炎症疾患であるアレルギー性結膜炎の分類
佐賀大学医学部分子生命科学講座アレルギー分野の出原賢治特任教授
佐賀大学医学部分子生命科学講座アレルギー分野の出原賢治特任教授

皮膚の痒みの原因物質が眼の病変の原因にも 

マウスの観察を始めると、「眼に病変を生じ、その病態がアトピー角結膜炎に似ており、これまで皮膚の痒みの原因物質として知られるタンパク質・ペリオスチンが多く現れていることが分かった」と出原さん。そこで遺伝子改変技術により、生まれつきペリオスチン遺伝子を持たないマウスを作成したところ、目の炎症や血管新生などの眼病変がほとんど見られず、病変が見られた場合も軽度という結果になり、ペリオスチンが眼病変の重要な原因であることがわかったという。
アトピー性皮膚炎の症状に似たマウスの眼には、アトピー角結膜炎に似た病態が現れる
アトピー性皮膚炎の症状に似たマウスの眼には、アトピー角結膜炎に似た病態が現れる
 さらにアトピー性皮膚炎の治療薬として現在開発を進めているペリオスチン阻害薬(CP4715)を投与すると、目の炎症が抑えられるという結果にたどり着いた。 
「ペリオスチンという分子が眼病変の原因になっていること、そして先行していたアトピー性皮膚炎の研究がアトピー角結膜炎にも応用できるという発見は、新たな治療薬開発における大きな進歩」と出原さんは言う。アトピー性皮膚炎の研究は今も継続しており「遠くない将来、その結果も発表できると思う」と付け加える。
ペリオスチン阻害薬(CP4715)を投与したマウスの眼(写真右)は炎症が改善している 
ペリオスチン阻害薬(CP4715)を投与したマウスの眼(写真右)は炎症が改善している 
マウスを使った研究と合わせ、アトピー角結膜炎を実際に発症している患者の眼瞼結膜乳頭の切除片などでの比較検討を日本大学医学部付属板橋病院眼科の松田彰准教授が担当している。

  創薬に向け、2年を目標に前臨床試験完了へ

出原さんらは「 現在、既存の点眼薬との効果の違いを明らかにするほか、化合物を溶かす溶液の候補選定など前臨床試験の段階。点眼薬メーカーと実薬製造に向けた検討も進んでいる」とし、「研究資金などの問題もあるが、2年をメドに前臨床試験を完了させたい」と意気込む。
実薬としては、点眼薬もしくは眼瞼クリームとしての開発を検討。「アトピー角結膜炎の重症の患者さん向けの薬として承認を得る方向で進めているが、将来的には軽症の方にとっても既存の薬に加えて有効な薬の選択肢が増えることになる」という。
 「医学領域全体が分子標的という病気の原因をピンポイントで抑えることで副作用を回避する治療の流れにあるが、結膜炎においてはこれまで分子標的薬がなかった。アトピー性皮膚炎の創薬と並行して今回のアトピー角結膜炎治療薬の研究開発がさらに進めば、科学的にも医学的にも大きな意義を持つ」と出原さんは話している。
記事:大平誉子 | JStories
編集:北松克朗 | JStories
トップ写真: Envato 提供
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