老朽化する都市インフラをスマホとAIで素早くリスク診断

現場調査の時間やコストを削減、人手不足の自治体に利用広がる

16時間前
BY YOSHIKO OHIRA
老朽化する都市インフラをスマホとAIで素早くリスク診断
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JSTORIES ー 安全で快適な暮らしを支える都市インフラは、その機能を維持するため、絶え間ない点検・保守の作業が必要になる。戦後の高度成長期に道路や橋などが集中的に建設された日本では、都市インフラの老朽化が進んでおり、その対策は緊急の課題だ。しかし、人口減少が続く中、保守点検を担っている多くの自治体が専門人材の不足に頭を痛めている。
破損した道路をAIがキャッチし情報を共有する             アーバンエックステクノロジーズ提供 
破損した道路をAIがキャッチし情報を共有する             アーバンエックステクノロジーズ提供 
こうした状況を打開する新しいソリューションとして、AIを活用した都市インフラの管理システムサービスを提供している企業が2020年4月に設立されたアーバンエックステクノロジーズ(東京都渋谷区、前田紘弥代表取締役社長)だ。
同社は代表の前田さんが東京大学大学院で行っていた研究を同大の支援を受けて事業化した東大発のスタートアップ。専門家の目視や測量による調査とは異なり、同社のサービスはスマホなどで収集した道路や橋などの画像データをAIで解析、老朽化したインフラの問題個所をより早く、簡便に、低コストで見つけ出すことができる。
同社の中核サービスとなっているのは、道路インフラを点検する「RoadManager」事業。道路の損傷を検知する専用アプリをスマホやドライブレコーダーにインストールし、車を走らせながら道路の損傷をアプリが自動検知する。道路管理者はシステムにアップロードされた画像データをチェックできるので、現場に行かなくても損傷の状況や場所の確認が可能になり、補修作業に取り掛かるまでの時間が従来よりも大幅に短縮される。
『ドラレコ・ロードマネージャー』サービス紹介動画             アーバンエックステクノロジーズYoutube Channelより
 これまでの道路管理は、破損個所を検出する専用機器を搭載した高価で大型の測定車で巡回をするか、2人1組での巡回パトロールで目視して当該箇所を見つけ出すなどの作業が基本となっていた。人力による巡回は人員と時間を多く必要とするだけでなく、目視であるため損傷状況の判断に違いが生じるなどの問題点があった。
 しかし、AIによる検知であれば、大型の専用観測車を必要とせず、普通の車を道路データの収集車として使うことができる。
「汎用的に出回っているデバイスを活用でき、高価な機器を購入する必要がなくコストを削減できる。また点検職員による判断のズレもなくなり、点検に費やしていた時間を別の作業に充てることができる」と前田さんは言う。
「RoadManager」サービスの流れを示した概要図  アーバンエックステクノロジーズ提供(以下同様)
「RoadManager」サービスの流れを示した概要図  アーバンエックステクノロジーズ提供(以下同様)
 RoadManagerの事業例として、同社は三井住友海上火災保険と協力、同保険契約者のドライブレコーダーが集めたデータを道路インフラの点検に活用している。また、出光興産とは製品配送車両を運搬だけでなくデータ収集に利用する協力も行っている。
現在、RoadManagerによって集められた道路情報については、道路管理者である54の自治体やNEXCO(西日本高速道路)、首都高速道路などが主な提供先となっている。東京・品川区では、実証実験を経て2022年から同サービスを正式導入。同年1年間で200件以上の破損個所を確認し、早期対応につなげられた。また「経過観察が必要な箇所についても、現地に赴く必要がなく、システムを通じて定期的な観察ができている」など、導入効果を評価する声が届いているという。
破損した道路を車に搭載したスマートフォンが撮影、その画像をAIが分析して情報を共有する
破損した道路を車に搭載したスマートフォンが撮影、その画像をAIが分析して情報を共有する
 ただ、昨年1月の能登半島地震発生後に無償でこれらのサービスを提供したところ、実際に利用された件数は少なかった。前田代表は「使い慣れていない技術を災害時に活用するのは難しい。災害時のためのサービスではなく、平常時から使っていただいているからこそ災害時にも役立つサービスとなるということを再認識した」と振り返る。
一方、同社では、自社のシステムを使い、住民と自治体が共同して地域の課題に取り組む市民協働投稿サービス「My City Report for citizens」も提供している。道路の破損などの情報だけでなく、住民が壊れた公園の遊具など危険な場所や物の情報を個人のスマホから投稿し、自治体やユーザーと共有できる。住民たちが暮らしの中で見つけ出した街中のリスクをリアルタイムに自治体に伝え、早期の対応を可能にするサービスだ。
「人が増える社会においては、新しいものを作り出していけばよい。しかし人が減っていく社会では、まちの運営コストを下げていく仕組みが必要。それを実現していくのが私たちの事業です」と語るアーバンエックステクノロジーズの前田紘弥代表取締役社長
「人が増える社会においては、新しいものを作り出していけばよい。しかし人が減っていく社会では、まちの運営コストを下げていく仕組みが必要。それを実現していくのが私たちの事業です」と語るアーバンエックステクノロジーズの前田紘弥代表取締役社長
 新たな国内事業として、2024年7 月からは東京都と盛土の見守りに関する協業を開始している。現在ある盛土の経過観察と不適正な盛土の早期発見などに、同社のAI技術を活用する。
盛土観察サービスについて、前田さんは「都市インフラのコスト削減にさらに貢献していくために、管理するインフラを道路だけでなく地面にも広げた。人口減少の社会的コストをさらに減らせるよう、今後、ガスや電力などにも対象となるインフラを拡大していく」と話す。 
同社は今後、国内だけでなく海外での展開を進める方針で、これまでにASEAN地域や中南米9カ国でも技術実証を行っている。
記事:大平誉子 
編集:北松克朗
トップページ写真:Envato
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