J-STORIES ー 100年後の人類は木も緑もない荒涼とした世界に住むことになるかもしれない・・・。これはこのままのペースで森林が伐採された状況下における国連食糧農業機関(FAO)が警告する最悪のシナリオである。こうした来るべき材木不足は、地球温暖化の影響などとも相まって木材で製造する楽器の供給にも大きな影響を与える懸念がある。
特にギターなどの弦楽器に適した木材はかつては安価で調達できたが、温暖化などの理由で希少化しており、供給は世界中で減少を続けている。
こうした中、新たに木を伐採することなく、手元にある木材を無駄なく利用することで良質な楽器を作る試みを日本の大手楽器メーカーであるヤマハが始めている。
「アップサイクリングギター」と名付けられた2台のギター。マリンバの音板を作る木材で作られた『モデル「マリンバ」』と、ピアノの響板に用いる木材で作成した『モデル「ピアノ」』である。いずれも、同社のピアノやマリンバを工場で製造した際に発生した端材や、木目が合わない、節があるなどの何らかの理由で使用できず残された未利用木材を組み合わせて作られている。
こうした木材は、同社がピアノやマリンバを製造するにあたって、スプルース、メイプル、ローズウッドなど世界中から調達した緻密で響きの良い木材の中から、同社の職人によって厳選された最高級木材である。同社では、従来から、楽器製造時に発生する未使用材を燃料や、楽器以外の用途にリサイクルしていたが、今回のアップサイクリングギターは、上質な木材に相応しい方法で再利用するというだけではなく、これまでギターには使用されていなかった木材を使用することで新たな価値を見出すことを目的としているという。
「材料の廃棄量を減らすことも勿論重要ですが、この研究では新しい材料を使って、新しいギターの価値を生み出すことに重点をおいています」と語るのは、アップサイクリングギター開発者の一人でヤマハの研究部門に所属する松田秀人氏。
「木は有限ですし、このような貴重で良質な木材がいつまでも手に入るかどうかはわかりません。高品質な楽器を作り続けるために、私たちは常に持続可能な方法を模索しています。」(木村氏)
木村氏によれば、アップサイクリングギターの音は、一般的なギターと比べて太く、独特な特徴があるという。また、ギターのデザインは素材の元となるマリンバやピアノの外観を反映しており、モデル「マリンバ」は木の斜めの並びがマリンバの音板が並ぶ様子を、モデル「ピアノ」の木は表がピアノの響板、裏が黒いピアノの外観を表現している。
木村氏によれば、実際にギターを手に取った多くの来場者が、そのビジュアルや音の重厚さに魅了され、購入を希望したという。今のところあくまで研究用の試作品なので、販売の予定はない。
「みなさんが関心をもって見てくださる姿を目の当たりにして、もっと未利用材を活用して、いろんなことができると可能性を感じました。今回の展示は一過性のものではなく、今後もヤマハの取り組みを紹介することで、木材や楽器について知っていただく機会になればと思っています」と語った。
記事:大河原有紗 編集:一色崇典
撮影:高畑依実、リドリー・コイト
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