J-STORIES ー 海藻を食い荒すウニを採捕し、陸上の畜養施設で高級食材に育て上げる。豊かな海の再生と地元振興をつなげる循環型ビジネスが生まれたのは、東北地方を中心に甚大な被害をもたらした2011年3月11日の東日本大震災がきっかけだった。
震災による地域壊滅の姿を目の当たりにした武田ブライアン剛さんは、巨大な津波の爪痕として東北の海に広がった「磯焼け」被害への取り組みを心に決めた。ウニを捕食するカニやサザエなどが津波で押し流された結果、海を育む海藻の森がウニの食害にさらされるようになり、漁業喪失の危機感が高まっていたからだ。
武田さんは2017年1月、増えすぎたウニを除去し海藻の森を取り戻すこと、採捕したウニを有効活用して地元の振興や雇用拡大につなげることなどを目的とする「ウニノミクス」社(東京都江東区)を設立した。
しかし、増殖したウニはエサ不足で身入りが悪い「空ウニ」ばかりで、そのままでは食用にできない。同社はウニ本来の味を取り戻すため、食用昆布の切れ端を使い、ホルモン剤や抗生物質、保存料を一切使用しない専用飼料を開発。陸上での畜養で空ウニを高級食材に復活させる技術を確立し、本格的な商業生産と日本内外での事業展開に乗り出している。
ウニノミクスの取り組みは、国連が海洋生態系を守り、持続可能な開発を進めるための「国連海洋科学の10年」の活動の中で模範的なイノベーションとして推薦を受けた。営利組織として国連の公式推薦を受けたのは同社が3社目だ。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:Urchinomics YouTube Channel
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