J-STORIES ― 日本が世界に先駆けて売り出した電動アシスト自転車は、市場デビューから31年が過ぎ、経済産業省の統計によると、2022年の国内販売台数は79万5千台と初めて一般の自転車を上回った。健康志向や、脱炭素社会の乗り物として、欧州を中心に世界でも販売を増やしており、2030年までに電動自転車の市場規模は732億ドルに達するという民間会社のレポートもある。
こうした中、「バッテリーを充電せずに」使い続けることができる電動アシスト自転車が開発され、新たな商品化への準備が進められている。
外部電源で充電することなく、バッテリーが劣化するまで、ずっと使い続けられる
電動アシスト自転車「Smart E-bike」を開発したのは、日本のスタートアップ企業のハロースペース(岩下卓利 代表)。
この自転車は独自開発した技術で、磁石の特性を利用したドライブアシスト(運転支援)機能を使いながら、同時に発電することで、バッテリーの充電が可能だ。エコモードであれば、外部電源で充電することなく、バッテリーが劣化するまで、ずっと使い続けることができる。発電された電気は、自転車の走行だけでなく、停電時の非常用電源としても使えるという。
電動アシスト自転車や電気自動車(EV:Electric Vehicle) は、バッテリーがなお高価で、製造コストの大半を占めている。さらに充電に長時間が必要なこと、充電スタンドの整備が遅れていることも、利用拡大に向けてのハードルになってきた。
電動アシスト自転車が搭載している、電気エネルギーの回生ドライブシステムは、減速時に運動エネルギーを電気エネルギーに換えてバッテリーに戻し、再利用する仕組みが一般的だ。しかし、発電量としては少なく、十分に充電できないという課題もあった。
これに対し、ハロースペースの独自技術「Mag Drive System」は、減速時だけでなく、加速の際や惰性走行時にも発電し、エネルギー効率を上げることを可能にした。超電導技術によって磁気抵抗と電気抵抗の2つの抵抗を極限まで抑え、バッテリーの寿命を持たせることができ、例えば、坂道を上っている時にも充電が可能だ。
「発電する電気と消費する電気のバランスが重要で、坂道であれば消費する電気が大きく、平坦な道の場合は発電する量が大きくなる。新システムは(どのような走行でも発電できるので)バッテリーを外して充電する必要はない」(岩下氏)。
既存のインフラに頼らない新エネルギーを。開発のきっかけは、東日本大震災
同社によると、この新技術は自転車だけではなく、車、船、宇宙船などあらゆる電動モビリティにも応用が可能だという。この新技術を岩下氏が考え出すきっかけとなったのは、石油元売り関連の総合商社に勤務していた時に、経験した東日本大震災の教訓だった。当時、製油所の爆発事故への対応に追われた岩下氏は、「現存のインフラに頼らず、新エネルギーの技術革新をめざして起業しよう」と決意したという。
完全な超電導システムではなく、まずは自転車で新技術の社会実装を
新技術の開発に大きな役割を果たしているのは、岩下さんと一緒に会社を立ち上げたフィリピン出身のチーフエンジニア、ラファエル・ジョジョ・サイモン氏だ。
サイモン氏は「完全な超電導システム(という大きな計画)ではなく、まずは自転車という身近な乗り物に新技術社会実装をして開発してみないか」と提案。新会社は、熊本県次世代ベンチャー創出支援コンソーシアムの助成金を受けて動き出し、試行錯誤を重ねながら、新システムの実用化にめどをつけた。
岩下氏は「バッテリーの容量もより小さくし、製造コストも下げることができれば、最終的には、販売価格も下がる。それが社会全体のEVへのシフトの後押しになればと考えている」と話す。
将来的には、Smart E-bikeの運動エネルギーを電気とカーボンクレジットに変換
同社は、2024年後半から実証実験を始め、日本、アメリカ、インドにおいて各国100台の「Smart E-bike」を使用した実証実験を行っていく方針だ。2025年までには社会実装を目指す段階。開発は日本だけではなく、インドやタイ、台湾の企業と連携して進めている、としている。
将来的には、Smart E-bikeの運動エネルギーを電気とカーボンクレジット(CO2など温室ガスの排出削減量を主に企業間で売買可能にする仕組み)に変換、生み出した電気で仮想通貨をマイニングしたり、自転車をシェア産業として展開し、発電機能を集約していく構想もあるという。
シェア産業構想について、同社は「Smart E-bike Station」というプラットフォームを作り、自転車だけでなく、プロペラを使わない風力発電、超電導のソーラー発電のほか、フィットネスを利用した人力発電、これらによる駅ビルへの給電などの実現をめざしている。
Smart E-bikeを始めとする同社の活動は、大手企業がパートナーとして支援するビジネスアワード「エコテックグランプリ」において、「外部充電不要の自家発電型電動モビリティの開発」として評価され、2022年の「JR東日本賞」を受賞した。
2025年には、一般の自転車にも装着可能な発電・蓄電ユニット「MagDrive for E-bike」、フィットネスバイクに備え付け、非常時やイベントの際にも発電器として使える「Smart Aerobike」、電動スクーター用の発電・蓄電ユニット「Mag Drive for E-scooter」、電動バイク用の「Mag Drive for E-motorbike」などの商品展開もめざしている。
記事:石井広子 編集:北松克朗
トップ写真: ハロースペース提供
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私はレンタルサイクルで昔ながらの普通の自転車で駅まで行ってる。通勤の際、一生懸命に漕いでいる電動自転車をよく見かけるが、そんなに頑張らないと走らないモノなのだろうか?私は少し加速したら、漕ぐ足を止めて惰性で走ってる。それでも一生懸命漕いでる電動自転車に10秒間程度はついて行ける。少し離されれば、3・...もっと読む