AI医療機器が「熟練医の目」で画像診断

医療ひっ迫を緩和、救急現場の負担軽減も

3月 10, 2023
by yui sawada
  AI医療機器が「熟練医の目」で画像診断
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J-STORIES - 新型コロナウイルスの感染拡大などでひっ迫する医療現場への支援策として、検査、診断の精度向上やスピードアップを実現するAI(人工知能)技術に期待が広がっている。コロナとの「ツインデミック(感染の同時拡大)」が懸念されるインフルエンザの診断支援システムにこのほど保険適用が認められたほか、救急医療現場での全身CT診断を迅速化する装置などの開発も進んでいる。
昨年12月に保険適用となったインフルエンザ検査システム「nodoca」を開発したのは、2017年に創業した医療技術スタートアップのアイリス(東京都千代田区、沖山 翔代表)。同システムは独自開発のカメラで撮影した咽頭の画像と体温や自覚症状などとともに解析、インフルエンザに特徴的な症状などを素早く検出する。
インフルエンザ感染の特徴である咽頭のリンパ濾胞(ろほう)は識別が難しいと言われるが、nodocaのカメラは50万枚以上の咽頭画像データベースを元に構築されたAIを搭載しており、これまで10分〜20分程度かかっていた検査結果を数秒〜数十秒で表示する。従来の検査のように鼻の中に綿棒を入れ粘膜を採取する必要はなく、患者の負担も軽減できるという。
アイリスが開発したnodoca(左)を使った検査写真(右)。咽頭画像と体温や自覚症状等をAIが解析することで、インフルエンザに特徴的な所見や症状等を検出する。&nbsp; &nbsp; &nbsp;アイリスHPより<br>
アイリスが開発したnodoca(左)を使った検査写真(右)。咽頭画像と体温や自覚症状等をAIが解析することで、インフルエンザに特徴的な所見や症状等を検出する。     アイリスHPより
AI医療に詳しい岡本将輝・ハーバード大学医学部講師は今年2月に「時事メディカル」に掲載した記事の中で、同システムについて、「熟練医の目をAI技術として再構築」し、「従来検査の欠点を克服し得る新しい検査オプション」であると紹介。「ツインデミックに伴う(医療現場の)高負荷を軽減するための有効な施策の一つとなる可能性が高い」としている。
アイリスがめざしているのは、AI技術が再現する専門医の熟練技を世界中が共有できる医療の姿だ。救急救命医としての経験も持つ同社代表の沖山さんは同社のウェブサイトの中で、医療ジェネラリストである救急救命医として様々な病気に対応したとしながらも、専門医ならば救えたかもしれない患者もいた、と振り返り、AI活用による診断力強化の必要性を指摘している。
ERATSが診断する全身CTの画像。現役の救命医であり医療AI開発が専門の岡田代表と、AI開発と実装経験があるプロジェクトメンバーが、現場の医師とともに複数臓器の評価モデルを開発している。&nbsp; &nbsp; &nbsp;fcuroHPより<br>
ERATSが診断する全身CTの画像。現役の救命医であり医療AI開発が専門の岡田代表と、AI開発と実装経験があるプロジェクトメンバーが、現場の医師とともに複数臓器の評価モデルを開発している。     fcuroHPより
「防ぎうる死をなくす」。現役の救急救命医である岡田直己さんが代表を務めるスタートアップfcuro(本社:大阪市)は、一分一秒が生死を分ける救急医療を支援する新しいAIシステムの社会実装を進めている。
同社が開発した「ERATS(ER Automated Triage System)」は、肉眼で行っている外傷患者の全身CT検査結果の確認作業をAI技術で自動化。これまで数分を要していた重症度の判定時間を数十秒に短縮し、救急現場の作業負担を大きく軽減するなどの効果が期待されている。
ERATSは2025年から医療機器として正式販売される予定。同社はさらに、日本国内の救急現場向けに最適化した新型コロナの診断AIなどの開発プロジェクトにも取り組んでいる。
岡田さんは今年3月に行った講演の中で、「専門家不在の病院に運び込まれても全員が助かる」医療の実現を目指したいと話している。
記事:澤田祐衣 編集:北松克朗
トップ写真:Envato 提供
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